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「黒い何か」2

 「聞いた話には、テメーは今みたいな野心家で好戦的な性格じゃなかったそうだな?野心というよりも探求心が強い?ような男だったと。竜人や獣人、亜人たちの生態・戦闘法何にでも興味を持つだけの奴だったと。

 それが今はどうだ?全種族根絶やしにするだの、世界を支配するだの、随分と悪の帝王様的なキャラになってんじゃねーか。百年以上も経つとそういう心変わりが起きるものなのか?」


 修行中エルザレスから聞いた魔人族の話は、主にザイートのことについてだった。いちばん遭遇して何度も戦った魔人族だったからか、奴について色々知れていたのだろう。魔人族が脅威とは言っていたが、それは奴ら全員ではなく、当時の奴らの長であった魔人の王にのみ向けられたものだったらしい。昔のザイート含む他の奴らは、そこまで世界征服にお熱ではなかったとのこと。

 だがエルザレスの言ったことと今のこいつらを見ると矛盾している。今では全員が全てを壊そうとしていて、世界を魔人族のものにしようとしている。これも、魔石の性だというのだろうか?もしエルザレスがここにいれば、何か気付いたかもしれないな。


 「ふん、奴め……そんなことを話していたのか。悪いがお前の問いに詳しく応じる気はない。まぁ心変わりしたというのは、否定しないが。

 “特別な力を手にしたから変わってしまった” というのは、お前にも通じるところがあるだろう?強くなった時には、俺はこの世界を潰してモノにしたいという衝動に駆られていたんだ...それだけさ」


 本当にそれだけか?いやそうじゃない。今日こいつと直接戦った俺だから分かる。こいつには「何か」が……………


 「最期に、教えて欲しいことがある......お前がいた世界についてだ。どんなところ、なんだ……?」


 思案しているとザイートからそんなことを聞かれる。何にでも興味を持つという根本的なものは変わらずってところか。百年以上経ってもその好奇心旺盛な性分は消えてねーみたいだ。

 ザイートはもう今にも死にそうだ。生命の火とやらも消えかけている。疑問はまだ解消されてねーけどとりあえず答えてやろう。



 「ここと違って魔力という概念が無い、当然魔法や魔術も無い。魔物もいない…というか知性ある生物は人間…テメーらが言う人族だけだ。剣や火器を用いて争ったりもしない。ここよりも娯楽が豊富で退屈もしない。平和で楽しい。でも俺にとって嫌な人間が比較的多い、クソッタレな世界でもある!」



 俺は楽しそうに、しかしどこか嫌そうにそう答えてやった。


 「そうか......それは、また興味深い世界、だな...ククク」


 ザイートは満足気に笑って納得した。...もうそろそろ、こいつの命の灯が消えるな。ここまでか。


 「……………本当の最後になるからせっかく、だ……。

 お前には一つ嘘をついて、しまっている」


 ザイートは死が間近だからか苦しそうにしている。しかし先程までの笑みを消して真剣に言う。


 「俺の、中…には………俺じゃない、“何か”が…微かだが、その存在を、感じ―――」



 ≪―――フム。ザイートももはやこれまでか。ならばこの器からもう出て行くとするか≫



 ―――ザイートの言葉を遮って、「何か」の声が響いた。


 「は………?」


 予想だにしないことに俺は思考を停止してしまった。そうしているうちにザイートの体に異変が生じる。体の中心に黒い「何か」が集っていき、結晶のように形づくっていく。


 ≪カイダコウガ。お前には大いに楽しませてもらった。進化の境地に達したザイートによくぞ勝利した。

 だがまだ足りない。やはり観てるだけは足りないというわけだ。

 では次の戦場でぞ。その時こそ本当の戦をしようではないか―――≫


 黒い「何か」からの声なのか。何言か話しかけてきた後に、それはザイートの体から離れていき、俺がやっと動いた頃には空気に溶けるように消えていった……。


 「………!?おいザイート、今のがテメーが言った、テメーの中にいた“何か”ってやつか!?」


 ザイートに話しかけるが反応が無い。心臓は止まっており意識は完全に無い。戻ってくることは二度と無いだろう。奴はもう死んだのだ……。

 しかし脳はまだ生きている。人の本当の死…脳死にはまだ至っていない。


 「だったらせめて、その力を俺に寄越せ―――」


 “過剰略奪オーバードーズ


 ゾンビの特殊技能「過剰略奪」でザイートの経験値と固有技能を奪いにかかる。瞬きした時には、ザイートの体は無くなっていた。それくらい早く奴を捕食したのだ。


 魔人族の族長…戦士「序列一位」の男を、討ち取った瞬間だった。この世界を脅かし続けていた魔人族の総大将を、日本という異世界の国から召喚されたけど一度死んでゾンビという異次元の力を得て復活したイレギュラーの男子高校生…俺が討ち取ったのだ。

 しかし、これで終わったなどと微塵も思うことはなかった。できなかった……。


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