八俣の衝撃的な切り札の提示に誰もが驚愕した。
「魔石って……魔人族を今の恐ろしく強い怪物につくりあげたという元凶、人族にも魔族にも有害とされている瘴気の素でもある、あの……!?」
ミーシャは震える指で円卓の大テーブルに置かれた魔石を指して言う。八俣が取り出した最凶の幻の鉱物…「魔石」。魔人族を現状の奴らにたらしめた全ての元凶であり、
(それと……俺がゾンビになったことにも関係ある鉱石でもある………)
瘴気が充満していた地底で一度死んだ後ゾンビとして復活した俺だけど、その原因にこの魔石が無関係だとは思えない。今にして思えばこの鉱石について知らないことがまだ多い。
それはそうと、人体に害しか為さないであろう魔石を、八俣は何故提示してきたのか。
「数か月前、自己鍛錬していた時のことだ。自国の管轄内にある洞窟の地底近くでこいつを見つけて拾った」
それともう一つ……と八俣は懐から魔石の破片らしきものも取り出してテーブルに並べる。
「大戦一日目に討伐した魔人族の遺体にこの魔石の破片が埋まってたんで、こっそり採取しておいた。
聞くところによれば魔石を取り込むことで異次元の力を得るそうだな。ただし死のリスクがつくようで、魔人族の中にはそのリスクで命を落とした奴が昔大勢いたらしい。まぁ要するにこれは更なる力を得られるアイテムってところだ。
そしてこれは魔人族だけを強くさせるものではあるまい?他の魔族にも適応されるはずだし、当然...俺たち人族も強くしてくれるはずだ」
「ヤマタ殿、まさか...!?」
ガビルの問いかけに八俣は頷くと、彼の意図してることを告げる。
「この魔石を使って俺たちの大幅な強化を図る。この方法以外でこれ以上強くなれる術も残る“序列”級の魔人族に対抗できる術ももう無いだろう。“限定強化”を持たないこの世界の兵士・戦士・冒険者たちなら尚更な」
「ですが!コウガさんが討伐してくれたザイートが言ったことには、ヤマタさんがさっき仰った通り魔石の摂取には大きな…それこそ死のリスクがつくそうです!魔人族ですら耐え切れず死に至る程の恐ろしく強い副作用が発生すると……。そんな物を連合国軍の皆さんに取り込ませるのはあまりに危険では……!?」
ミーシャがザイートが話していた過去の事例を述べて八俣に意見する。それを聞いた藤原や高園たちは戦慄する。
「早とちりだミーシャ殿下。そんな危ない賭けなど今はさせない。ちゃんと考えはある。
この魔石を砕いて粉末状にしたものを回復薬と一緒に摂取する。それだけでも十分な強化が可能だ。この俺が実証済みだ。
ただし長い時間の魔石強化は止めた方が良い。時間を限定させる必要がある。切りのいいところで強化を解く必要がある。そのやり方は連合国軍全てに魔石を配った後に話すとして――」
「ま、待って下さい!ヤマタさん試したのですか、魔石による強化を!?そんな危険を、誰にも相談しないで冒していたのですか!?」
八俣の言葉を遮ったクィンが、焦った様子で八俣に詰め寄って聞きだす。だが当の本人はあっけらかんとした態度のままだ。
「誰かが試さねば、こんな超強化方法は見つからなかった。それに魔石の副作用に耐え得る強い奴が最初に試さないとならない。それは俺以外に相応しい奴はいるまい?
それよかこれくらいのリスクを踏まなければ、次の大戦…俺たちが負けるぞ?」
八俣の有無を言わさない発言に、誰も反論できずにいた。全部彼の言う通りだと認めているからだ。俺も同意見だ。彼の体を張った実験無くしてはこの事実に辿り着けなかっただろうしな。
「致死レベルの副作用が発症しない程度の量で摂取しろ。そしてこれは限定的な強化に過ぎない。使いどころは各自で判断して、くれぐれも長時間の使用は控えろ。人によっては能力値を数十倍、数百倍にも跳ね上げられることができ、身体能力も魔法攻撃も大幅に強化できる。
それと魔石強化の解除法だが……魔力の熾しと同じだ。体にある魔石を体外に排出すれば良い。意識すれば簡単に出来る」
魔石強化とその解除の方法を八俣が丁寧に説明するのを全員が聞く。それが終わると八俣は力強く、
「勝つぞ。この世界を魔人族の好きにはさせてはならない…!」
俺やみんなに力強くそう言った。彼らしくない感情がこもった声に誰もが意外に思ったもののすぐに盛大に沸いて同意した。
こうして新生連合国軍の最初の会合からの軍議は終わり、来る三日後の世界大戦に備えて各自休み、準備に取り掛かることになった。カミラはミーシャと共に軍略を練るとのことで王宮に泊まることになった。世界最高峰の軍略家が二人揃ったんだ、それは凄い軍略ができるんだろうなと期待せずにはいられない。
俺はアレンだけ連れて里に帰ることにする。そこにクィン、藤原、高園が見送りのつもりか近づいてくる。
「甲斐田君、連合国軍に入ってくれてありがとう。本当に嬉しく思うわ、一緒に戦えることになれて」
「布陣が一緒とは限らないけどな。まぁ一緒になったらその時はよろしく。クィンも、高園もな」
「はい!魔石でどれだけ強くなれるかは分かりませんが、今度こそコウガさんと並んで戦えると思うと、何だか嬉しく思います!今まで守ってばかりでしたから……私のこと頼って下さいね!」
「皇雅君、次の大戦も勝とうね。今度は私も一緒に……!」
藤原は俺をまるで成長した生徒を嬉しそうにみる先生の目をしていて(つーか元々先生だしな)、クィンは自分を頼って欲しいと胸を張って答えて、高園は何か決意した様子で答えた。
「アレンさんは、鬼族の仲間と共に復讐するのでしたよね……魔人族に」
「ん。でも戦う理由は復讐だけじゃない。仲間と里を守る為にもあの魔人族と戦う。もちろん誰も死ぬことなく勝ってみせる」
「私はこの王国を守るべくきっとこの近くの戦場でしか戦えないのであなたの助太刀には行けないことでしょう。ですから、必ず勝って生き残って下さい!」
「ん。クィンも生き残って」
二人は握手と軽いハグを交わした。アレンがコウガもする?って振るとクィンと何故か高園まで慌てた反応を見せた。
挨拶が済んだところでワープアイテムを起動して俺とアレンは一瞬で里に帰ってきた。旅仲間の鬼たちとしばらく里にいるらしいドリュウにさっきまでの内容をかいつまんで説明する。
鬼族にとってやることは変わらない。この里に襲い来る魔人族軍を殲滅して、仇であるネルギガルドを殺す、それだけだ。
(俺はというと明日から連合国軍の軍議に出ねーといけなくなったくらいか。敵は変わらず魔人族。今までと変わらず、元の世界に帰る邪魔をするあいつらを全部殺せば良い。
その為の戦いも最後になるかもな…)
*
皇雅がワープアイテムを起動してアレンと一緒に瞬間移動した直後のこと。
「……………」
皇雅のクラスメイトだった男子高校生…堂丸勇也は、美羽とクィン、そして縁佳がいる離れたところから皇雅とアレンがさっきまでいた空間を凝視した後に縁佳たちのところへ目を向ける。正確には縁佳一人に向けて…だ。
(甲斐田の奴……今じゃすっかり連合国軍の要になってやがる。まぁあれだけ強ければそうなるよな。それに以前とは別人と思えるレベルで変わっていたし。強さもそうだけど、性格…中身っていうか?)
いなくなった皇雅について評価をする。かつての彼は協調性が無くクラスの中では腫れ物・気に入らない存在…というのが堂丸にとっての評価だった。
それが今では皇雅自ら「頼らせてほしい」などと言って連合国軍と一緒に戦わせてほしいと言うようになったのだ。堂丸はもちろん、ここにいる縁佳や他のクラスメイトたちにとっても驚くべき変化だった。
(本当に何だってんだよあいつ……半年前サント王国で再会した時までのあいつはどこへいったんだ?嫌な奴じゃなくなってんじゃねーか。
俺のことも頼るとか言わなかったか?俺よりはるかに強いお前が?)
縁佳を見る。彼女は美羽とクィンと談笑している。話の内容は聞こえないが件の皇雅のことで話しているのだろう。縁佳の顔は実に楽しそうで嬉しそうだった。
(高園のその笑顔の先は……甲斐田の奴に向けられてんだよな。彼女はやっぱりあいつのことが………)
しばらくしてから堂丸は一人で部屋に戻り、疲れた体を癒すべくもう寝ることにした。ベッドに体を預けると睡魔が襲ってくる。それに抗うことなく落ちようとしたところで、ふと昔のことを思い出す―――