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「予告」

 堂丸勇也が高園縁佳のことを意識するようになったのは、高校二年生に進級して彼女と同じクラスになってすぐのことだった。

 はじめはその見た目に惚れただけだった。そこから月日を重ねていくごとに縁佳の内面にも惚れていった。しかし恋愛経験が皆無の堂丸は縁佳に告白することが出来なかった。

 さらに彼はクラスのある男子生徒のことを嫌うようになった。縁佳がよりにもよってその男子生徒のことを気にかけてばかりだったからだ。

 そうして告白出来ないまま三年生へと進級した。


 (今年、サッカー部は全国予選の地方大会へ勝ち進めたんだ!ここで勝ち残れば全国だぜ!いやー俺らの代はこの学校歴代でかなり強いって監督が褒めてくれてさ~)

 (そうなんだ、今年のサッカー部は凄いね!こないだの県大会決勝だって、堂丸君が二回も得点を決めていたよね?小林君と里中君との連携も凄かったよ。私サッカーはよく分からないけど、あの時は凄かったって思ったなー。)

 (ほ、本当か!?あの決勝戦で勝てたのはもちろん小林と里中あいつらの力のお陰もあるけど、た、高園が応援に来てくれたお陰だってあるんだぜ!?そうだ!高園の試合っていつだよ?今度は俺が応援しに行くからさ、教えてくれよ!)

 (本当?ありがとう。えっとね、次の試合は夏休みの――)


 春が終わろうとしていたある日、堂丸と縁佳はそんな話をしていた。先日行われた決勝試合に縁佳が見に来て応援してくれたことが、試合で勝ったことと同じくらい嬉しくて励みとなった。サッカーを今まで頑張ってきて良かったと、堂丸はあの時そう思ったくらいだった。

 自分に対する好感度も悪くないようだし、これは告白するチャンスかもしれない! と堂丸はとうとう告白に踏み出そうと思うようになった。


 (けどいつにしようか?今は高園も全国大会に向けて弓道にとても真剣に打ち込んでるし。それに夏が終わってからは受験勉強もあるだろうからそれも邪魔したくないし……)


 ここに来て臆しようとした堂丸に、


 (お前まだ高園に告白してねーのかよ?いい加減動かねーとマジで誰かにとられるぞー?須藤あたりとか怪しいぞ。あいつ最近は高園ありだなーって大西とかに話してたの聞いたし)

 (この際結果とか恐れずに告っちゃいな!そうやって引きずってると次の大事な試合でのプレーに影響出るかもしれないだろ?俺たちの最強連携が崩れでもしたら初戦敗退だってあり得るんだからな?俺たちがお膳立てしてやっから、いけよ!!)


 里中優斗と小林大記……二人の戦友が彼の背中を押した。


 (お前ら...そうだな。ウジウジしててもしょうがねぇ。いっそ全部吐き出してスッキリしよう!そんで部活も恋も充実してやるぞー!!)

 (なに告白成功したことにしてんだよ馬鹿!でもその意気だ頑張れ!!)


 バシンと背を叩いて激励する里中と小林。彼らの存在がこれほどありがたいと思ったことはない。生涯のダチだと堂丸は思わずにはいられなかった。


 その数日後に堂丸は告白しようと縁佳に話を持ち掛けようとしたのだが……


 (―――それでね、勇気を出して私が出る試合の日を教えることが出来たの!行くかどうかの返事は聞けなかったけど、何というか、悪くない反応だったと思う…!)

 (そうなんだ。あの人来てくれたら良いね)

 (縁佳も物好きっていうか……あいつのことまだ諦めてなかったのね)

 (うん。やっぱり和解したいって思ってるから……。もし試合会場に来てくれたらその時ちゃんと話したいなぁ)


 縁佳の心から楽しそうで嬉しそうに話している様を見て、話に踏み込めなかった。彼女が誰についてあんなに笑顔で話しているのかはすぐに分かった。


 (甲斐田……また、あの野郎か………っ)


 堂丸が嫌っていた男子生徒…甲斐田皇雅のことだと確信してしまった堂丸の中に嫉妬、皇雅に対する嫌悪感が増長していく。二年生の秋頃に起きた事件をきっかけに皇雅はクラスで完全に孤立してしまった。その前から堂丸は彼のことを嫌っていた。理由は縁佳が彼のことを気にかけていたからである。

 気にかけていた理由が恋愛的な意味かどうかはその時はまだ分からないでいたが、今の縁佳の様子を見るからにきっとそうなのだろうと推測してしまった。


 (クラスのみんなと協力しない、それどころか俺たちを敵としてしか見ないようなあんな奴が、どうして高園に……っ)


 皇雅に対して怒りが募る堂丸だが、彼に直接攻撃することはしなかった。大西や須藤たちみたいに陰湿な嫌がらせをすることもしなかった。それをしたことで痛い目見るのは自分だと分かっていたからだ。大西や須藤たち、一年生の時皇雅に復讐しようとした里中・小林と同じ様な報復に遭うのを恐れた堂丸は、皇雅のことを徹底的に避けることしか出来なかった。


 夏に入ろうとしたある時、堂丸たち3年7組のクラス全員が異世界に召喚された。自分たちが特別な力を手にしたと同時に皇雅だけがみんなよりはるかに劣っていることを知った堂丸は大いに喜んだ。さらに大西たちが好機とばかりに皇雅を痛めつけているところを見た時、彼の心に魔が差した。


 (今なら示せるんじゃないか?俺があいつより勝っていることを。俺が強くて優れているってことを………)


 そして堂丸も大西たちに混ざって皇雅を虐げた。しかしその後彼はさらなる惨めな気分にさらされることになる。縁佳が傷ついた皇雅に寄り添い、悪者を見るような目で大西たち、そして堂丸自身をも見てきたのだ。


 (俺は……何でこんなことを。こんなことしても高園は俺を見てくれない…。自分の価値を下げてるだけじゃねーか…)


 そんな軽い自己嫌悪に陥ってから数日後、最初の実戦訓練の日がくる。その中で皇雅がモンストールと一緒に地下深くへ落ちるという事態が発生した。自分たちが助かる為に彼を生贄とした結果だ。


 (高園……あんなに悲しんでいる。やっぱり甲斐田のことが………)


 放心して悲しみを表している縁佳を見た堂丸はさらに暗い気持ちにさらされた。


 (でも、あいつがいなくなってくれたことでこれからは俺の方に目を向けてくれるチャンスがくるはず…。今までのこと何とか挽回してやる…!)


 しかし縁佳はしばらく皇雅のことを諦めなかった。ようやく彼の捜索を諦めた……そのタイミングで、彼が地下深くから生還していたという知らせを聞いた。

 皇雅は地底で死んでゾンビとして復活していた。さらにチートと呼ぶべきくらいの強大な力を手にしていた。そしてそんな力を持ちながらクラスメイトたちをわざと助けず見殺しにしたことも、サント王国で聞いた。


 (やっぱりこんな奴が高園に好かれてるとか認められるか!!絶対に振り向かせてやる!高園の男に相応しいのは俺だ!!)


 怒りに任せて突っ込んでいくも返り討ちに遭いズタボロにされた。サント王国で再会したばかりの皇雅に対する印象は以前と変わらず最悪だった。しかしその後に命じられたカイドウ王国への潜入調査で、彼に対する印象は少し変わった。


 (あいつが、誰かを守る為に戦ってるだって……?)


 恐ろしく強い魔人族と真正面から立ち向かって戦う皇雅。彼のお陰で自分たちも死なずに済んだこと。再会した直後では気付けなかったけど、彼に少しは変化があったのだと気付いた。



 そして今―――


 (あの野郎が里中と小林を、クラスのみんなを見殺しにしたことは今でも赦しちゃいねー。嫌いな奴だ。

 でも、あの野郎もこの世界を守る為に戦おうとしている。それは高園を守ることにも繋がる……。だったら嫌いなあの野郎…甲斐田とだって組んでやる)


 回想を終えた堂丸は、まどろみの中でそう決意した。


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