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「名前呼び」

 「後はヴェルド、そしてバルガか。一つ俺が懸念していることがある。今まで見たことない属性魔法を見たんだ」


 全員が俺に注目する中で続きを話す。


 「里にヴェルドが攻めてきた時、奴を追い詰めたところに奴を回収すべく黒い渦が現れた。

 闇属性かと思ったけどどこか違うって感じた。それに……に触れたらヤバい……そう感じさせられた。もし触れたら俺の存在が消えるんじゃねーかって、ゾンビ…不死のこの体であろうと関係無く滅ぼされるんじゃねーかって、何となく思わされたんだ」


 俺が深刻そうに話したからか誰もが戦慄した様子で聞いていた。そこに八俣が確信した様子でこんなことを言ってくる。


 「その属性……“滅魔法”ではないのか?」

 「………滅魔法だって?」


 八俣が言った「滅魔法」という単語に反応する。


 「……昔聞いたことがある。闇魔法から暗黒魔法、そのさらに上があったという逸話を。しかし百年、いやそれ以上昔もそんな属性魔法を目にした者はいない、存在しない属性魔法とされていた」


 ガビル国王が思い出したようにそんな話をする。存在しない属性魔法、か……。


 「お前が見た黒い渦、それは“魔神”バルガが使ったんだろうな。実際奴はそれを使っていた。百数年前、俺を含む初代の異世界召喚組が奴と戦った時に“それ”を見た。仲間が数人その“滅魔法”に殺された」

 「そう、であったのか……」


 八俣の実体験の話にガビルたちは再び戦慄する。俺もその話を聞いて体に緊張が走った。


 「そして滅魔法に対抗するにはその対となる属性魔法しかない。

 それは“聖魔法”だ」


 続く八俣の言葉に俺たちは驚かずにはいられなかった。


 「今度は聖属性の魔法だって?そんなものが存在してたのか」

 「滅属性と同じこの時代では存在すら知られていない属性だ。俺も聖魔法をこの目で見たのは一度だけ……俺の仲間の一人がそれに覚醒した時だ。その属性魔法でバルガを殺していたな」


 八俣によってまた一つ、百年以上前の逸話を聞かされて、みんな呆気にとられていた。


 「………それで、その聖魔法を発現できている奴はこの世にいないよな?これってまずいことなんじゃねーか?」

 「そうでもないぞ。その聖魔法の発現に差し掛かっている人物はこの中にいる」


 八俣はそう答えると視線を藤原に移してジッと見つめた。


 「藤原美羽、お前が今最も聖魔法の発現し得る者だ」

 「わ、私ですか!?」


 突然指名された藤原はびっくりしていた。その中で俺はそうかと気付く。


 「言われてみれば、あんたにはその兆しがあるじゃねーか。この世界で初めて創り出した、モンストールや死霊系の生物に特効の水……“聖水”それって“聖魔法”なんじゃねーのか?」

 「そ、そうなのかな……?」


 藤原はよく分からないといったリアクションのままだった。周りの奴らは藤原を救世主を見る目を向けていた。実際藤原は次の戦いの大きなカギになり得るかもな。「聖水」は他に中西もつくれるようだけどあいつは弱いからダメだ。戦闘力も心もな。


 「あんたは聖魔法は使えないのか?」

 「残念だが使えない。この刀で斬るくらいしか出来ない」


 八俣は腰に差してある刀の柄に手を乗せながら答えるだけだった。


 「………まぁ、次の戦い、どうにかできるかもしれないってところか。魔石の強化もあるようだし。俺は魔石で強化はできないけどな」


 俺だけが魔石で強くはなれなかった。元々瘴気の中で復活した身だから、それが原因なのかもしれない。


 「仮に魔石でも厳しいなら、リスク無しでみんなを強くできる方法が実はあるぞ。俺の固有技能を使えば」

 「そうなのですか!?その方法とは……」


 クィンに詰め寄られながら聞かれる。彼女を落ち着かせながらそのやり方を教える。全部教えるとみんなの目に活気、希望の火が灯って見えてきた。

 これでようやく話がまとまってきた。


 「あとは大戦当日、二人の軍略家にその都度優れた指示を出してもらえばいいか。頼りにしてるぞカミラ。それとお姫さんも」

 「ええ、コウガ!一緒に戦いましょう!」

 「.........」


 カミラは返事してくれたが、ミーシャからは返答がなかった。軍議が終わった後もミーシャはどこかそわそわしていた。


 「何か気になることがあるのか?」

 「は、はい、あります!その…軍略とは関係無いことなのですが。こんな時にこんなことを頼むのも何ですが、今くらいしか機会は無さそうなので……」


 ミーシャは深呼吸をすると俺をまっすぐ見つめたまま、


 「コウガさん、私のことは“お姫さん”ではなくミーシャと呼んで下さい!」

 「............え?そんなこと?こだわる必要――」

 「お願いします!」


 なんかグイグイくるなぁ……。どうしても呼んでほしそうに見える。希望通り呼んでやることで彼女の士気が上がって頭のキレが冴えてくれるならまぁ呼んでやるか……。


 「臨機応変に頼むぜ............

 「……っ。はい!!」


 スゲー嬉しそうに、可愛らしい笑顔で返事するミーシャ。名前呼びくらいで何をそんなに...。

 と思っているところに、袖を掴まれてることに気付き、振り向くと高園が赤面しながら体をもじらせている。


 「何だよ?」

 「あの……私も、名前で呼んでほしい、です」

 「はぁ?お前まで何言ってんだよ?」


 ミーシャに続いて高園まで名前呼びを希望してきたぞ?俺がうんざりした調子でいると、


 「呼んであげて、甲斐田君」


 藤原が圧をかけてきた。


 「何であんたが強要してくんだよ?」

 「何でも、よ」


 笑顔のままそう答える藤原にまたうんざりする。


 「呼んであげて、甲斐田」

 「そうだ呼んでやれよ。高園がそうして欲しいって言ってんだから」


 続いて曽根も、何故か堂丸まで名前呼びをさせようとしてくる(堂丸は悔しそうな顔をしていたが)。米田も小声で呼んであげて下さいって言ってやがる。そして高園本人は気まずそうにそわそわしている。


 「あ、あの。嫌なら別に今まで通り苗字でも………」

 「二日後の大戦は同じ戦場で戦うことになると思う。狙撃での援護頼むぞ、

 「っ!皇雅君...!うん、今度こそ一緒に!」


 高園……縁佳も同じく満面の笑顔で返事した。


 「だったら私は美羽先生って呼んでもらおうかなぁ?」

 「何がだったらだ。あんたは今まで通りで良いだろ」

 「よくないよ!大体君は藤原っていつも呼び捨てにして!私はあなたの副担任の先生なんだよ?」

 「元、だ。俺はもうクラスの一員じゃねー」


 そこからはよく分からない言い合いになった。そんな俺たちをクィンは呆れながらも微笑ましく見る目をしていた気がした。3年7組……今はもう僅かしかいなくなったけどこんなに話をしたのは今日が初めてだったな…。

 そしてこんな話をするのはこれが最初で最後になるだろう、と俺は心の底で思った。



                 *


 そして、時が戻り、皇雅たちはいよいよ新生魔人族軍と戦う―――

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