どうしてこの存在を忘れていたのでしょう。ということは、この無限階段がペンダントを使うにふさわしい場所。
つまり、〈日食の神殿〉だということの、何よりの証拠です。
「でもこれ、どうやって使うのでしょうか?」
「普通に使うなら、微弱な魔力を流せば動くはずだけど」
とにかくやってみることにしました。
すると三日月のペンダントから細い光が伸びました。
「これはどこを示しているのでしょうか?」
光の伸びる先目掛け、私達は階段を下ります。
しばらく歩くと、ようやく細い光が指し示す場所へ下りました。
「壁?」
細い光はある壁にぶつかっています。
意味も分からず、私は壁に触れてみました。
すると、なんと私の手が壁の中に入っていくではありませんか!?
「え、ええっ!?」
「これは……」
エイリスさんも手を伸ばすと、私と同じように壁の中に入っていきました。
エイリスさんはそのまま壁へ向かって歩いていきます。どんどんめり込み、そして、とうとうエイリスさんの身体は消えてしまいました。
「アメリア、マルファ! 来てみてよ!」
「うお!? びっくりさせんなよ!」
「おっとごめんねマルファ。いやーこんな単純な仕掛けだとは思わなかったよ」
ひとまず私とマルファさんも壁の中に入っていきました。すると、新たな階段があるではないですか。
「この無限階段は下りても下りてもたどり着くことはない。突破方法は隠し通路を見つけることだったんだ」
「じゃ、じゃあ私が見つけたこのペンダントは……!」
「きっと、隠し通路のカギだろうね。魔法で出来た幻の壁と引き合うようになっていたんじゃないかな」
「無限階段に隠し通路か。分かっている奴じゃねーと、ぜってー来ることできねーな」
どれもタネが分かってしまえば単純です。
だからこそ、鉄壁の防御になっているのかもしれません。
私達は階段を下り続けると、鉄扉にたどり着きました。
ここが最深部なのだと、なんとなく分かりました。
「開けるぞ」
扉を開けると、そこは広い空間になっていました。
奥には唯一台座があり、そこには大きな三日月を模した像がありました。
――カサブレードよ。我が力の分体よ。よくぞここまで来ましたね。
「え? 声?」
「どうしたんだいアメリア? 何かあったのかな?」
「声なんて何も聞こえねーぞ」
エイリスさんとマルファさんは何も聞こえていないようです。
私にしか聞こえてなかったということでしょうか。
――ここに来たということは、太陽の魔神が再びこの世界を脅かそうとすることの、何よりの証。
再び声が聞こえました。
ですが、この声も二人が認識することはありませんでした。
――さぁ、おいでなさい。今こそカサブレードに施された
「私、行ってきます。カサブレードの力を解放してきます」
「分かった。アメリア、くれぐれも気をつけてね」
「しくじんじゃねーぞ」
私が駆け足気味に三日月の像まで近づいた、その瞬間です。
「いやー! ありがとう! とうとう辿り着いた! 辿り着いたんだ!!」
私達以外の誰かの声。
皆の視線が入口の方へ向けられます。現れた人間は、私達の知っている人でした。
「ブレネン、さん?」
「やぁ、皆。道案内をしてくれてありがとう。おかげさまで僕の夢が叶いそうだ」
「……ブレネン殿。ここへ何の用かな? ここは、関係者以外立入禁止だ」
「そういう君たちも関係者以外じゃないか。いや、もしかして君だけは違うのかな?」
「……さぁ、どうだろうね」
ブレネンさんがキョロキョロと室内を見回した後、三日月の像へ視線を合わせます。
「あれがカサブレードの力の源か。なるほど、
「ブレネン殿はどこまで知っているのかな?」
エイリスさんは既に臨戦状態でした。マルファさんもすぐに攻撃が出来るように準備をしています。
そこで私はエイリスさんが空いた手で私に合図を送っているのを見ました。
指先は三日月の像へ向けられ、クイクイと動かしています。
行け、というメッセージを受け取った私は、さりげなく近づいていきます。
「全ては分かっていないよ。ただ、カサブレードは太陽の魔神と対を成す月の属性を宿していて、なおかつ
マルファさんは敵意むき出しで聞きました。
「ここを破壊しに来たのか?」
「半分正解。僕は太陽の魔神の指示を受けてここに来た」
「太陽の魔神!? なんということだ。まさか、城にまで太陽の魔神の手先がいたなんて」
コツコツと足音を立て、ブレネンさんはその場をくるくると回ります。
「だけどまぁ、僕はすぐにここを破壊する気はないよ。アメリア。君がカサブレードの力を解放させられないのなら、すぐに破壊するけど」
「!? 私がカサブレードの使い手だと知っていたんですか!?」
「当たり前じゃないか! カサブレードが放つ波動は特有のものだからね。僕のようなマニアならすぐに気づくさ」
すると、ブレネンさんは私の胸元を指さします。
「備蓄庫に落としておいたあのペンダント、役に立って良かったね」
「あれはブレネンさんが!? じゃあ、最初から私達の目的が分かっていたのですか!?」
「僕は一応、司書ということになっているからね。あまり、目立つことは出来なかったし、あのペンダントもいくら起動させようとしても反応しなかったんだ」
「だから、わたしらに代わりをさせたってことか」
「そういうことさ。理解が早くて助かるよ」
ブレネンさんの目的が分かりません。
太陽の魔神の手先で、破壊する気持ちが少しでもあるのなら、すぐにでもやるべきです。
ですが、やらない理由は……?
「あぁ、皆不思議だよね。本当だったら、今すぐにでも、なんなら不意打ちでもして、破壊したほうが良いと思っているよね」
ブレネンさんは満面の笑みを浮かべます。
「でもやらないよ。だって、カサブレードの真の力が見られないからね」
「お前、何がしたいんだよ」
「僕は、僕の欲望を満たすために何でもやるさ。だから――」
ブレネンさんの周囲に魔力が集まります。やがて魔力は大きな両腕へと形を変えます。
まるで騎士の手甲のような外見です。
「――これも研究の一環だ。僕はアメリア以外を叩き潰そう」
「そんな! ブレネンさん、止めてください!」
「止めないさ! アメリア、君が出来ることは彼女たちが死体になる前に、カサブレードの力を解放させることだけだ! 僕は待ったをかけない。友だちを殺したくないのなら、死ぬ気になるんだよ!」
マルファさんとエイリスさんが本格的に戦闘態勢に入ります。
「アメリア! こっちのことは気にすんな! わたしらがあのクソインテリをぶっ飛ばす前にさっさとカサブレードの力を解放させるんだな!」
「マルファの言うとおりだ。ここはボク達に任せてくれ」
二人の言葉を聞いても、私は「私も戦います」と言いたかったです。
だけど、それを言ったら、二人の覚悟を無視するような気がして。
「――分かりました! お願いします!」
だから、私は三日月の像へ触れました。