ブレネン殿――いや、ブレネンは想像以上に手強かった。
「うあっ!」
「マルファ、大丈夫かい!?」
「わたしの方は良いから、あいつの方見ろ!」
ブレネンの背後に浮く
ボクは攻撃用魔具〈魔力剣〉をあらゆる方向に振るい、火炎弾を切り裂いていく。
最優先事項は後ろで攻撃魔法の準備をしているマルファに当てないことだ。斬り漏らした火炎弾が地面に着弾すると、小さな爆発を生んだ。まともに当たればタダじゃすまないだろう。
攻撃の合間を縫い、ボクはブレネンに接近する。
もはや何度目の接近か、数えるのも面倒だ。
ブレネンの後ろに浮く
ガキン、と金属がぶつかるような音がした。だが、
瞬間、ボクは
殴られる瞬間、防壁魔法を行使したので、命に別状はなかったが、それでも勢いは殺しきれなかったようだ。
「エイリス、動けるなら離れろ!」
ブレネンの足元から水柱が噴き上がった。マルファの水柱魔法だ。
ボク達のプランはブレネンの気絶による、無力化。
あの
真っ向勝負では苦戦すると踏んだボク達はすぐに搦め手を使うことを決断したんだ。
「なかなかエグい攻撃を使うじゃないか。念の為に持ってきていたこいつが役に立つとはね。それはそれとして――」
ブレネンはそう言いながら、着用していた
あれは知っている。短時間なら水の中で行動できるくらいの酸素が込められた、〈
「――その魔力剣、大した出力だね。まさかこの〈
〈
書物で読んだ記憶がちらついてはいたが、まさか本物だったとは。
なんて――なんていう、愚かなマネを。
「やはり……! その巨大な両腕は古魔具だったんだね」
「知ってんのかエイリス!?」
「あぁ、あの両腕は使用者の意のままに動く古魔具なんだ。ただ、代償はある」
「んだよ、そりゃ?」
「まず、あの両腕から神経糸が伸びて、使用者の全身に絡みつくんだ。そうすると二度と切除することは出来ない。そして、永遠に魔力を吸われ続けるんだ」
「あぶねーじゃねえか。そんなヤベー代物、使ってて大丈夫なのか?」
ボクは首を横に振った。大丈夫なわけがない。
そして、それは当然、ブレネンも知っているはずだ。
「あの両腕は第二の両腕とも評されるくらい精密な動きを可能とする。実際、あれを無理やり装備させて人間兵器に仕立て上げた国もあるらしい」
「鬼畜な一品だな。でも、あいつは喜んで使っているように見えるがな」
ブレネンはマルファの言葉を肯定した。
「僕は僕の目的が達成できれば何でも良いのさ。魔力とか命とかさ、どうでも良いんだよ。そういうのは目的を達成するまでに使えるリソースなんだから」
「研究熱心だね。ボクはボクで古魔具が大好きだけど、命までは注ぎ込めないかな」
「そういう人間がいても良いのさ。ただ僕がそういう人間だっていうことだよ」
攻撃の気配を感じた僕は、反撃気味に雷撃を放った。
殺しまではしない。けど、それに近い苦痛は覚悟してもらう。
あの
案の定、
それを待っていた。
ボクのもう片方の手には電気が集まっている。
その間にも
僅かに
「雷槍魔法!」
まるで槍を扱うように、ボクは電気を纏う手を突き出した。すると電気が高速、かつ無音で伸び、ブレネンの胸を貫いた。
一瞬怯むブレネン。間髪入れずに、ボクは槍に蓄えられた電気を解放した。
ブレネンの身体がガクガクと震え、全身から煙が吹き上がる。かなりの手応え。
だが、〈
つまり、ブレネンはまだ――!
「き、きき、効いたぁ……! はは、大した威力だ。これほどの雷魔法を使えるなんて……!」
次の瞬間、ブレネンが弾かれたように、宙を移動し、壁に叩きつけられた。よく見ると、ブレネンの首、両手首、両足首には『コ』の字型の鉄杭で拘束されていた。
マルファが叫ぶように言った。
「あんまり動くなよ。結構キツめに拘束してるからよ」
それはマルファの拘束魔法だった。マルファも、ブレネンがあれで終わらないと読んでいたのだろう。
流石の判断力に安心感を覚える。
こういう時のマルファには『そこそこ』という文字はない。『徹底的にやる』か『全くやらない』かの両極端だ。
ブレネンが拘束を外そうとしているが、外れる気配はない。
そう、思っていた。
「そうじゃない。そうじゃない。そうじゃないそうじゃないそうじゃないだろう!?」
〈
「僕が見たいのはさ!」
「速い――!」
速すぎる。今までのは本気じゃなかったということだろうか。
殴られ、身体を掴まれ、地面に何度も叩きつけられる。単純な攻撃故によく効いた。
「カサブレードの覚醒なんだよ! 君たちを全滅させるのは簡単だけどさぁ! もうちょっとやる気を見せてよ!」
「この狂人がよ!」
マルファが助けに入ろうとするが、すぐにボクと同様に身体を掴まれる。
「それ、悪口にはならないよ!」
アメリアはともかく、ボク達の命がヤバそうだ。こうまで力任せに来られると、対処の仕方が限られる。
なんだか、フレデリックと戦ったときを思い出してしまった。あれも単純に実力で圧倒されていたなぁ。
「瀕死の君たちを苦しめるほど、僕は悪いやつじゃない。トドメを刺そう」
まるで虫を手で叩き潰すように、
そして一切の迷いなく手が振り下ろされた。
「ごめんアメリア、守りきれなかった――!」
「――大丈夫です。間に合いましたよ」
ボクたちを押し潰す手はなく、視界に映っていたのは、アメリアのカサプロテクトだった。