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2-44.酔っ払いどもの相手

 俺は何をすればいいのかな。コンロに火をつけるとか? 既に炭が敷き詰められてるけど、これにどうすればいいんだろう。


「ああ。任せなさい。そろそろ砂肝焼きたいって思ってたの」


 樋口が缶ビール片手にやってきた。


「そんなに難しくないわ。こうやって炭の上に燃料用アルコールぶちまけて、火をつければ終わり」


 炭がメラメラと燃え始めた。いや、なんか間違ってる気がするぞ、そのやり方。


「放っておけば、いずれいい火加減になるわ」

「そうかもしれないけどな……例の同期の車も、こうやって燃やしたのか?」

「まあねー。串打ち手伝って。終わったら一緒に食べましょ」


 そして樋口は串にピンク色の肉を突き刺していく。これを網に乗せて焼いて食うわけだ。なるほど酒に合いそうな感じはするけど。


「あー! 樋口さんずるい! わたしも砂肝ほしい!」

「自分で刺しなさいな」

「だってわたし不器用だし。悠馬代わりにやって!」

「駄目よ。お姉さんなんだから自分でやりなさいな」


 樋口は俺の体を抱き寄せて愛奈から遠ざけた。

 愛奈よりずっと大きな胸が俺に押し付けられる。いや、なにしやがる。


「お姉ちゃんだって弟に頼りたいことはあるんです!」

「あなた、いつも頼ってるでしょ」

「あー。ふたりともずるい! わたしも男の子とくっつきたい!」

「おい」


 澁谷まで俺に抱きついてきた。手にはビール。こいつら、揃いも揃って酔ってるな。


 澁谷の胸は樋口よりもさらに大きい。というか、間違いなく巨乳の部類に入る大きさだった。


 見栄えを重視する仕事だから、そう見えるようにスーツを作ってるのかもとは思ったことがある。

 けど、本当にでかかったんだな。


「はー。会社のオヤジたちに比べて、悠馬くん本当にかわいいんだから」

「おい。やめろ。かわいいって言われても嬉しくない」

「ねえ悠馬くん。お姉さんの隣に座って? お酒注いで?」

「嫌だ断る」

「えー? いいのかなー? 魔法少女のイメージ戦略のための大切なパートナーでしょ? 接待だと思ってさ」

「高校生をホスト役にするな。しかもマスコミが」

「ふふん。ちょっとくらいなら一緒にお酒飲んでもいいよねー?」

「俺未成年! あと警官の前!」

「今日は見ないことにするわ。なんかおもしろそうだし。わたしにも注いでくれないかしら」

「おい公安!」


 こいつら駄目だ。完全に酔っ払ってる。


「むきー! ふたりとも! わたしの弟に手を出さないで! 羨ましいから!」

「お前も頼りにならない」


 ああ。大人が三人揃って、全員こうだとは。

 酔ってさえなかったら頼りになることもあるんだけど。




――――



 ラフィオとつむぎが、さっきからプリン作りに勤しんでいた。


「後はこれを冷やせば完成だ」

「わー。楽しみ! けど、どうやって冷やすの? 冷蔵庫ないよ?」

「ないな……クーラーボックスはあるから、そこを氷で満たせばなんとかなるかな。買ってくるか。おい悠馬。ついでに買ってほしいものは」


 ラフィオはキッチンから顔を出して庭の方を見たけど、言葉をすぐに途切れさせた。


 なにが起こってるんだろう。


 遥も気になってそっちを見たいと思ったけど、今はピラフおにぎりを作るのに忙しかった。


「買ってくる。ひとりで」

「わたしも行くー」

「モフモフはなしだぞ。僕はこの格好で、買い物に行かなきゃいけないんだ」


 ラフィオは断固として言ったけど、つむぎが同行すること自体は断らなかった。


 つむぎの方も。


「うん! こっちのラフィオも好きだし!」

「こんなに嬉しくない好きも珍しいよなあ」

「さあ! 早く行こ! 後でモフモフさせてね!」

「それは嫌だ」


 つむぎはラフィオの返事は聞かないで、彼の手を取って外に飛び出していく。

 こうして見れば、小学生同士のかわいいカップルに見えた。


 さて。ラフィオたちのプリン作りを見ながら、同じくキッチンで料理をしていた遥は一段落ついて庭の方に目をやった。


 悠馬が女どもに抱きつかれてピンチになっているのを目にした。


「ちょっ! 悠馬になにしてるんですか!?」

「遥、助けてくれ」

「わたしだって抱きつきたい!」

「あー。……転ばないようにしろよ?」

「うん!」


 遥は松葉杖で全力で急ぎながら、悠馬に抱きついた。

 好きな男の子相手にくっつくという意味もあるけど、こうやってみんなでいるのが楽しかった。



――――



 女四人。しかもそれぞれ美人に抱きつかれるのは幸せなことかもしれない。ああ、そうだよ。姉ちゃんも美人だ。外見だけならな。問題は中身だ。

 四人のうち三人は酔っ払ってるし遥は松葉杖を手放して片足で立ちながら抱きついているしで、俺はなにかの拍子に倒れないか密かに見張って支えないといけないし。


「おい姉ちゃん。そろそろ離れてくれ」

「えー。だってー」

「だってじゃありません」

「だって。悠馬のこと好きだし」

「……」

「実は心配だったし。わたしの手の届かないところで怪物としばらく戦ってることとか。すぐに行かないといけないのに、大勢の人をかき分けたりしないといけないし」

「心配してくれてるのか?」


 愛奈は返事の代わりにぎゅっと手を強めた。


「そうか。でも愛奈、駆けつけた時、わりと余裕そうだったよな? 俺のことより、リーダーがどうとか言ってたぞ」

「……え?」

「そうですよお姉さん! 別にそんな素振り全然なかったじゃないですか! てか、わたしたち三人揃って、悠馬よりも肉を冷やすこと優先しましたし」


 酔っておらず冷静で、かつ愛奈への対抗意識が高い遥が同調した。そんなやりとりあったのか。

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