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第589話 イベント制限戦Ⅱ㉕

 問題は最後の一人だ。 

 このイベントのルール上、勧誘できる相手が非常に限られている。 

 最初はタヂカラオの予定だったのだが、彼は制限に引っかかってしまったので無理だった。


 代わりに『思金神』所属の高機動戦闘が得意なプレイヤーを紹介してくれと頼んだら彼女が来たのだ。

 ヤガミが現れたのは驚きだったが、戦力としては申し分ないので大歓迎だった。

 碌に話した事のない相手だった事もあって手探りではあったが、連携訓練は驚くほど協力的で話してみると中々に付き合い易い事もあってメンバーとしてもやり易い。


 三軍のトップという事もあって指揮官的な立ち回りが得意なのかと思っていたが、勘違いだったと理解するまでそう時間はかからなかった。

 彼女は非常に柔軟性に富んでおり、誰と組んでもしっかりと動けるのだ。


 ヨシナリ、ポンポンと組めば攻撃の起点として仕掛けやすいように敵を誘導し、逆にツガルと組めば彼の速度に引っかき回された敵機を仕留める。

 そしてカカラと組めば退路を潰す役を積極的にこなす。


 とにかく人に合わせるのが上手いのだ。 

 その為、非常に扱い易い事もあってフォーメーションを組む際は真ん中――要は比較的、フリーな位置に置いて彼女自身の判断に任せる形での運用が最適解だと判断した。


 対峙しているアリスもそれを理解しているのか、弾幕を張って足を止める事を念頭に置いた立ち回りだ。 

 同ランクという事もあって彼女を自由にしておくことの危険性を強く理解している証拠だろう。


 ――正直、想像以上に完成度の高いチームになったのでこれは優勝も狙えるのではないかと思ってしまっていた。


 こうして完成したチームだったのだが、イベント開始から連戦連勝と危なげなく勝ってきた。

 スコアも充分に溜まって来たので数字的にそろそろ次に向かえるはずだ。

 宝とやらがどんな物かは知らないが、ジェネシスフレーム獲得を目指している以上はPはいくらあっても足りない。 


 ――ここで稼がせて貰うぜ。


 ヨシナリは目の前のカナタを仕留めるべく機体を加速させた。



 ――捉えきれない。


 アリスは弾幕を張りながら少し焦りを滲ませる。

 ヤガミの縦横無尽とも言える機動は線や点ではまず捉えられない。

 彼女を制するには面での空間制圧が必要となる。 一対一でその状況を作り出すのは非常に難しい。


 これがランク戦であるのなら距離を取りながら相手の消耗を待つ形で削りに徹するのだが、今回はそうもいかなかった。


 『それにしても意外な組み合わせだな。 君は群れるのは嫌いと思っていたが?』


 余裕の表れなのかヤガミがそんな事を口にする。


 「アドルファスが方針を変えると言い出したのよ。 少し連携を意識して見ましょうってね」


 これまではそれで通用しており、個人技の集団でイベントに出る為だけに集まったユニオン。

 その筈だったのだが、アドルファスはもっと強くなる為に連携を磨くべきだと主張したのだ。

 無理強いはしないとの事だったのでアリスとしてはどちらでも良かったが、いい加減にこれまでのやり方を貫くのではなく変えていくのもありなのではないかと思っていた。 


 これまでは個人技で勝ち上がってきたのだが、格下に連携によって撃破された事に思う所がない訳ではなかったのだ。

 だからカナタの誘いに乗ったのだ。 チームにその『星座盤』のメンバーいたのは驚きだったが。


 『そうなのか? 意外――というほどでもないか。 ベリアルやユウヤがユニオンに属しているのだ。 君達に心境の変化があっても不思議はないな。 だったら『思金神』に来ればいい。 集団行動を徹底的に叩き込んでやれるぞ?』

 「チーム戦の経験を積みたいとは思っているけど、縛られたい訳じゃないのよ。 悪いけど『思金神』ってルールに厳しいだろうから息が詰まりそう」

 『確かに実力者程合わなくて抜ける者は多い。 君なら早い段階で上位に食い込めるというのに勿体ない話だ』


 ヤガミは話は終わりだと言わんばかりに加速。 一動作で移動する距離が伸びた。 

 彼女はエネルギーウイングと足にある力場の発生装置を用い、足場を作って蹴る事で急な方向転換と緩急を付ける。 そんなヤガミの挙動で数少ない捉えられる瞬間があった。


 攻撃に入る時だ。 武器は接近戦用のダガーだけなので仕掛ける際は必ず軌道が直線になる。

 そこを狙うしかない。 アリスの機体はホバリングにより、地上では高い機動力を発揮するが空中戦は余り想定していない事もあって相性はあまり良くなかった。


 チャンスは一度と思った方がいい。 

 何度も隙を晒すような甘い相手ではない以上、確実に仕留められるタイミングを見極めろ。

 ヤガミの攻撃は何度も見ているだけあって傾向自体は掴んでいる。


 小刻みな方向転換と加速で相手の周囲を動き回り、相手の反応が自分の動きを下回ったと判断したらそのまま一突き。 

 裏を返せば銃口で追いかけ続けている間は仕掛けてこない。 

 アリスがヤガミの戦い方を理解しているようにヤガミもアリスの戦い方と機体を理解している。


 今、アリスがやられると一番困る事は何だ? 撃破される事だ。

 なら撃破されるリスクが跳ね上がる事は何だ? ジェネレーターの破壊。

 アリスの機体には両足、胴体、背中のバックパックに合計四つのジェネレーターを積んでおりそれにより機動、火力の両面で高いパフォーマンスを発揮し続けられる。


 基本的に限界を超えた稼働さえしなければスタミナ切れは起こらない。

 唯一の懸念は武装の損耗だが、余程の長期戦でもなければまず心配しなくていい事だ。

 左、上、背後、右、もう一度左で一回り。 


 目まぐるしく移動するヤガミの動きを追うのは中々に神経を使う。

 先回りできるのではないかと思うが、次はまた左から入ってからかうように正面から右に回る。

 こうしてパターンを変えてくる。 


 ランダムや気分ではなく、アリスの動きを見て反応し辛い挙動を選択しているのだ。

 機体のスペックは勿論、ヤガミというプレイヤーの観察眼があって初めて成立する戦い方。

 不味いのは徐々にだが、アリスの反応が遅れてきている。 このままだと確実に刺されるだろう。


 ――リスキーだけど、カウンターを狙うしかない。


 腕に仕込んでいるアームガン――プラズマグレネードを至近距離で食らわせてやる。

 アリスはヤガミの動きで全力で追い、やがてその姿を見失う。 死角に入られた。


 来る。

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