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13 叔父との対面

「アデル、今日だけはこの部屋で我慢してくれるかい? すぐに使用人に命じて、明日にでもアデルの好きな水色の部屋にしてあげるから」


先程のピンクの部屋に戻ると、アドニス様が申し訳無さそうにアデルに説明した。


「……本当? 本当に水色のお部屋にしてくれるの?」


「勿論だよ。アデルは大切な妹なのだから、お願いを聞くのは当然だよ」


するとアデルが頬を赤くした。


「ありがとう……お兄ちゃん」


「また、夕食の時に迎えに行くよ。ごめん、一緒にいられなくて。少し片付けないと行けない仕事が残っているんだ」


アドニス様はアデルの頭をそっと撫でると、次に私に視線を移した。


「フローネ」


「はい」


「アデルのことを、よろしく頼むよ」


「ええ、勿論です。それで……私はこのお部屋にいて大丈夫なのでしょうか?」


マディーさんの言葉が引っかかっていた。


「当然だよ、どうかアデルを1人にしないで欲しい。まだ『ソルト』に来たばかりで、不安に感じているだろうから」


アドニス様はじっとアデルを見つめる。


「はい、お任せ下さい」


頷くと、アドニス様は口元に笑みを浮かべて「また後で」と言って部屋から去って行った。


――パタン


扉が閉じられると、早速私はアデルに尋ねた。


「アデル、お夕食では多分初めてお会いする方がいると思うの。だから服を着替ましょう? どんな服を着たい?」


「水色! 水色のワンピースに水色のリボン付けたい!」


「ええ、そうね。アデルは水色が似合うもの。それじゃ早速準備しましょうか?」


「うん」


アデルは、この屋敷に来て初めて笑顔を見せてくれた――




****



――19時


 アドニス様に連れられて、私とアデルはダイニングルームへ行くと、既にオリバー様の姿があった。


挨拶を交わし、それぞれテーブルにつくと、早速オリバー様が話しかけてくる。


「ようこそ、アデル。私はアデルの叔父さん、オリバーだ。それにしても大きくなったねぇ。この屋敷を出た時はまだ赤ちゃんだったのに」


アデルとアドニス様の叔父……オリバー様はオレンジ色の髪が特徴的な男性だった。


「……」


人見知りのアデルは、俯いたままで返事もしない。


「おや? アデル。どうしたんだい?」


「叔父上。アデルは今人見知りが激しい時期なのです。それに、『ソルト』に到着したばかりで緊張しています。今はそっとしておいて頂けますか?」


素早くアドニス様が口を開いた。


「うむ……まぁ、確かにまだ4歳だから仕方がない話かもしれないな……」


アデルは5歳、叔父でありながら年齢を間違えるなんて……けれど、私の方から訂正するわけにいかなかった。


「そう言えば、そこの女性は一体どなたかな?」


私がシッターであることは既に知らされているはず。それなのに、尋ねてくるなんて……。

私はテーブルの下で、手をギュッと握りしめると答えた。


「私は、フローネ・シュゼットと申します。シュタイナー御夫妻から正式にアデルのシッターとして雇用されています。同席させて頂くことを、どうぞお許しください」


「あぁ……あの子爵家の……」


オリバー様が口の中で小さく呟くも、アドニス様の耳には届いていた。


「叔父上、祖父母がどうかいたしましたか?」


「い、いや。なんでもない」


慌てた様子を見せるオリバー様に、アドニス様は話を続ける。


「叔父上、確かにシュタイナー家は子爵家ですが、『レアド』の貴族の中では、屈指の資産を持っております。何かご不満でも、おありでしょうか?」


「い、いや。不満などあるはずない。何よりアドニスの大切な祖父母なのだからな」


アドニス様とオリバー様の間には緊張した空気が流れている。

二人のこともそうだが、私はもう一つダイニングルームの座席が空席になっていることのほうが気がかりだった。


あの席は一体何なのだろう?


そのとき――


「アドニス様! お帰りになられたのですね!?」


突然ダイニングルームに女性の声が響き渡り、私達は一斉に声の聞こえた方向へ視線を移す。


すると、目も覚めるようなピンクのドレスに身を包んだ栗毛色の若い女性が立っていた。


「アドニス様! お会いしたかったです!」


女性は笑顔でアドニスの元へ駆け寄ってきた――

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