「……で、やっとくっついた、と」
「……ま、まあ……?」
僕とサヤは、仲間達に僕達の事を伝えた。
その話を聞いた後、ラシードがまるで悟を拓いたような、何とも言えない顔で答えた。
僕とサヤが揃って下を向いて赤くなっている顔を隠そうとしていた。
「サヤ……よかったですね……!」
「あ、ありがと……」
マルシェがサヤの手を取って喜んでいる。サヤは照れながら目を逸らして目を泳がせていた。
「けっこんは、いつ?」
「「――――ッ!!?」」
ウィニがサラリととんでもない事を口走って、僕とサヤは同時に狼狽した。
そ、そんな結婚だなんて……早すぎるよ…………。
そう思いながら僕はサヤの方をちらと見る。
「い、いつに……なるのかしらね!?」
あたふたしながら返事を返したサヤが、僕を見て目が合うと、目を逸らされてしまった。僕もつい目線を外してしまう。
僕は恥ずかしくて、一刻も早くこの場を立ち去りたい気持ちになる。
そこで僕はわざと大きな声で話題を変えようと試みた。
「あ! アランさんと話をしないといけないよね!」
「そ、そうよね! 早くいかないと!」
「話題を変えるには強引すぎだが乗ってやるぜ。俺のこのやるせない気持ちが爆発する前になァ!」
……これは本当に場を切り替えた方がいいみたい。ラシードが泣きそう。
気を取り直して僕達はアランさんに会いに艦橋へやってきた。
中に通されると、アランさんは僕の姿を見て、目を見開いて駆け寄ってきた。
「――勇者殿ッ! 復帰なさったのですか……! よくぞお戻りになられた……!」
アランさんにもかなりの心配を掛けてしまった。
僕は申し訳ない思いになりながら、努めて元気なところを見せる。
「ご心配をお掛けしました……! この通り完全復活ですよ!」
僕は自身満々な表情で胸を張って見せる。
「勇者殿の精神が戻られたということは、時の祖精霊の試練に打ち勝ったという事ではありませぬかな? ……勇者殿はどうされる?」
アランさんは安堵した様子を見せた後、居住まいを正して僕に真剣な眼差しを向ける。
「……試練を乗り越える事ができたのか、よくわかりません。だから、それを確かめる為にもう一度会わないといけないと思うんです」
僕は時の祖精霊の下へもう一度赴かねばならないと思っていた。
試練の合否を、本人から直接聞くまでは判断できないからだ。
「……承知致しました。では行先を変更し、中央孤島へ進路を取ります。――――操舵! 直ちに転進ッ! 中央孤島へ取って返すぞ!」
アランさんは敬礼した後、部下に指示を飛ばしていった。
すると艦は反転し、来た道を戻り始める。
「この辺りですと、中央孤島までは5日は要するでしょうな。勇者殿はそれまで心身を休まれよ」
「ありがとうございます、アランさん」
僕は深く礼をして感謝を伝える。僕の為に行先を何度も変えさせてしまって申し訳なかったんだ。
その後アランさんと別れた僕達は甲板に戻って来たが、これといった用事がなくなってしまった。艦の上ではやれることも限られるから、どうしたものか。
「まだ日の高いし、どうしようかな……」
「何日か寝てて体も鈍ってるんじゃねーか? どうだ? 軽くやるか!」
ラシードがそう言いながらファイティングポーズを取りながらニッと白い歯を見せる。
確かに、軽く汗を流すのも良さそうだ。日課の素振りもこなしておきたいな。
「お、いいね。やろ――」
「何言ってんの! まだ病み上がりなんだから寝てなさい! アランさんも言ってたでしょ!」
僕がラシードに肯定の意を出そうとしたら、サヤから阻止されてしまった。
「えー、体はなんともないからだいじょ――」
「――うぶじゃないわよ! ほらっ! 部屋に行くわよ!」
「えー……」
結局僕はサヤの気迫に負けて、そのまま背中を押されて船室へと追いやられてしまった……。
「……クサビ、既に尻に敷かれてねーか?」
「まあ、そうなりますよねぇ……」
「? くさびん、座り心地いい?」
船室に押し込まれる途中、3人の会話が後ろから聞こえた気がした……。
「――はい、ちゃんと寝る! おやすみ!」
そして僕は今船室のベッドに横にさせられているわけだが……。
なんとしても寝て欲しいサヤの意思は固く、大人しく言う事を聞いておくしかなさそうだ。
……体の調子は良いんだけどなぁ……。
「……じゃあ、私は行くわね。ちゃんと寝るのよ?」
サヤは船室のドアの前で振り向いて僕に念を押してくる。
なんか遠慮がなくなったような気がして、これは恋人というより、お母さんでは? と思ってしまった。
「……何よ」
あ、なんでもないです……。
なんだか心のうちがバレているのかと思った……。
「いや……全然眠くないというかなんというか……」
僕は最後の抵抗を試みる。もしかしたらベッドに潜っていなくても良くなるかもしれないと、僅かに期待したのだ。
サヤは呆れたような表情で溜息をつくと、僕の近くまでやってきて、ベッドの前で膝をついて目線を合わせて来た。
「……なあに? 傍に居て欲しいの?」
サヤの穏やかな茶色の瞳が僕をまっすぐに見つめてくる。僕はそんなサヤがいつもより可愛く見えて少しドキッとしてしまった。
「……えっ? ……あ、いや…………その……」
そういうつもりで言ったわけじゃないのに、急に恥ずかしくなってどもってしまう。
「……ふふっ! 冗談よ。…………ね? 大人しく寝ておいてね? それじゃ!」
そう言い残すとサヤは船室を去っていった。
「……はー。びっくりした……」
僕は顔を枕に押し付けながら悶えた。
それから僕は、しばらくベッドの上で身悶えては落ち着きを取り戻すという動作を繰り返していたのだった……。