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Ep.279 Side.C 帝都にて

「――ふむ。膨大な魔力が必要……か」

「はい……。島にいる人数でも足りないらしくて……。師匠、何かいい案はありませんか?」


 互いの声を伝える事が可能な精霊具『言霊返し』の向こうから、クサビの困り声が返って来る。

 どうやら勇者ご一行は着々と進み、今壁に直面したということか。


 一難去ってまた一難。冒険者の宿命として受け入れるほかあるまい。



「……ふむ。我やアスカならばもしや事足りるかもしれないが、残念ながら我らは遠方。……さて、どうしたものか」

「師匠達が来てくれれば――ってうわ! ちょっ、ウィニ――…………ししょお、よぉ」


 なにやら騒がしいな。どうやらクサビはウィニに言霊返しを強奪されたようだな。まったく、微笑ましいやり取りじゃないか。


「やあウィニエッダ。そちらは魔力不足で悩んでいるのだろう?」

「ん。ししょおのちからでこっちに魔力、ちょーだい」

「無理を言うな……」


 我らが中央孤島に行ければ問題は解消する可能性はあるが、ここからではかなりの日数を要するだろう。あまり現実的ではない。


 それに、今はこちらもあまり時間の猶予がない状態だ。


「……とにかく、魔力の件は我らも検討しておく。今日はこれから多忙でな、すまないが一旦切るぞ」

「あー。ししょおー、おたすけー――………………」


 通信が切れる間際、ウィニの気の抜けた声がした。

 おかげでこちらの良い気晴らしになったな。ふふ。



「なにやら賑やかでしたわね? どうしましたの?」


 ある一室のテーブルに着席し、我ら4人はある時を待っていた。

 我らはようやく帝国の首都であり城塞都市『帝都リムデルタ』に到着し、さっそく皇帝のおわす宮殿へと赴いたのだ。


 我らの来訪を首を長くして待ちわびていたようで、速やかに皇帝との謁見の手筈が整えられ、今は控えの一室で茶を嗜んでいるということだ。



 そこで突如やってきた通信に、アスカが優雅な所作で茶を飲みながら訊ねてきた。


「ああ、向こうも順調のようだが、どうやら膨大な魔力が必要らしくてな。その解決策を乞われたのさ」

「クサビは、もう大丈夫なのかァ?」


 と、珍しく他人を案じているのはラムザッドだ。やはり弟子は可愛いということなのか。


「ああ。声を聞く限り、普段と変わらないな。もう大事無いだろう」

「うむ。それならば天晴でござるな」


 ナタクもクサビを案じていた一人だ。



 我が弟子であるクサビは、今や世界の希望として担ぎ上げられる立場となった。

 そんな勇者にとって、魔王復活による世界規模の危機が、どれほど心労を伴うのかは想像するに容易い。


 我らの働きでそれらが軽減出来れば良いのだが。


 ともかくも、まず我らは我らの使命を成さねばならないな。これより始まる皇帝との謁見にて、世界中の冒険者による、魔族への反抗勢力の発足を確たるものとするのだ。


「皆様。準備が終わりましたので、こちらへ」


 と、ここで皇帝の側近が現れ、我らは謁見の間へと向かうこととなった。


 ――そして、我らは謁見の間へと通される。


 皇帝との謁見の場である謁見の間には、煌びやかな装飾が施され、豪華絢爛な空間が広がっていた。

 その中心に設けられた玉座に、一人の壮年の男性が鎮座している。


 すっかり白んだ髪をオールバックに冠を被り、整えられた髭が威厳を感じさせる。その眼光は鋭い。

 齢50を越える年齢にしては、まだまだ覇気を感じさせる老将然とした風格。


 その男こそリムデルタ帝国を統治する『ヴァレンド・リムデルタ』皇帝その人である。


 その威厳を感じさせる佇まいに、謁見の間で跪く我らに緊張が走った。


「……面をあげよ」


 その声が響くや否や、我らは一斉に顔を上げた。そしてその視線が玉座に鎮座する男に向けられる。

 皇帝は玉座の上から我らを睥睨していた。


「この日を心待ちにしていたぞ。よくぞ来た。奔放の魔術師殿、そして東方部族連合を統べる御三方よ」


「こちらこそ、お目通りが叶いました事、恐悦至極に存じますわ」


 我に代わり、アスカが皇帝に返答し一礼する。

 そしてその視線が我に移り、その後の進行を託した。


「うむ。では早速だが、其方らが提唱した、冒険者による対魔族の発足の件について語らおうではないか」

「はっ。それでは我から……」




 我は一歩前へ出て、皇帝に計画の詳細を説明していった。


 各国からの依頼として、各地の冒険者に向けて新勢力への参加を促す。この依頼を受注した冒険者に対して、国は後ろ盾となり冒険者の行動を全面的に支援、十分な報酬を用意する事を確約する。

 この依頼を受けた冒険者は勢力所属とし、一部隊として我々の指揮下に入り、国が保有する軍と連携して戦略的行動を共にしてもらう。

 パーティはそのまま一小隊として、単独の参加者は部隊を編成することで対応力の向上を図る。そうして集結した小隊を束ね、クラン、つまり中隊または大隊として冒険者による方面軍を編成し、各地で任に当たってもらうことになる。


 勢力所属となった冒険者の任務はランクにより選定する。新米を前線に向かわせても被害が増えるだけだからな。防衛などの任に当たってもらう。

 戦略的行動に乏しい我ら冒険者には、国軍から人材を派遣して指揮官を育成することも同時に進めていくことになるだろう。



 要点だけではあるが、以上をヴァレンド皇帝と話を共有した。


 これは既にファーザニア共和国大統領、リリィベル・ウィンセス、サリア神聖王国国王、ルドワイズ・サリア、そして東方部族連合の3族長である、アスカ・エルフィーネ、ラムザッド・アーガイル、ナタク・ホオズキが承認した計画。

 そして帝国の参入の意向は既に我らに伝わっている。この謁見の場はいわば、互いの認識を確認するためのものだった。



「――うむ。委細承知した。内容に異論はない。我がリムデルタ帝国皇帝が、志を共にすることを、ここに表明する」

「有り難う御座います」


 リムデルタ帝国皇帝、ヴァレンド・リムデルタが承認を表明し、ここに4大国の連動が成り、ついに我が大願は成就するに至った!


 この劣勢続く戦況で、人類の反撃の狼煙に火種が付けられたのだ。そしてそれは、紅蓮の炎となりて魔族を呑み込み焼き尽くすのだ。


「では直ちに同志を交えて詳細を詰めねばなるまい。……しかしサリア神聖王国はともかく、ファーザニアも我が国と同様、魔族の侵攻の対応に手一杯であろう。ウィンセス大統領が動けるのか」

「それに関してはご心配には及びませんわ。離れた相手と言葉を交わす精霊具をお持ちいたしました。こちらは既にウィンセス大統領、ルドワイズ王に渡っております」


 皇帝の疑問にアスカが一歩前に出て、懐から言霊返しを取り出し皇帝に献上するように差し出した。


「なんと。そのような貴重な精霊具を、よくぞ数を揃えたものだ。これがあればすぐにでも首脳会談を開けよう!」


 皇帝はアスカから言霊返しを受け取って眺めながら朗報に表情を綻ばせる。

 言霊返しを開発したアスカだからこそ、数を揃えることができたというのは、ここに来て活きてきた僥倖だろう。


「――よし。では各国に連絡を取り、会談の日取りを決めるぞ。直ちに準備に取り掛かろうではないか!」

「はっ。直ちに」


 皇帝がそういうと、横に控えていた側近が慌ただしく行動を開始し、方々に指示を飛ばしている。

 我らも反撃の狼煙を上げる為、早速段取りを詰める事となったのだった。

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