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第16話

「そこの本棚とか机の辺りに日誌やら書物やらが、木箱には旗とか、何かを研究したり調べたレポートみたいなものが入ってます。僕もまだ全部調べきれてないのですが」


 二百年前の吾輩の物など、歴史的な価値がある物ばかりであろう。


 マリッカやリオンは日誌や書物を。ユキムラとサスケは木箱を調べ始めた。ディーンはどちらも興味がない素振りで地べたに座り込んで目を閉じていた。寝てるのか?


「風が通っているでござるな。通風孔があるでござるか?」


 サイゾウはさすがに鋭い。風の流れを感じ密室ではないことは確信している。


「ゴザル猫でもわかるのか。この些細な風の流れが」


「当たり前でござる。通風孔から何かしら薬物を流されたら危ういでござるからな」


「その心配はない。通風孔ではないぞ。そなたにだけ教えてやろうか?」


「いらないでござる」


 サイゾウはしらけたような目つきで吾輩を流し見る。


「いらんだと?あれだけ興味津々だったではないか!?」


「うつけ猫が偉そうなのが気に入らんでござる」


「なんだと!?貴様!シャー」


「やるでござるか!?シャー」


「やれやれ、また始まった。サスケ、ほっといていいからな。どうせ腹でも減ってんだろ」


「減っておらん!」

「減ってないでござる!」


 吾輩とサイゾウが同時にユキムラにツッコむ。ユキムラめ、吾輩を食いしん坊と勘違いしておるではあるまいか。


 サイゾウはそのままサスケに抱かれて、その場を離れた。皆が皆忙しそうである。


「そうだ!」


 吾輩は試したいことがあったのだ。そのまま隠し部屋の入口へと向かう。


「さてと。ディスペル!」


 吾輩は扉に魔法を唱えた。が、やはりピクリとも動かない。


「やはりな。ならば……あまねく地の龍よ。この岩の扉を開き給え」


 吾輩が詠唱すると、土の龍が現れ、目の前の岩の扉を穿ち始めた。そして吾輩が通れるくらいの穴が開いた。


「ううむ……想定外の開き方ではあるが、これならば扉を開けれないこともないか。というか、この穴戻るのか?」


 吾輩は再度土の龍を呼び、穴を塞ぐよう命じた。すると穴はみるみる内に修復されていく。


「ほう、これならば使えるな。無より有を生じている火や雷の精霊を呼ぶよりも、体力の消耗も少ない。日に何度かは使えそうだな」


 思った通りの結果に吾輩は満足した。


 なに?わけがわからんだと?


 いいだろう、少し魔法についてこの【博学多才のスティン】が教授してやろう。


 この世界の魔法は大きく分けて二つある。吾輩が使うような精霊との契約により発動出来る『精霊術』と、八世やアルトリアの使者のように無機物を動かす『魔術』である。


 精霊術は森羅万象を精霊の力を借りて駆使する術で、炎や雷などの魔法や、自身を強化したり相手を弱化したり出来るのだ。


 一方魔術は、術者から無機物への一方的な契約(命令)により、破壊したり動かしたり自在に操ることの出来る術である。


 これだけ見れば『魔術しょぼっ!』と思うかもしれないが熟練すると矢を一万本自在に操ったり、重い舟などを浮かせたりなど、超人的な能力を使うことが出来る。


 では、なぜ吾輩が扉を開けられなかったか。それはおそらく人間以外の動物には魔術が使えないからであろう。動物と無機物との間に一方的な契約が成り立たないのではないか。


 無論動物たちにも魔法を使う方法があるのやも知れんが、吾輩は動物ではないのでわからん。


 ちなみに。龍の形の精霊を使役出来るのは世界広しと言えど吾輩一人。【唯一無二のスティン】だけなのだ。


 そう言えばこんな事を書いた紙がこの隠し部屋にあったはずだな。どこかまではわからんし、現存しているかもわからんがな。


「なんや、誰かおるかと思うたのやけど、誰もおらんわ」


 聞き覚えのある訛りが岩の扉の向こうから微かに聞こえてきた。吾輩は土の龍に再度穴を開けてもらい、外へ出た。


「やはりこの喋り方はデクであったか、久しいな」


「おお、あんさん!えっ?何処から来たん?」


「まあまあ、それは良いとして。どうしたのだ?」


「いや、わいのぼんが舟を見た言うて。そんでもしかしたらあんさんおらんかな〜てな」


「ぼん?」


「ああ、ボウズの事や」


「子供がいるのか」


「せやで。ただ人間たちが戦い始めてから住むとこも食うもんもなくてなあ。困っとるんよ」


「それは大変だな」


「他猫事やな〜なあ、あんさん貸し一つあるやろ。返してえな」


「吾輩は【刻石流水のスティン】だ。恩は返さねばならぬとは思っておるが……」


「なあ、頼んます。もう村まで人間に占領されて、ホンマに困っとるのよ。食いもんは山程あるんやけど、仲間の一人が手出しして殺されよった」


「なんと、大変であるな。ん?村に食料がたくさんあるだと?」


「せや。今まで見たことないくらい大量やで」


「うむうむ。少し考えさせてくれ」


 そのまま吾輩は沈黙し脳をフル回転させた。


「良し。デク、付いて参れ」


 吾輩はデクを引き連れ、隠し部屋へと入っていった。


「暗がりをそっと歩けよ、奥の方だ」


「わかったで」


 吾輩とデクは端の暗い所を選んで小広間を通り抜けた。その先は行き詰まりになっている。


「土の龍よ」


 吾輩は土の龍に穴を開けてもらい、先へと進む。実はここも岩扉なのだ。勿論他にもあるぞ。


 扉の奥は人が四つん這いで進める程度の小さい穴で、とても狭い。今は広いくらいだが。その狭い道を抜けると、今度はだいぶ開けていて、数千、数万の兵が通り抜けられるほどである。


 その大きな広間と道を横断した先にも岩扉か設置されていた。そこも精霊術で開けて、着いたのは隠し部屋の倍ほどの部屋であった。


 ここには調度品など一切なく、ガランとしている。


「ここだ。外への通り道も作ってやろう。今後はそちらから出入りせよ。子供らを連れてここに住むが良いぞ」


「うおー!ええんでっか!?ホンマに!?言ってみるもんやなあ」


 デクは大喜びで跳ね上がるほどであった。


「後は食糧だな。デク、猫どのくらい集められる?」


「ニ十くらいってとこやろか」


「ニ十か。そやつらが住む場所は後で探してやる。食糧もやる。だから吾輩に従ってもらえるよう説得てきるか?」


「やってみるけど、何するんや?」


「あやつらから食糧を奪う!そして焼き払う!」





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