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第22話 潜入!華桜高等学校①

 沈んだ日がまた昇り、真上を過ぎて傾き始め、美香の通う華桜高校へ行く時が来た。


 昨日決めた通り、ディサエルはスーツの代わりにパーカーや白シャツを着てスニーカーを履いた。ショルダーバッグの中に何を入れたのか聞いたが、何も教えてくれなかった。私はというと、白地に薄い水色のストライプ柄のワイシャツに深緑色のロングカーディガンにジーパンという、ディサエル曰く「落ち着いてる」格好だ。派手な格好をする必要性はないんだから、落ち着いていたっていいだろう。万が一の場合に備えて杖をカーディガンの内側に作ったポケットに入れた。これでいつでもサッと取り出せる。


 華桜高校へは歩いて行った。少し時間は掛かるが、それでも十五分程度だ。


「意外と普通の街だな」


 久しぶりに外に出たディサエルは、街並みをキョロキョロと眺めながらそう言った。


「意外とって……どんな街だと思ってたの」


「この世界に来てすぐ奴らに出会って倒されたから、奴らに有利な環境なのかとも思ってたんだ。だが全然そんな事も無いな。魔力が溜まりやすい場所は既に魔法使いが住んでる。お前の屋敷みたいにな。だから……」


 ディサエルはそこで言葉を切って、大きな溜息をついた。


「改めて考えるまでもないが、魔力ではない、純粋な力の差で負けたのか……」


 肩まで落として見るからに落ち込んでいる。そんなにショックだったのか。


「だって見てみろよ。オレのこの姿。どこからどう見ても非力な十五歳の子供だろ? 強そうに見えるか? こんなんで成人男性の集団相手に戦っても勝ち目があるわけないだろ」


「そうだね……。でも、その成人男性集団のいる場所に行って、スティルさんを助けないといけないんでしょ?」


「ああ。そうだな。いいか翠。オレは本来あんな奴ら一捻りできる力を持ってるんだ。忘れるなよ」


 苦い顔をしながらも、鋭い目で私に忠告してきた。が、こちらも忠告しておく。


「一捻りするのはやめてね」


 その後も他愛もない事を話しながら歩いていると、目的地、私立華桜高等学校が見えてきた。運動場も何も無くいきなり校舎があるのだな、と驚いていたら、道路の反対側に運動場があった。


「翠さん、ディースくん! こっちです!」


 学校の正面玄関と思しき場所で、美香がこちらを向いて手を振っている。わざわざ出迎えてくれたのか。


「美香さんこんにちは。お出迎えありがとう」


 ディサエルも”ディースくん”モードになって「こんにちは」とにこやかに挨拶した。


「こんにちは。道に迷っていないか心配になって、外に出て早く来ないかな~って待ってたんです。あ、あと今日は従姉妹同士の設定なので、さんじゃなくていいですよ」


「そうだったね。ありがとう、美香ちゃん」


 仕事だと思うとどうしても敬語になってしまうのだ。その方が角が立たなさそうだから。だが今日は美香の従姉妹という体で来ている。ディサエルの様に、上手く演技をしなければ。


「一応ディースくんの学校見学、という事になっているので、早速案内しますね」


 美香を先導にして校内へ入っていく。まずは玄関脇にある事務室で事務員さんに挨拶をし、それから靴を脱いでスリッパに履き替える。美香が「少し待っていてください」と言ってすぐ横の職員室に入っていく。私たちが来た事を報告しているらしい声が聞こえてくる。別の声が「しっかり案内してあげてね」と言うと、その後から美香の元気な返事が聞こえてきた。誰か先生が付いて見学をするのかと思っていたが、案内役は美香だけらしい。きっと信頼されているのだろう。こちらとしてもその方が面倒が少なくて済む。美香が戻ってくると、早速学校見学が始まった。


 放課後という事もあり、廊下では生徒同士で雑談している姿も見受けられる。美香はスカートかスラックスか選べる、と言っていたが、流石は私立高校。選ぶ事ができるのはそれだけではないようだ。リボンをつけている生徒もいれば、ネクタイを締めている生徒もいる。柄も無地かチェック柄かも選べるようで、生徒たちは思い思いの制服に身を包んでいる。また特進コースと呼ばれる一部のクラスはまだ授業中で、教室内で真剣に授業に取り組む生徒たちの姿も見られた。


「凄いですよね。毎日何時間も勉強するなんて。私だったら息が詰まっちゃいます」


 廊下から特進コースの様子を眺めながら、美香が授業の邪魔にならないよう小声で言った。


「うん。私も無理かも」


 知らない事を知るのは好きだが、だからと言って皆が部活をしている時間にまで授業を受けたい訳ではない。それに帰宅後には課題をやらなければならないのだ。一日中勉強ばかりしているなんて耐えられない。


「ボクは学ぶのって楽しいと思いますけど」


 ディサエルは首を傾げながら言った。異世界の神様には授業や課題の辛さが分からないようだ。


「うわぁディースくん、そう考えられるって凄いね。偉いよ」


 私もそれに同意するように頷いた。

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