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Love too late:防戦2

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「えー、今週のカンファレンスを実施します。季節柄、これからインフルエンザの予防接種者と患者が増えるので、それぞれ物品の確認やこまめな補充と――」


 毎週月曜にやっている、カンファレンスという名の医療会議。働いている看護師三名に伝えつつ、それぞれの意見を持ち寄り、病気の予防対策や季節によって変わる患者に対する接し方など、病院の運営を円滑に行うべく話し合いをする。


「あと病院の前で行き倒れていた、自然気胸の男性患者が一名、入院しています。治療は安静だけなんだけど、じっとしていない人なので、見かけたら注意を促してください。以上!」

「珍しいですね、入院させるなんて。名前はなんていうんですか?」


 年配の看護師に不思議顔で訊ねられ、ちょっとだけ、たじろいでしまった。


「見た感じ、俺よりも若いのは確実なんだけどね。名前や年齢を明かさないので、太郎という仮の名前をつけていますが、誰か名前を聞き出してほしいかなぁと……」


 苦笑いをしながら告げると、目の前にいる看護師たちは信じられないといった表情を、それぞれ浮かべた。


「子どもに人気のある周防先生がそんなに手こずるなんて、すっごく珍しいです。入院させたことといい、なにかあったんですか?」

「……あ、いや。特になにもないんだ。あの年頃はどうも、なにを考えているのかわからなくて、手を焼いちゃってるの」


(俺自身になにかあったら、今頃ここにはいないと思われる)


「だったら周防先生が学生になった気分で、気軽に接してみればいいんじゃないですか?」


 学生時代の周防先生見てみたい! なぁんて声が上がってしまったが――。


「もう無理だわ。心はくたびれたオッサンだから、若返る気力もなーい」


 事実、朝からくたびれ果てて、食欲もなかった。


 いつもより賑やかに看護師たちと話し合い、カンファレンスを終了してから、午前中の診察を開始する。


 ふと視線を感じ、診察室をぐるっと見渡すと、仕切ってあるカーテンに隠れて、太郎がこっそりと俺を見ていた。


「……太郎、ちゃんと安静にしてろよ」


 思わず声をかけてやると、苦笑いしながら一言。


「タケシ先生の喋り方、どうしてオネェみたいにしてんの? すっげぇ似合わない」

「このままだと、子どもが怯えるからだ。しょうがないだろ」

「変な気遣いしないで、そのまま接したらいいのに。笑った顔が超かわいいんだから、絶対に大丈夫だぜ」


 なぜか派手に投げキッスをして、そそくさとその場をあとにした太郎。


(――なんでだろう、無性にイライラさせられる)


「そのまま接することができたら、最初からやってるっちゅーのっ!」


 くだらないと言える太郎とのやり取りのせいで、沸々と湧きあがる怒りをなんとか沈めつつ、作り笑いをしながら診察をおこなう羽目になってしまった。

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