「各王家から認可されている店なんてのもあるのですね」
「勿論です。そうでなければ『客人』という制度が成り立ちません」
「そうですね」
装飾品の製造販売を行う店の前に私とエリアはフィレンツォに案内された。
店の看板には、各王家からの印が飾られている。
――無認可がこんな事をしたら営業取り消しどころじゃすまないから、そうだろうなぁ――
とか、そんなことを考えつつ、店の中に入る。
店内は明らかに高級品と思える装飾品が並んでいる、かなり高度の盗難防止の魔術をかけられている。
――高級な店の中にはこの魔術過信してる所あるから不安ではあるんだよなぁ――
「ダンテ殿下お待ちしておりました」
品の良い老齢の女性が姿が近づいてきて、私に丁寧に挨拶をしてくれた。
どうやら店主らしい。
「ダンテ様、どのような装飾品にしましょうか?」
店主は私問いかけてきた。
「そうですね……これは私が決めるよりも、エリアに希望を聞いた方が良い気がします。エリア、貴方はどのような装飾品が宜しいですか?」
「え……あ、その……無くさない、ような、のが……」
「成程……となると、ネックレスかブレスレット、ブローチとかでしょうか……?」
私はあまりアクセサリーは身につけない、前世ではネタとしては調べた程度なので、自分で身に着けるという事に関してはアレだったし。
ただ、今は王族なので身に着ける物等に関しては非常に、厳しくされている。
つまり、だらしない恰好はできない。
少しばかり、休日にTシャツトレパンで、だらだらしていた前世が懐かしく恋しくなった。
「ならば、ブレスレットが良いと私は思います。」
「……そうですね」
この世界のブレスレットは無くしにくいし、腕につけるだけだ。
装着も簡単だろう、ただネックレスとブローチ程目につきにくいが。
「エリア、ブレスレットでも良いですか?」
「は、はい」
「では、ブレスレットをお願いいたします」
「畏まりました」
店主が店の奥へと移動した。
そして持ってきたのは――何故か飾り一つないブレスレット。
「「?」」
私と、エリアは首をかしげる。
「ダンテ殿下は初めてでしたね、王族が『客人』に渡す証は、王族自身が作るのです。つまりダンテ殿下がお作りする必要があります」
「――つまり、これは魔具という事ですか?」
「その通りです」
フィレンツォの言葉に私は未完成のブレスレットを手に取る。
流石に装飾品を作る職人みたいなことをしろと言われたら、ちょっと待てどころではないが、魔具なら話は別だ。
「――エリア、どんな物が良いでしょうか? できれば貴方が好む雰囲気の物にしたいのです」
「え、あ、その……だ、ダンテ殿下にお、お任せ、します……」
「責任重大ですね」
エリアの言葉に私は苦笑すると、フィレンツォが先ほどの何とも言えない眼差しを向けてきた。
「……フィレンツォ? 言いたい事があるなら言ってくださいませんか?」
「いえ、ダンテ殿下。何もありません、何も」
「……」
――意味深すぎてなんか怖い――
『あー……気にするな、今は』
――だから不安煽るの止めてくださいませんか⁇――
フィレンツォの発言に何処か嫌な予感をしているのに、それを煽る神様が鬼にしか見えない。
それはそれとして、デザインかぁと思案する。
王家の印は入れるのだから、前世でよく見かけた雪の結晶のブレスレットはある意味参考にはできない。
「――」
私は魔力を未完成のブレスレットに込めた。
――デザインセンス良いとは思わないけど、これで、いいかなぁ?――
そんなことをおもいつつ、彼を守ってくれるようにと、危機を私達に知らせてくれるようにと、そういった事を願いながら、作り上げる。
金の雪の結晶を中心に、白と菫色の宝石の花が咲いている形のブレスレットになった、原型がない。
「……これで、いいでしょうか?」
私はそれを見せる。
「――相変わらず、込められている魔力と術は他の術師とは桁違いですね。ダンテ殿下」
「私の取り柄、みたいなものですから」
フィレンツォにそう答えて、出来たブレスレットをエリアに見せる。
「これで、いいですか?」
「は、はい……‼」
エリアは少し頬を赤く染め、初めて嬉しそうにほほ笑んだ。
「では、今から着けておきましょうか」
そう言ってブレスレットをエリアは身に着けた。
エリアは何度もブレスレットを優しく触っていた。
――喜んでくれてるみたいだし、いいか――
そう思ってフィレンツォに声をかけようと思って彼を見れば、先ほどのあの何とも言えない生ぬるい視線を私に向けている。
「フィレンツォ……」
「何でもありませんよ、ダンテ殿下」
『そうそう、今は気にするな』
問い詰めたいが、神様にも気にするなと言われたのだ。
今深く聞くのは不味いのかと自分を無理やり納得させる。
『そうそう、そのままのお前でいいのだ』
なんか馬鹿にされている気がして、ムカついたが我慢することにする。
共同都市のインヴェルノ王家の屋敷に戻ると、玄関の前に荷物らしきものを持った人達が居た。
「お待ちしておりました」
「エリア様の荷物は、それだけなのですか?」
フィレンツォがあまりにも少ない荷物に驚いている。
箱三つに収まる程度。
箱に入らない、魔術補助の杖等を除けば、箱二つに入っているのは学院から出された教材関係だろう、それ位の量はあった。
という事は、エリアの私物は箱一つ分か、それ未満ということになる。
――そうだ、服だってぼろぼろの奴しか着せてもらえないし、男に犯される時は女性物を着せられたりしてたとか言ってた!!――
「フィレ――」
「ご安心を、既に何着か下着も含めて用意済みです」
「流石だ、フィレンツォ」
――私の執事、マジ有能――
フィレンツォの有能さに感謝しながら、屋敷の『客人』用の部屋へと荷物を運ぶ。
箱の中身を確認する、かけられていても解除されているだろうが、盗聴等の魔術が残っていないかを確認する。
もちろん、気づかれない様に見ることで確認した。
無かったのに心の中で安堵する。
エリアは、何処かそわそわとしているような、居心地が悪そうなそんな感じで部屋を見渡している。
「エリア、どうしたのですか?」
「そ、その……ぼ、僕の、ような……」
急な変化に戸惑っているようだった。
「そのようなことを言わないでください、エリア。貴方は私の『客人』なのですから」
私はエリアにそう言い聞かせてから、ふと気になりフィレンツォを見る。
「――ところで、フィレンツォ。貴方一人で大丈夫ですか?」
「ご安心下さい。私一人でも問題ありません、ダンテ殿下」
私の世話だけでなく、エリアの世話等も入るのに、少し不安だったが、フィレンツォはそう言い切った。
「そうか……でも、何かあったらすぐ言ってくださいね」
「勿論です」
少しは不安だが、ぶっちゃけるとフィレンツォ一人いれば大抵の事がどうにでもなるのも事実。
――心配症だなぁ、私――
「明日の仕込みは済んでおります。夕食までごゆっくり」
フィレンツォはそう言って、部屋を出て行った。
私は特にすることもないので、エリアが少しでも慣れてくれるように彼の傍にいることにした。
大した会話は無かったが、それでも心地よかった。
夕食時、出された料理を見て、ぼろぼろと泣き出すエリアを見て私とフィレンツォはフリーズする。
そして、泣きながら、フィレンツォの作った料理を美味しい美味しいと言って食べるエリアを見て、私は「エリアを虐げてた連中地獄に落としてやる」と思った。