手紙を読み終わって、リビングへ向かうと、エリアが一人ソファーに座っていた。
何処か暗い表情をしている。
「エリア? どうかしましたか?」
「え、あ……だ、ダンテ殿下……」
しどろもどろになる彼に違和感を感じながら、近づく。
「隣に座っても良いでしょうか?」
「も、勿論です……」
挙動不審なのが酷く気になるが、とりあえず座って見てから考えよう。
「何か、ありましたか?」
「い、いえ……な、なにも……」
「……」
――コレ百パー嘘だな――
『はいそこストップ』
嘘だと確信した途端神様からのストップがいきなり入った。
――何でしょうか?!――
『地味に自棄になってるな。まぁいい、深く聞くな以上』
――え、えー?――
何か怪しいというか気になる事を聞かない様にさせているような気がしてならない。
『まぁ、あながち外れてはいないが……今聞くとそうだな……』
――何か面倒なことが?――
『ゲーム的に言うとアクションゲームの中級者向けの難易度からいきなり一発喰らったら即死の難易度に変わる事態になる――』
――聞きません、私は聞きません――
神様の言葉に即座に返す。
嫌だよ!?
ただでさえ茨道宣言されてるのに、聞いたらさらにヤベェ状態になるって事じゃん!!
――そんなの私はお断りだ!!――
『物分かりが良くて助かるな。まぁそう言うことだ。話をしたいなら「環境が変化したことに慣れていないか?」的な当たり障りのないもの程度にしろ、お前が不味そうなのを言うのを察知したら即座に止めに入るからな』
――う゛ー……頑張りますよぉ……――
相変わらず、神様は色々と頭を悩ませることばかりいってくる。
でも、自分で選んだ道なのだから仕方ないと自分を奮い立たせる。
「――エリア、やはり少しこの環境にはなれませんか?」
「え、あ……は、はい……僕、みたいなのが……」
不安げなエリアに私は言い聞かせる。
「ゆっくりと慣れていきましょう、何かあったら、私かフィレンツォに言ってください」
「は、はい……」
エリアはうつむいてしばらく黙る。
そして口を開き――
「――ダンテ殿下は……その……伴侶探しにこの学院に入ったのですか……?」
予想外の言葉に私は硬直した。
――いや、目標的な事を含めるとそうなってるけど、対外的には其処迄重要視してない扱いになってるんだよなぁ、できたら
「大臣達は伴侶を見つけられたらいいと思ってるみたいですが……どちらかというと、外での交流を、学びを楽しみたいのが私の本音です」
「……そう、ですか……すみ、ません……お聞きして……」
「構わないですよ、婚約者のいない次期国王ですからね私は。気にならない方が珍しいかと」
「……はい」
エリアの反応が気になるけれども、どうせ神様が「聞くな、探りを入れるな」の一点張りだろうな。
『なんだ分かっているではないか』
――やっぱりか!!――
予想通りの言葉に、私は頭を悩ませる。
大体、こういった事柄は基本探りをいれたりするのが基本な気がするのに、それを駄目だと言われているのだ。
凄いこう、もやもやする。
けれどもおそらくこのもやもやとどうにか折り合いを付けながら学生生活、学院生活を送らなければならないんだろうなぁと思った。
――……可能なら、少し位学生生活をエンジョイしたいが、できるだろうか?――
『それはお前次第だな』
――この神様アドバイスになってないアドバイスしやがった――
『いや、だって事実だからな。お前が学生生活をどうエンジョイしたいのかもわからんのに言えるわけがなかろう?』
神様の言葉に、私は暫し考え込み、そして頭を抱えた。
――青春ってなんだっけ?!?!――
『あ、そう言うタイプだったなお前』
青春と言われて今更ながら、私は頭を抱える。
学園もの――所謂青春ジャンルと呼ばれるそれとは私は縁がなかった。
友情、恋、部活そんな華々しいものは
友人がいない訳ではないが、オタク的な方面に進みすぎてて、青春的ななにやらとはちょっとかけ離れている気がする、あれは。
部活はしていない、同人活動に集中したかったから。
恋愛など論外だ。
まぁ、日陰でキャッキャウフフと創作活動と、似た考え、好きなジャンルが同じ、オタク仲間に励んでいたのでアレも青春の一つだとは思うけども。
一応、こっそり――こっそりと創作活動は現在も続けている。
荷物の中の魔法箱にしたためた創作物を入れて持ってきた、余裕があれば創作活動をしたい気分はある。
もちろんにフィレンツォにも秘密にしている、悪いがこれは墓迄持っていくつもりだ。
ただ、それ以外の「青春」というか「学生生活」も味わってみたいのは事実だ。
まぁ、この世界は魔法とか色々ある世界、前世のような学生生活とは違うのは分かりきっているが、それも含めて楽しんでみたいのだ、私は。
だが、神様の言う通り、何をどうエンジョイしたいのか全く分からない。
正直私の根っこは人見知りで、面倒くさがりの引きこもりなのは未だ残っている。
これでもかなり努力したのだ、私は。
まぁ、その周囲の環境が良かったのは分かる。
私の事を悪く言う奴は殆どおらず。
大切にしてくれて、肯定してくれる。
やはり、肯定されて生きている程、メンタルは成長するというのに納得はできる。
自己肯定が低いとメンタルは逆に弱まる。
親の肯定力が周囲の否定力を下回った場合も不味い。
それを考えると今の自分は本当に恵まれているとしか言えない。
エドガルドに関しては己の感情の意味と「証を持たない」理由から、拗れてしまったけども。
でも、今はもうその心配はない……と、思いたい。
『安心しろ、それに関しては心配はない』
――なら良かった――
『だから手紙の返事を出すように』
――分かっています――
手紙の返事は出そう、エドガルドが不安になるだろうから。
学生生活はエンジョイできたらしたいが、私の目標として第一に「全員を幸せにする」状態にまで持っていかなければならない。
エドガルドはその地点に今一番近い。
次に近いというか今接触しているのはエリアなので、エリアの事で色々とやるべきことがある。
そして次、本日屋敷に来るクレメンテ・アウトゥンノ、彼についても対処しなければならない。
彼の兄、姉達がまともなのが救いだが両親がアレなのでクレメンテの自己肯定力はかなり下にある。
彼は彼で複雑だろうなぁ、と思ってしまう。
自分の環境と私の環境を比べてしまうだろうと。
同じ王家、第二王子、違うのは「女神の祝福」を持っているかいないかと、彼は思っている。
それだけじゃないんだけどね、そこも含めてきっちり話さないと不味い気がする。
おかしいのは自分の両親だと、まだ受け入れられない彼に、それを受け入れてもらうつもりだ。
そりゃあそうだろ、両親に愛されたいと願っている人に「それは無理だ」という様なもんだ。
まぁ、私に対して「お前以外愛せない」と言ったエドガルドに、何とも言えない答えを返した私が言うのは非常に「鏡見ろ」案件なのだが、それはこの際棚に置いておく。
じゃないといけないらしいので。
――私一人が後で責められるなら、それ位安いものだ――
『……』
――神様、何ですかその無言は⁇――
『……いや、別にー?』
――やめてください、その何とも言えない感じの言い方は!!――
『いや、別に気にしなくていいぞ?』
――今は、っていうんでしょ?――
『ああ』
――ああ、もう、この神様は!!――
相変わらず不安を煽りまくる神様。
これが凄い困るのだ。
そして、何と言うか、生暖かい感じがして非常に不穏だ。
この道の先に、一体何が待っているのか?
歩く覚悟はできてるけども、不安をあおるので、どうしても怖くなる。
いっそ言ってくれればいいのに、何でだろう?