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事情を知る~出来ることをしよう~




「……あの、ダンテ殿下、説明会の後……色々な方々に囲まれておりましたが……その」

「ああ……えっとあれですか……」

 クレメンテの質問に思い出す。

 そう説明会――まぁ、前世的に言うオリエンテーション的なアレが終了した後に、私は実は滅茶苦茶色んな人達に囲まれた。

 同学年はもちろん、魔術専攻をしている三、四年生である先輩たちからも。


 下心で近づきたい連中から、純粋に魔術基、魔力の高さに興味を抱いて等――様々な理由で近づいてきたのだが、私が言う前にフィレンツォが追い払ってしまった。

 一応全員丁重に、追い払っていた。



 学生生活中は両親の元を離れて暮らすに為、世話役が保護者替わりであり、護衛でもあるのだ。

 特に王族にとっては。

 だから不安があった。


 クレメンテの傍に立っているメイド、世話役の女性。


 彼女はクレメンテに危害は加えないが、護衛の役割をするには役不足だ。

 日常的な世話なら問題なくこなすことができるだろう。

 だが、クレメンテに危害をくわえようとする輩から守り切るだけの力がない、もしそれをやろうとするならば彼女は自分の命を放り出さなければならない。

 何処か物静かで、クレメンテに対して慈愛の眼差しを向けるこの女性は間違いなくそれをやるだけの忠誠心をクレメンテに持っている。

 だが、それをやればクレメンテに「傷」がつくのは確実だ。



――おそらく、クレメンテの兄と姉たちは何とかクレメンテをちゃんと守れる実力のある世話係も付けたかったが、両親の妨害で彼女だけになったのだろうな――

――両親としては、クレメンテを自分達の手を汚さず亡き者にしたいのだろう、馬鹿すぎる――

『深読み考察が相変わらず得意だな、だがそれは当たっている残念なことにな』

――外れてたら嬉しかったよ正直!!――


 きっと彼女が自分を守って死ねばクレメンテの性格上二度と世話役を付けないだろう、自分の所為で、自分なんかの所為で誰かに死んでほしくないと、自己評価の低い彼は。

 馬鹿な毒親共はそれを想定して、それが起こることを待っているのだ。

 護衛らしい護衛のない王族など、悪しきことを考える連中からすれば――


『それ以上考えるな、悪い事ばかりを考えていると、お前はロクなことにならん』


 神様にストップをかけられる。


『まぁ、それに関してはクレメンテと交流をしていけばどうにでもなる』

――その言葉、信じていいんですよね?――

『良い、私はお前の為に、此処にいるのだからな。お前が不愉快な事はなるべく排除する流れに行くよう助言してやる』

――うん――

『そろそろ、戻った方がいいな、ならばその前に助言を』

――何かした方がいい事あるの?――

『クレメンテにもお前が「客人」を迎えた事は流石に学院側から通達が来ている。なので、それに問われた時「エリアは家族に虐げられていた、昨日暴力を受けていたところを助けた」という事だけは言っておけ』

――え、それちょっと不味いような……――

『言うのはそれだけだ、内容までは語るな』

――う゛ー……分かりました――

『とりあえず、何かあったらすぐ言うから、安心はしておけ』





 また「戻された」ので、私はカップを置いた。

「――ええ、その手合わせで色んな方々が私に興味を持たれたようで……」

「はい、ですが私がお断りいたしました」

 フィレンツォがきっぱりと言う。

「ダンテ殿下からご興味を持つならともかく、それ以外の時はできればご遠慮いただきたいのです」

「フィレンツォ、それだと私は交流しづらくなるじゃないですか」

 フィレンツォの言葉は少し文句を言う。

「ダンテ殿下の御身が第一ですから」

「全くどうしてこうも過保護なのでしょうね」

 私がフィレンツォに呆れていると、クレメンテの方にいる女性が手を僅かに震わせ、何かを思案しているようだった。

「――あのダンテ殿下お願いがございます」

 そして口を開いた。

「何でしょうか?」

「クレメンテ殿下をお守りいただけないでしょうか?」

「ブリジッタ?! お前は何を――!!」

 あまり表情を変えていないクレメンテの表情が驚愕と怯えの色に染まる。

「――クレメンテ殿下。私は構いません」

「で、ですが……!!」

「従者である彼女は、貴方を心配し、そして私ならば信用できると思ったからそう願いを口にしたのでしょう。ですから、どうか、お話しください。私はその信頼に応えたいのです」

 普通なら、あり得ない事だろう。


 だが、状況が異常故に、彼女は口にしたのだろう。

 自分の使える主が今危うくなりつつあり、そして守りぬけない可能性の高さと、私の今までの事柄を含めて、彼女は願いを言ったのだろう。


 クレメンテはうつむいた。

「――」

「私がお話いたします」

 彼女の言葉にクレメンテの唇が震えている。

「……申し訳ございません、殿下。ですが私達は皆もう我慢の限界なのです」

 従者の女性――ブリジッタさんがクレメンテに問いかけると、彼は力なく頷いた。

 ブリジッタさんは、重い表情で淡々を理由を説明しはじめた。



 内容はこうだった。

 クレメンテの実父と実母である、アウトゥンノ王国の国王と后は生まれた時からクレメンテを冷遇してきた。

 クレメンテの兄であり、次期国王になる予定のエルヴィーノ殿下と、二人の姉たちがその扱いをおかしいと訴え、クレメンテを大事にするように求めても聞き入れず、大臣や他の者が言おうものなら不敬罪で牢獄行きとなり、誰も言えない状態だった。

 クレメンテがこの学院に通うことも国王たちは最初認めなかったが、エルヴィーノ殿下がこういったそうだ。


『そのようなことをすれば、女神アウトゥンノは父上を見放すでしょう。貴方の証は既に薄れつつある』


 そう脅した。

 事実、国王の証は既に薄れつつあり、完全に消えることを恐れた国王は慌てて許可を出した。

 だが、それでも王族の護衛ができる従者を付けようとしなかったので、エルヴィーノ殿下と姉達がずっと世話役にとクレメンテが生まれた時からの世話役であるブリジッタさんを従者として付けたそうな。

 アウトゥンノ王族の屋敷も、エルヴィーノ殿下が使えるよう手配したらしい。


 日に日に薄れつつある証に、国王は怯え、それを引き起こしたと今ではクレメンテを憎む様になっている。

 下手をすれば、クレメンテを殺すよう殺し屋に依頼しかねない状況に今ある――





 率直な感想。


――うわ、ひでぇ、このクソ野郎さっさとくたばれマジで――

――もしくはファラリスの雄牛にぶち込まれちまえ――

『割とそこでヤバめな拷問具を出すあたりがお前の心理を物語っているな』

――八つ裂きとか、ネズミ刑でも良いでよ?――

『お前そういう知識何処で得てきた……いや、ああ、うん、そうだな』

――ハハハハ、いやぁ、同人活動とか二次創作やってるとねぇ!!――

『……リョナ好きだったか?』

――いいえ、私リョナは好んで見るタイプではないですな、イチャラブとハピエンとメリバとか幅広く好き好んで見るオタクですぜ?――

『……割と雑食?』

――イエス、ただし寝取られと不倫と托卵とかそういうのは無理なんですぜ――

『成程……』

――ただし、因果応報とざまぁ展開は割と好き、特に因果応報――

『そうか』

――で、引き受ける気満々なんですが、他に何をすればいいでしょうかね?――

『まぁ、二人が帰った後にフィレンツォにちょっと話せ、会話する必要はないかもしれないが、その方がいいだろう』

――ふむふむ――

『とりあえず、お前がしたいようにするといい、不味そうな内容を言おうと思ったら止める』

――分かりました――





 またいつものように「戻り」私は二人を見据える。

「ブリジッタさん、お訊ねしたいのですが。貴方はエルヴィーノ殿下への連絡をすることは可能ですか?」

「はい、勿論です。エルヴィーノ殿下より、陛下へ情報が伝わらないようにと、特製の連絡用の魔具を」

「分かりました、それならば安心です。では、クレメンテ殿下の護衛の件の方をお伝えください」


『待て、念のため魔具を使うのはアウトゥンノ王族の屋敷から離れた場所でと伝えろ周囲にも気を付けろと、もし許可が出たなら、今後この屋敷で連絡をして欲しいと』

――もしかして、盗聴?――

『その通りだ』

――神様、ありがとうー―


「――ただ、その際、念のためアウトゥンノ王族の屋敷から離れた場所でご連絡することをお勧めします、周囲にも気を付けて」

 神様に言われた通り、私は言葉を続けた。

 理由は言わなかったが、ブリジッタさんは理解してくれているようだ。

「畏まりました」

「それと、エルヴィーノ殿下からの許しが出たのなら、今後この屋敷を連絡時に利用してくださりますと助かります。私がエルヴィーノ殿下と会話が必要な可能性がありますので」

「宜しいのですか?」

「私はもちろん、フィレンツォも良いですか」

「それが良いでしょう」

 とりあえず、之で、クレメンテの方を何とか守る方向に行けそうだ。


 少しずつ、着実に進もう――






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