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前へ進む、情報を得る~貴方は何を思ったのか~




「……できないのです私には」

 うつむいているクレメンテはぽつりと呟いた。

「欲しい『愛』はそこにあるのに、手にできないのです、私には……」

「――クレメンテ殿下、血の繋がりや、契約だけが何も家族の形ではありません、貴方がそう思ったなら、そうしてよいのです。公にすることができなくとも、貴方がそう望むなら、エルヴィーノ殿下は貴方の選択肢を理解してくださるでしょう」


――そうだ、私と、エドガルドの事だって――


 でも、この事はまだ言えない。

 それでも、言葉にする。


「だからこそ、エルヴィーノ殿下達は貴方達を引き裂かないようにと努力をしたのでしょう。だから貴方のこの留学に、ブリジッタさんはついてくることができたのです」

「兄様、たち、が?」

「ずっと貴方の従者をしているブリジッタさんを、貴方の事を亡き者にしたいなら引き離すことをしているでしょう。ですが、エルヴィーノ殿下がそうならないように、色々と手引きをしたのでしょう」

「……」

「急に変わるなど難しいこと。それにエルヴィーノ殿下は、クレメンテ殿下と『ちゃんと』話をしたいと私は思っています。ですから、時が来るのを待ちましょう、必ず来ますから」

「……はい」

 クレメンテはそう言って、小さく頷いた。



 その後、フィレンツォに軽く指示を出したうえで、ブリジッタと今後の護衛についての話を進めてもらった。

 大体フィレンツォは私の意思をくみ取ってくれる――良くも悪くも。

 なので、信頼している。


 少しばかり、気が楽になったような顔をしているクレメンテと「母」の顔をしたブリジッタさんを見送る。

「フィレンツォ」

「はい、既に特殊護衛部隊に連絡は完了しております。すでに、クレメンテ殿下とブリジッタ様の周囲の監視を始めているようです」

「流石だ」

「いえ、こうなる事は予期しておりましたので」

「いやいや、お前は何処まで予想していたのだ?」

 仕事が早すぎるフィレンツォを見て私は、驚いた風に言う、と言うか実際驚いている。

「失礼でしょうが、アウトゥンノ王家に、現国王が即位してすぐ諜報員を派遣しており、内情は把握済みです」

「待て、それは初めて聞いたぞ?」

「申し訳ございません、この事はダンテ様が即位した後に知るべき内容でしたが……今回は『緊急事態』と私が判断した為、今お伝えいたしました」

 最初から言ってくれよと、思わないでもないが、事情が事情だ。

 本来ならだま私は知るべき立場じゃないが、今は「緊急」と判断されたので知らされたという事になる。


 つまり、だ。

 それ位、事態は切迫している、という事になる。





 私は前世の記憶を探り出す。

 確かに、クレメンテは関わらないと「行方不明」という扱いになり、姿を消していた。

 その後、アウトゥンノ王国で革命が起こり現国王が処刑されたという事が伝えられていた。


――ああ、本当、厄介な事ばかりだね!!――


 美鶴の時分からなかった事が、今色々と分かるのだ。

 そして予想ができる。


――近いうちに、クレメンテとブリジッタさんを殺しに来る輩がいる――  

『その通りだ、お前が撃退するのも良し――いや、お前が直接ぶちのめしたほうがいいな?』

――ん?――

『なるべく、クレメンテ達を行動を共にしろ』

――神様何考えてるの?――

『そうだな――ちょっとした騒動の後、お前は外出時、姿を隠せ、いいな?』

――どゆこと?――

『フードとかで顔を見えない用にしておけと言ってるのだ』

――あーそういうことですか、了解です――


 神様がそう言った理由を想像する事ができた。

 まぁ、違ってたら駄目だしするだろ。





「――それにしても入学してまだ一週間も経っていないのに、色々とありすぎじゃないかと思うよ。エリアとクレメンテ殿下の事を考えると悪いとは言えないのだけれども」

 戻って来て私はそう言う。

「ええ、本当に……あの馬鹿男の件は未だ頭にきているのですが、本当に何もなさらないで良いのですか?」

「危害を加えるようなら私が直接手を下すから、心配しないでいいから」

「ダンテ様にそのような事をさせるのが私は嫌なんです!!」

 フィレンツォは厳しい表情で私を見る。

「んーでもなー……」

「でも、じゃありません!! その時は私が手を下します、宜しいですね?!」

「え、だってお前がやると……」

「宜しいですね?!?!」

「う、うん。わ、わかったから顔を近づけるないでくれ」

 圧のある表情でほぼ脅すように言うフィレンツォに私は負けた。


 椅子に腰を掛けてため息をつく。

 フィレンツォが目の前に置いた、雪花茶が入ったティーカップに手を伸ばし口を付け、ふぅと息を吐く。

「ところで、エリアの件はどうなっている?」

「ダンテ様が叩きのめした輩は現在留置所におります、エリア様の証言がありましたし、裁判待ちですね、おそらく実刑でしょう」

「エリアの証言から繰り返していた事と、あとエリアの名ばかりの『兄』達はそう言う連中から金銭等を得ていたという事も発覚してたね、そっちはどうなるかな?」

「学院にいる『兄』に関しては現在寮の『監視部屋』に移動させられ、一日中監視され続けています、脱走は無理でしょう」

 やっぱり留置所送りにするなり引き渡しする前に学院側として再発防止の糸口を見つけたいだろうしな。

 虐待とかそういう関係を見過ごすのは恥とされているからなぁ、早期発見できて安心していると思う――というか、エリアの件は学院に連絡したらブルーノ学長にめっちゃ感謝されたしなぁ。


――入学してすぐ分かって良かったって事なんだろうなあれは――


「プリマヴェーラ王国にいる連中は?」

 此処にいない、私としては地獄を見せたい連中について問いかける。

「エリア様の『家族』の件ですが、既にヴァレンテ陛下から直々に『呼び出されて』おります……」

「ヴァレンテ陛下って……十人の伴侶……基御后様がいて、既に子持ちで、子煩悩で、溺愛しつつもちゃんと全員と向き合って躾けているって言う御方だろう? 伴侶の数もスゴイし……それなのにその全員を平等に愛して十人が全員がそれに納得するってすごいと思う。その上自分の子どもを差別することをしないで、ちゃんと個性を見てあげるとか……ん?」

 自分で此処迄言って気づいた。

「もしかしなくても、エリアの件って、ヴァレンテ陛下にとって、凄い『許しがたい』案件?」

「その通りです」

「……何でヴァレンテ陛下に届いたの?」

「諜報部には少し前から届いていたそうですが、ヴァレンテ陛下に届くきっかけはダンテ様がエリア様を『客人』として扱うと決めたからですね」


――成程、私が止め刺したのか!!――

――よくやったぞ!!――


 と心の中で自分の行動を褒める。

「どれくらい、情報教えて貰えてるかな今」

 私はどうなっているか気になった。

「そう、ですね……処罰関係はまだですが、エリア様に関する事でしたら、一部は」

「教えてくれないか?」

 そう言って私は空のティーカップをテーブルに置いた。

「エリア様の母親とヴィオラ家の情報を流した執事の件ですが、血縁関係はありませんでした」


――血縁関係はないということは……――


「血縁関係は、無いんだな。つまり別の――」

「執事の亡き友人の一人娘だったそうです。身寄りのない友人だったらしく、執事自身も頼る相手もいないため、メイドとして働けるようにヴィオラ家の前の当主にお願いし、許されたことで彼女は働き始めたそうです」

「――ちょっと待ってくれ、前の当主は今何をしているんだ?」

「もう亡くなっておられます。現当主が結婚する前に亡くなられたそうです」

「……ちょっと待て、何で現当主――基エリアの父親は自分の父親が死ぬまで結婚しなかったんだ⁇」


――なんか色々おかしい――


「結婚に反対されていたそうです」

「理由は?」

「性格が悪すぎると。弱者を踏みにじるような女をヴィオラ家に入れることは許さんと」

「……えーとつまりエリアの件は……」

「そうですね簡単に言えば――」


「厳格な父が死んだ事によってより救いようのない馬鹿な現当主がやらかした結果という事です」


「……」

 フィレンツォの言葉に私は顔を引きつらせる。

「あの、興味本位なんだけど、馬鹿親父の馬鹿女と、エリアの本当のお母さん、どっち美人? 性格は聞くまでもないから聞かないけど」

「――……エリア様のお母様であるメイドの方が美しかったと、彼女はそれ故現当主の妻から冷たく当たられていましたが、執事がそうならないように配慮していたのですが――」

「……現在の主人の方への対応がしきれずにこうなったと」

「そういう事です」

 フィレンツォから聞かされた内容に私は深いため息をつく。


――堕ろすことができなかったんだろう、彼女は――

――強姦された事を隠すために、逆に堕ろすことを許されなかった、この世界では前世と違って父親が特定されるから、メイドと伯爵家の当主の間、しかも強姦だなんてなったらここじゃ確実に取り潰しだろう――

――その結果産み、そして死んだ彼女は――


――何を思いながら、死んだのだろう――







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