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大切な人へ(とりあえずお前は無理するなfrom神様)




 色々と考えてて私はふと気になったことを口にした。

「ねぇ、エリアの名前は、誰がつけたのか分かるかい?」

「死んだメイド――実母だそうです。執事はエリア様の出生詐称に加担し、黙秘する代わりに、その名前を付けることを通したそうです」

「……そうか」

 綺麗な名前だもの。


 自分より綺麗だからという理由で嫌がらせをする性悪な輩が、嫌いな相手の子どもにつける名前ではない。


 あれが、きっと、エリアの母親がエリアへの最後の愛として渡したものなんだろう。

 望まない妊娠だったけれども、幸福を願うように。


 名義上の母親はエリアが憎いのだろう。

 多分エリアが美しくてから羨ましくて憎んだ自分よりも立場が低い女性に、そっくりで美しいから。

 その美しさが憎くてたまらないのだろう。


――なんて強欲で身勝手な女だ――

――前世の私は女だが、反吐がでる、同類扱いされたくない――

――と言うかまともな女性は同類扱いされたかないだろこんな女と!!――


「ダンテ様、少しお休み下さい。顔色が良くないですよ?」

「……うん、そうだね。実際気分が悪くなってきた、こういうドロドロしたのはやはり慣れない。慣れないと駄目なんだろうけど……」

「ダンテ様……」

「大丈夫、慣れるから」

 私はそう言って何とか笑って自室へと戻った。





 服を着替え、楽な恰好になってベッドに横になる。

 知らない方が幸せかもしれない、けど私は知る必要があった。

 じゃないと「幸せ」にすることができない。


――無知では駄目なのだ――


 知らないでいることは不幸であるがそれ以上に幸福なのかもしれない。

 でも、知らなければいけない。

 心が張り裂けそうなほどに、苦しく痛みを訴えたとしても。


――私はその覚悟で来たのだ、引き返すつもりなどないし、此処で逃げるつもりもない――

『その覚悟は感心するが、無理をしすぎるのは感心できんな』

――あ、神様どうしたんですか?――

『「あ、神様どうしたんですか?」じゃない。全く本当お前は無理をするのだな、まぁこうして休んでるからまだいいが、以前ならもっと無理も無茶してたからな』


 呆れたため息が聞こえる。

 ふと気が付くとベッドではなく、いつもの空間に私は横になっていた。

 暖かくも冷たくもない、不思議な床の上に私は横になったまま動かない。

 いや、動けない。

 思っていた以上に無理をしていたらしい。


『馬鹿な親なら手がかからない子と喜びそうだが、あいにく私はそうではないのでな』


 神様がそういうと、撫でられる感触がした。

 人の手の形だが、暖かくもなければ冷たくもない。

 感触は人に近いけど、何か違う感じがして少し変。

 でも、とても――


――落ち着く――


 前世でお母さんの膝枕をしてもらって頭を撫でられた時の事、幼い頃母に抱かれて頭を撫でられた時の事を思い出して、とても落ち着く。


 ぽたり


 涙が零れた。


――ああ、まだ弱いなぁ、私――

『人間というものは皆弱いものだ、だがお前はその弱さを無理に抑えつけている』

――でも、強い人だっているよ?――

『それは強く見えているか、誰かが支えているか、何かを支えにしているか、誰かを踏みにじって強く見せているかがほとんどだ……まれに一人でも強い奴がいるがな、ソレは稀だ、参考にするな』

――はぁ……――

『もう少し、お前は周囲を頼れ、フィレンツォも精神的に頼れ』


 神様はそう言うが、これから何となく色々なトラブルやらが起きそうなのに、あまり負担をかける気にはなれない。


『それは分かるが、だからと言ってお前が我慢するのは良いことではない。今はフィレンツォ位しか頼れないかもしれんがこれから頼れるような者達が増えるだろう、だから頼れ、抱え込むな』

――……はいと言える自信がない……――

『私に頼るなとはいわんが、お前に「頼られない」という事はその内向こうの負担や不信につながる。だから「頼る」ことももう少し慣れろ』

――わかりました……――


 返事はしたものの、ちょっと今の状態だと自信がない。

 何せ、エリアとクレメンテの件はまだ終わってないし、まだ出会ってない「二人」も私はハッピーエンドは見た事がない。

 つまりあの「二人」にも何かあっても不思議じゃないのだ。

 基本的な問題はなかったけども、何か問題が起きないとも限らない。


『相変わらず、心配性だな……まぁ、確かにちょっと違う展開になるとは言える』

――デスヨネ――


 予感は当たるものだ。

 当分、フィレンツォ以外に弱音を吐ける気がしない。


『――おい、そう言えばお前まだエドガルドに手紙を書いていないな?』

――起きたら、書きますけど……――

『じゃあ、エドガルドに弱音を吐け』

――はぁ?!――


 この神様頭おかしくないのか?!

 私はそう思ってしまった。


『あのな、お前がここ最近の事を書いたら、何か絶対「我慢している」と思われるぞ、弱音の一つも吐き出さないとか、愚痴も言わないようでは』

――うぐ――

『そうなると、エドガルドはどう思う? 簡単だ「自分は頼ることすらできない相手なのか」と自分の前科も含めて思いつめるぞ?』

――ギャー!!――

『理解できたなら、書け』

――この神様の脅し怖いー!!――

『脅した上に、馬鹿やるのを止めてくれるのをありがたく思え。前世のお前らの神像は気分で人間を呪うし、脅して聞かなかったらそれ以降は無視するし、破滅の預言防ごうとしたら神がそっちから防ごうとするのぶち壊すし、何も悪い事してないのに呪うとかやってくるんだぞ? それに比べれば私はマシだろうが』

――スミマセンでした……――

『分かれば宜しい』


 神様は怖い存在なのは重々理解していたが、本などで描かれる「神様像」に比べれば神様はかなり優しい。

 いや、かなり忠告してくれるし、間違えそうになったら即座に口挟んでくれるし、本当優しい。

 まぁ、時折不穏な発言で私の不安を煽るのだけはやめてくれないのが悩みだけれども。





「――……」

 目を覚ますと「戻って」いた。

 ベッドの上。

 時計を見れば、一時間位かな?

 それ位眠っていたが、許容範囲だと言い聞かせる。


 食事時まで時間がある。

 起き上がり、机へと向かう。

 便箋と封筒等の必要な物は既に用意済みだ。

 ペンを取り、机に向かう。





 何から書こうか?

 入学前の試験の事、あんなの聞いてないからびっくりした事、ああ、これは書こう。

 エドガルドはどうだったのか知りたい。

 エドガルドは留学中――学生時代の話を殆どしてくれていないから。

 入学時とかの事くらいは知りたい。


 新入生代表になってしまったから、面倒な奴ベネデットに目を付けられたことを一応こちらからも書いておこう。

 フィレンツォから伝わってるのは予想はつくが、まぁ書いてはおく、念のため。

 エステータ王国の国王様に、あれこれ言わないようにお願いしよう、いや、面倒事というか、ご両親と婚約者が可哀そうなので、アイツはどうでもいいけど。

 エドガルドの事を馬鹿にしたことが許せなかったと書いておこう、事実だし。

 なので、また馬鹿にする発言したら手加減の度合い減らしてぶちのめす風に書いておくか、思ってることだし。


 エリアとクレメンテの事も書いておこう。

 エリアは私の「客人」という扱いになっている事は伝わっているだろうから、私の方からもちゃんと経緯とか含めて伝えよう。

 クレメンテの事も同様に、今後命を狙われる彼の事が心配だから。


 父と母の事を聞こう、まぁ、こちらにコレといった話は来てないけど、父が母やエドガルド達に迷惑をかけてるんじゃないかと心配だ。


 最後は――そうだな。

 エドガルドについて。


 悩んだ。


 書きたい事はいくらでもあるのに、うまくそれを書けない。

 どれもこれも薄っぺらい文章に見えてこれじゃない感が酷い。


『飾る必要等どこにある、素直に書けばいい』


 神様の声が聞こえた。


――素直に――






 エドガルド、貴方が会えないのが寂しいと言ったように。

 私も、会えないのが――

 寂しいよ

 早く、会いたい――







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