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第四章:ちょっと波乱すぎない?!

講義開始日~さぁ、どうしてやろうかな?~




 休日が終わり、講義開始の日がやってきた。

 フィレンツォはてきぱきと朝食の準備と、片付け、エリアの身支度を整えるのと、私の身支度を整えた。

 本来ならエリアより私を先になのだが、私がエリアの身支度の方を優先してもらった。


 持ち物なども問題はないのを確認し、エリアの方を見る。

「エリア、行きましょう」

「は、はい」

 エリアは自分を落ち着かせるように「客人」の証であるブレスレットをつけていない方の手で触っていた。


 やはり怖いのだろう、学院に行ったら兄や自分に暴行、強姦行為を行った連中がいるのではないかと、自分に危害を加えてくるのではないかと。


「大丈夫です、エリア。私が守りますし、私が万が一いない時でもそのブレスレットが護ってくれますから」

「……」

 エリアはブレスレットに触りながらこくりと頷いた。



 インヴェルノ王家の留学中に使用する屋敷を出た私達は、アウトゥンノ王家の屋敷に向かう。

 インヴェルノ王家とは違う色合いの屋敷だなぁと思いながら、フィレンツォが呼び鐘を鳴らすと、少ししてブリジッタさんと、クレメンテが出てきた。

「おはようございます、クレメンテ殿下、ブリジッタさん」

「お、おはようございます、ダンテ殿下……フィレンツォ、さん……えっと……」

 エリアの事は伝えているがこういう形で会うのは二人は初めてだろう。

 エリアも緊張している感じだし、クレメンテは何か不安そうだし。


「エリア、こちらの御方はアウトゥンノ王家の第二王子、クレメンテ殿下と、その従者のブリジッタさんです」

「は、初めまして、クレメンテ殿下。お会いできて光栄、です。ぼ……わ、私、はエリア……ヴィオラと、申します……」

 エリアは何とか言葉を絞り出しながら、どうすればいいのか頭の中で探りながら名乗りの挨拶をしている。

 ただ、挨拶の仕方が貴族の出の類ではない。

「クレメンテ殿下、エリアは私の『客人』なのです」

 そう言うと、クレメンテは察してくれたようだった。

「――初めまして、エリア・ヴィオラ。私は……クレメンテ・アウトゥンノ。アウトゥンノ王国の……第二王子、です」

「初めまして、エリア様。私はクレメンテ殿下の従者をしております。ブリジッタ・アルテミジアと申します」

 エリアはぎこちなく、ブリジッタは丁寧に挨拶を返した。

 エリアは不安げにブレスレットを触っている。


「大丈夫ですよ、エリア」


 私はエリアに囁いて、微笑む。

 エリアは少しだけ安心したようだった。

「では、行きましょう」

 時間的に余裕はあるので、ゆっくりと五人で歩きながら学院へと向かう。





 歩いていると、目立った。

 目立つのは仕方ない。

 王族が並んで歩いているだけでなく、インヴェルノ王家の「客人」の証を付けた青年も一緒に歩いているのだ。

 王族同士が一緒にいるというのは、まぁ運よく同じ学年にいた場合起こり得る現象だ、それでもレアな方だが。

 ただその上に「客人」の証を付けている学生がいるという事はレア中のレア。


 何せ、王族の「客人」になるという事は、普通の貴族の家の出ならばもう家総出で祝いをするような位の出来事――

 なのだけれども、エリアの場合はそうではない。

 エリアを守るために私が「客人」にしたのだ、なので普通とは逆の事が起きている。

 エリアの家――基ヴィオラ伯爵家は、とんでもないことになっているだろう。

 一応今朝、フィレンツォにエリアが気にしている「カリオ」という執事に関しての事を伝えたか確認し、伝えたと確認もとれた。


 無論神様のお墨付きで。


 それと、エリアを暴行したり犯したりしてエリアの「兄」に金銭などを渡していた共同都市にいる連中はびっくりするくらいの早さで全員捕まったらしい。

 治安維持所の方たちは、エリアが訴える気になれば即座に捕まえられるように全員に目をつけていたとか。

 なら早く捕まえてほしいかったと思うが、訴えなければできないという面倒な制約。

 訴えてしまえばいいのだが、あの時のエリアにそれができるはずもない、なので私がエリアを「客人」にして、代理で訴えた。

 私が守るってくれるという信頼を何とか勝ち取れたから訴えれたので、安心はしている。

 なのでエリアの件はエリアが安心できる形で終わる事を待つのみだ。


 問題なのは、クレメンテの件。

 こっちはまだ片付いていない。

 さっさと片付けて落ち着きたいのだが、そう簡単にもいかないだろう。

 クレメンテが私と接触――基交流を持っているのだ、何か起きたらすぐバレるであろうことから早々簡単に手出しをしてこない分、尻尾を掴めず片付かない。


――いやはや、面倒な――

『まぁ、今は我慢しておけ』

――了解ですよー――


 まだまだ、色々と問題は山積みなのだ。

 とりあえず、今日の最初の授業というか講義について思い出す。


 調合錬金学基礎だったか?


――実際勉強してきたから分かるけど、最初の授業がこれってどうよ?――


 薬学、錬金学を合わせた内容の授業なのは分かっている。

 一応どっちも、城では教えられないと言われるくらい頑張って勉強はした。

 勉強すればするほど、後で楽になると神様に言われたから頑張った。


 気になるのは前世の「ゲーム」と違い、今ここでは何をするのかが分からないという事だ。

 それと、エリアについて。


 私はちらりとエリアを見る。

 酷く不安そうに、ブレスレットを触っている。

 おそらく、彼の薬学と錬金学の知識はかなり低いだろう。


 クレメンテの方はクソな親からのネグレクトがあったがブリジッタさんや兄達がおそらくなんとかしている気がするので其処迄不安げな表情はしていない。


 となると、フォローが必要なのはエリアだ。

 私は指で、フィレンツォに合図を軽く送る。

 フィレンツォはすぐさま私の簡単な仕草で私が何を要望しているのか気づいたらしく、エリアの傍による。

「エリア様、次の調合錬金学基礎の補助をさせていただいても宜しいですか?」

「え?」

「私が居ると、ダンテ殿下の足を引っ張ってしまうので、宜しければ」

「え、あ……」

 困惑しているエリアが私を見ると私は苦笑した。

「別に足を引っ張られてはいないのですが、フィレンツォがそう言ってるので、お願いできますか?」

「は、はい……」

 エリアは小さく頷いた。



 講義室に入ると、各机らしき箇所には錬金術に使用する、錬金台が備え付けられていた。

 ただ、基礎用の為か大がかりなものではないが、質は良い。

 私はフィレンツォ達と共に前の箇所に座った。

 私を真ん中に右にエリアその横にフィレンツォ、左にクレメンテその横にブリジッタさ

ん。


 前を選んだ理由。

 一番質問しやすそう、それだけ。


 場所的にどの席に座っても黒板が見えやすい作りの講義室だし、前世の大学の講義とは違い、この講義は毎日行われており、どれでもいいから週に一度でればよいのだ。

 行う授業もその週は同じ内容だから。


 研究室系等はより学びたい学生たちが所属するから、また違うことになる。



「……」

 嫌な視線を感じ、悟られぬように視線をずらせば、対抗心丸出しの視線を向ける馬鹿男ベネデットの姿があった。

 こいつも前の席に座ってやがる。


 執事は青い顔をしている。


――ああ、全く前世のゲームでは面倒だな程度の邪魔ものが、うぜぇレベルの邪魔野郎に進化してるよ、マジ面倒――


 此奴の鼻っ柱をへし折りたい気持ちはある。

 というか、自惚れ塗れの自尊心をぼっきぼきにへし折って謙虚という言葉を骨身にしみこませたいレベルだ。

 あの泣いて謝罪する両親を見た所為だな。


『ああ、それか。やっても構わぬ。へし折ってしまえ』

――有難うございます、やったぜ神様ご公認――


 神様のお墨付きももらった。

 ならば――


――へし折っていいよね?――


 私は心の中で加虐的に笑った。

 神様以外気づかないだろう――







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