目の前の赤チームがロープを挟んで並ぶ。外野からは「頑張れ!」だの応援が飛び交っている。今回の作戦も一気に引っ張る作戦。パワーがない俺たちにはこれがベストだと考えたからだ。しかし、相手も同じ戦法をしてきている。長期戦になることも考えておかないと。
―パァン
ピストルの音と共に、男子たちの野太い声が轟く。まったく同じタイミングで引き始めたから、ほぼ均衡状態。旗はどっちに傾くこともなく、ただまっすぐに立っている。これは長くなりそうだ。
1分後。俺たちの体力はもう限界に近づいていた。お互い力を使い切ったから、引いてもビクともしない。手のひらが痺れてくる。気を抜いたら手を離してしまいそうだ。相手は必死の形相で引いている。今なら…
「あの、声出しながら聞いてください。今、タイミング合ってるから動かないんで、タイミング外しましょう。」
「そうだね。ありがとう。」
声出ししていた先輩はもうひとつ、声を大きくする。
「オーエス!オーエス!オー、エス!オー、エス!」
先輩は一気にリズムを変えて、他全員を引っ張る。1回目で相手の姿勢が崩れ、2回目で旗は俺たちの方に傾いた。
『シャアァァァ!』
歓喜の声が地面を揺らす。グラウンド内は熱気に包まれ、優勝もしていないのにまるで優勝したかのようなテンションで盛り上がっている。俺は少し離れたところからそれを眺めていた。
少し休憩時間があって、決勝戦。相手の紫チームが入ってくる。もう並んでいた俺たちと向かい合う形で座った。
―パァン
ピストルが鳴った瞬間に綱を掴んだが、すぐに向こう側に引っ張られ、決着はついた。俺たちピンクチームは2位だった。
「一瞬だったな。」
「向こうが強すぎただけだろ。まぁこれでも、総合1位はキープしてるんだし、いいだろ。」
自分たちの待機場所に戻りながら奏と話す。そのとき、誰かに肩を叩かれた。
「さっきありがとね。」
「ど、どうも。」
さっきの先輩だった。
「君のアドバイスのおかげで2試合目に勝てたよ。ありがとう。」
「それはどうも。」
「じゃ、僕は借り物競争があるから行くね。」
「頑張ってください。」
先輩はヒラヒラと手を振って、入場門のところに駆けていく。その背中を無言で見送って、俺は待機場所に座った。