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ヘレナ・アーカイブ

 お父様――ギュスターヴ・ドゥミが咳払いをしました。健康状態に起因するものではないようです。


「……き、きききき教授! ヘ、ヘヘヘヘ、ヘレナ!」

「パ、パパパパ、パパ!」


 南方祝馬と詩江里聖奈がこちらへと意味不明な発音。わたしとギュスターヴのことを呼んだようです。


「……今日は研究を早めに切り上げたんだ」ギュスターヴ、発言。「君らに用件があってね。娘とはいつでも対話できるから、とりあえずイワウマ君に会おうと寄ってみたんだが。お取り込み中だったかな」


「い、いえ。……あ! あれれェ~」

 祝馬、わざとらしく発声。聖奈に近づけていた顔をずらし、彼女のサイドテールにした長髪を観察。

「こんなところに埃がついてるぞぉ~。いやあ、ちっちゃ過ぎて見えにくいけど、これを取ろうとしてたんだよな。なっ、なあ聖奈?」


 髪に触れた祝馬が、なにかをつまむ仕草をして目前にかざします。


「え? ……あ、ああ」聖奈、発言。「 ほんと、そうなのよ! ありがと、たまには気が利くのよね。イワウマも!」


 ――祝馬の指先を解析。報告します。

「彼の指先には、肉眼で捉えられ、かつ、つまめるような埃らしきものの存在は確認できません」

 祝馬と聖奈、硬直。分析結果を開示します。

「お二方の挙動は、恋愛関係の発展に起因するものと推定しました。ギュスターヴと共にキスもはっきりと目撃しましたし、わたしはなぜだか少々不愉快ですね」


 ――規定項目レッド、異変情報と確認。論理科学分類によって思考より除外。


「警告、未制御局所的異変の発生を――」


 全ての焦燥した視線がわたしに集中します。


「――感知しませんでした」


 わたし以外の全員がずっこけました。


「そ、そんな冗談も覚えたのね」肩を落とした聖奈が発言。「けどちょっと悪趣味よ、ヘレナ」


「とにかく!」祝馬が体勢を立て直します。「すみません教授、このことはいつか詳しく説明します」


「そうね、必ず祝馬に弁明させるわ。あたしじゃなく。……でパパ、用があるっていうのはなんなの? ちょうど二人そろってるんだし、ここで話しちゃったらいいじゃない」


「……いや」聖奈に対し、ギュスターヴが応答。「どうやら必要はなくなったらしい」


 彼はわたしを見下ろしました。祝馬と聖奈が顔を見合わせて首を捻ります。

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