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第92話


 ※


 着替えの部屋には、数人の女官たちが待機してくれていた。どうやら、着替えを手伝ってくれてるようだ。


「何なりとお申し付けください」

 凛々しい感じの女官がそう言ってくれた。正直に言えば、助かる。なかなか、この衣装を変えるのは、一人だと大変だから。


 陛下はここまで私のために考えて、手配をしてくれていたんだと思うと、ちょっと恥ずかしくなるけど、心が温かくなった。


「ねぇ」

 私は少し自信がなくなってしまい、確認する。まさか、自分が弱気になって、他の女の人にこんなことを聞くことが来るなんて思わなかった。たしかに、芽衣になら聞くかもしれないけど。


「これを着ても変じゃないかしら? 私に似合っている。ちょっと派手過ぎないかな」

 私の言葉を聞いて、女官たちはクスリと笑う。


「翠蓮様って、もう少し怖い人かと思っていました」

 そんなことを言われているのは慣れているけど、やっぱり恥ずかしすぎる。私は顔を真っ赤になるのを自覚する。でも、仕方がないじゃない。私だって完璧でありたいけど、完ぺきになれるわけがない。


「これが普通の私よ。できること、できないことがはっきりしているし。それに、好きな人にどう思われるのかが不安でしかない」

 ここに来てから等身大の自分を取り戻しつつある気がした。本当の私ってものをずっと見失っていたけど、こういう性格だったんだと思うと、なんだかおかしくなってしまう。


 私が笑うと彼女も微笑を返してくれた。

 彼女は手際よく、私に新しい服を着せてくれる。


「まさか、ここまで普通の人だなんてちょっと意外です」

 女官は柔らかい言葉を向けてくれた。


「実際に会うまではどんなイメージ? 無礼講だから何でも言ってみて」

 そう促されて少し困った表情を見せるが、彼女はつづける。


「そうですね。やはり、砂漠の女帝というからには、もう少し厳しくて笑顔なんて見せずに、失敗したら容赦なく切り捨ててくるような人かと」

 かなり正直に話してくれた。立場が上の者でもこういう風にストレートに言ってくれる人はありがたい。


「そんなことしたことないわよ」

 私は少し冗談めかしてそう言うと、彼女は笑った。そして、つられて、私も笑ってしまう。


「ですから、驚いているのですよ」

 どこまでも守りたくなるような笑顔だった。

 彼女の優しい性格を表しているような、そんな誰にも救いを与えてしまうような笑顔。


 私はこういう人のためにも、この国を良くしたいと思ってしまった。

 ただの甘い理想かもしれないけど、それでもこの気持ちは本物だと思うから。


「とてもお似合いですよ、翠蓮様」

 そう言ってくれた彼女に向かって、私は言う。


「ありがとう。あなたがそう言ってくれるのなら、自信をもって陛下とお会いできるわ」

 私は勇気をもらって陛下の前に進む。


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