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第3章 年上ドクターと年下御曹司

第22話 きらり、好きだ。(林太郎視点)

 為末林太郎、25歳。

 俺は見た目の良い女が嫌いだ。


 顔が良い女というのは、それだけで自分に価値があると勘違いする。

 その勘違いをさせているのはチヤホヤする男のせいだが、その価値観は年をとっても続くのが痛いところだ。


 俺の母親が元モデルで、父と結婚した頃は絶世の美女と言われていた。

 今、アラフィフになった母は自分の衰えが許せず整形依存症だ。


 美しさの基準もおかしくなったのか、顔がヒアルロン酸の打ち過ぎでパンパンになっている。

 はっきり言って、美しいどころか不自然過ぎて化け物に見える時さえある。


 食事は朝一食以外はサプリメントで、朝の一食も体内の糖度が上がらないように極端な砂糖抜き。そして、炭水化物は一切食べない。


 彼女の中ではルックスが全てで、俺に対しても自分と似て美しく生まれたことに感謝しろと毎日のように言ってくる。

 外見こそが全てと思っていて、まともな会話ができないので父の心も離れていった。


 兄が結婚したいと言ってきた相手を連れてきた時は、その女性の地味なルックスに中身で選んだと感心した。

 しかし、母は兄の地味な彼女に嫌味を言い続け、結婚後もイジメ倒した。


 兄の奥さんの子を、「嫁に似て不細工で可哀想」と言った時に兄もキレて、母と距離を取るようになった。

 嫁さんと子供の心を守る為に、為末の家から距離を取りシンガポールに移住してしまった。


 そんな訳で、アメリカで自由にやっていた次男の俺は急遽日本に呼び出され父の跡を継ぐことになった。

 日本には中学の時までいたが、飛び級が認められていなかったりあまり面白いと思えなかった。


 日本にいた時はルックスが良いからか、周りにいたほとんどの女子から告白された。

 俺は全く中身を見ようとしないで、俺の見た目や家柄しか見ない女に辟易した。


 梨田きらりを初めて見たときは、あまりの美人が雑居ビルの予備校の受付に座っていて合成写真かと思った。

 初対面で俺は「経験豊富そうだから、学生を誑かすな」と失礼なことを言ってしまった。

 彼女のことを、母のように全ての男は美しい自分に気があると思っているような女だと決めつけてしまった。


 しかし、彼女は母とは真逆の女だった。


 彼女はポテトをパクパク食べて、趣味は筋トレとスポーツ観戦だと言っていた。

 着飾らなく自然体で話す彼女との会話は楽しく、俺はどんどん彼女に惹かれていった。


 そして、アイドルの子たちのプロデュースも真剣にやっていて情が深い子だと思った。

 俺は1時間くらいで梨田きらりに落ちてしまった。


 自分から人を好きになるのは初めてだったので、どうアプローチしていいか分からなかった。

 彼女の御曹司なんて社長の息子ってだけという発言に、自分が御曹司だと言えなくなった。

 年下は恋愛対象外と言われて、年ばかりはどうしようもないので苦しくなった。


 デートに誘おうとしていたら、遊ぶことを考えてないで20代は仕事を頑張れと注意された。

 やっと野球観戦のデートに誘えて、楽しい時を過ごせた。


 外国人向けのドラッグストアーの展開をするために新しく子会社をつくり社長に就任することになった。

 大衆に周知するためにプレス会見を開いて、帰りの送迎車でネットを見たら俺ときらりのデート報道が出ていた。


 そして、きらりはアイドルをプロデュースするだけと言っていたのに、自分もアイドルとしてデビューしていた。

 俺は彼女を独り占めしたかったので、彼女がアイドルになって周りに彼女の魅力が伝わってしまうのは嫌だった。


 今朝方、きらりからの着信に喜んで電話を返したら、「もう会わない」と絶縁宣言された。

 初めて人を心から好きになったのに、絶縁宣言をされて俺は少しキレてしまった。


 きらりは俺が告白しても、そもそも俺のことを恋愛対象とさえ見ようとしない。

 しかも、散々元彼を思い出してぼーっとしているくせに、俺の告白を断るために気になる人がいるとまで言ってきた。


 俺は彼女の心をどうやったら掴めるかと悩みながら行動していたが、悠長なやり方をやめることにした。

 梨田きらり捕獲作戦は「押して、押して、押し倒す」作戦に変更する!


「本当に、もう林太郎とは会うわけにはいかないんだって。というか、ここだと人目に触れるよ。私はアイドルだから噂になるとマズいの!」

 きらりは俺と噂になるのを嫌がっているようだった。


 それは俺にとっては結構ショックなことだ。

「イケメン社長と付き合っているなんて、羨ましい」と彼女は今言われているのに、本人が俺を完全に拒否している。


「じゃあ、俺の家に行こう」

 俺と一緒にいられるところを見られるのが嫌と言うので、俺は彼女を送迎車に乗せようとした。

「えー! 絶対嫌だよ。百歩譲って私の家にして」


「了解!」

 俺は彼女の家に行けると思って、幸せな気分になった。

 彼女の案内で彼女の住んでいるマンションに到着する。

 初めて彼女の生活環境を覗けると思うとワクワクした。


「最初に言った通り、私に気があるなら仲良くするのは無理だから⋯⋯」

 俺の期待をよそにきらりは冷たく言い放って窓の外を見つめた。


 男女の友情というものは、どちらかが恋愛感情を持っていたら成立しない。

 俺ときらりは俺がきらりへの恋心を隠していたから、友情は成立していない。


 今朝、俺が自分の想いを告白してから彼女は俺を拒絶しはじめた。

 人に拒絶されるのが初めてのことで、俺は言葉が出ないくらい傷ついていた。


 自分も逆のことをやったことがあるかもしれないけれど、これほど傷つくこととは思っても見なかった。


 彼女のマンションに入り部屋の扉を開けると、なぜだか狭い部屋にはほぼベッドしかなかった。

 玄関を開けるとベッドが見えるなんて、これは生活する用の部屋ではない。


 部屋にあるのは主張の強いベッドと、ダンベルと縫いぐるみが置いてあるヨガマットと小さいテーブルくらいしかないのだ。

 壁沿いにくっついているキッチンは小さなもので、軽食くらいしか作れないだろう。

(これは寝るための部屋? 俺はもしかして誘われてる?)


 俺は途端に緊張してきてしまった。

 きらりは体育会系のサバサバした女だから、俺への気持ちが芽生えても伝えるのが恥ずかしかったのかもしれない。


 ベッドの主張が強い部屋でやることなんて1つだ。

(こんな部屋でする語らいなんて、体の語らいに決まっているじゃないか⋯⋯)


「きらり、好きだ」

 俺は彼女も俺のことを本当は想ってくれていたことに感動して、彼女をベッドに押し倒した。






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