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第88話 キノコに魅かれてやってきました。

 魔法少女一人劇場も無事(?)終わったことだし、お話も済んだことだし。

 じゃーなって片手を上げたサトーさんが、最初にそれに気が付いた。


「風呂敷……?」

「……の上にあるのは、パラソルかしら?」


 真っ暗なお空からふわふわとこっちに向かって降って来る、唐草模様の風呂敷。その風呂敷の真上には、フリフリレースの飾り付きの真っ白いパラソル。

 えーと。何あれ?

 新しい、魔法少女?

 風呂敷の上に、人影が見える。

 えーと、三つ? いや、三人?

 んー……?

 目を凝らして、人影の正体を見極めようと頑張ってみる。

 妖魔、じゃないとは思うけど。

 まあ、たとえ妖魔でも、ここには妖魔を殲滅するのが大好きな心春ここはると、地上にいた頃から妖魔を倒すプロだった月下げっかさんがいるから、問題ないけどね!


 なんてやってる内に、パラソル付き風呂敷がゆっくりゆっくりと人影を判別できるくらいまで降りてきて。

 うっわ!

 テンション、上がったー!!

 月光つきこちゃんたちじゃん!

 うーわ。ひっさしぶりー。

 近づいて来るのが見知った顔であることに安心して、あたしは心春のことも忘れて、三人の到着を今か今かと待ちわびる。

 早く~。早く~。

 頭、ナデナデしたい。

 心春みたいな、見た目だけの妹系とは違う、本物の妹にしたい系魔法少女。


 早くもみくちゃにしたくて、手をワキワキしていると、ついに風呂敷が地面の上にスレスレくらいまで降りて来て、そこでストップする。

 ちなみに。この時のあたしは、心春並みに気持ち悪かったと後で月下さんに言われた。頭の中が真っ白になるくらいにショックだった。

 ま、それは置いておいて。


「月ちゃん、着いたよ~」

「月光サマ、足元に気を付けてください」

「わ、分かってるってば!」


 月光ちゃんを真ん中に、風呂敷の上に正座をしていた三人が、それぞれ風呂敷を降りる。

 つぎはぎ風衣装で堅苦しい口調の方が、月光ちゃんに手を差し出してエスコートしようとしたけれど、月光ちゃんは子ども扱いされたと思ったのか、しっしとその手を振り払い、一人で風呂敷から降りる。

 たぶん、あれは子ども扱いじゃなくて、レディーファースト的なヤツだと思うんだけど。まあ、その勘違いも可愛い! むしろ、可愛い!


「ふっ。初めての顔もいるみたいだから、特別に自己紹介してあげる! あたしは、月光! 月が光ると書いて月光! その辺をうろついている魔法少女とは一味違う! 生まれながらにしての魔法少女! 月華つきはなと同じ、天然物の魔法少女なんだから!」


 年は見た感じ小学4年生くらい? 真っすぐな黒髪をポニーテールにして白いリボンで結んでいる。巫女さんの衣装をミニスカートにアレンジしたみたいな魔法少女コス。そして、垂れ目!

 そんな子が、腰に手を当てて、フンって感じで胸を反らしているんですよ?

 こんなのもう、可愛いしかないじゃないですか!?

 いろんな意味で天然もの!

 月光ちゃんの言っている天然っていうのは、月華や月下さんと一緒で地上にいた頃から、えーと? 霊能力? 的な力を持っていたっていう意味だと思うんだけど。

 うん。なんか、天然ものだよね!

 真の意味での妹系魔法少女、降臨だよ! いや、光臨って感じ? 意味はよく、分かんないけど!


「お初にお目にかかります。月に照らすと書いて、月照つきてると申します。月光サマの忠実なる僕の一人です」


 続いて、つぎはぎ風衣装の方が、優雅に一礼。

 あー、そうそう。こっちが、月照さんだった。年は月下さんとかと同じくらいかなぁ。あたしよりは、お姉さんな感じ。高校生?

 派手で甘めの顔立ち。睫毛はくるんくるんのバッサバサ。右の頬には三日月のペイント。髪の毛は、パステルレインボーのふわくるツインテール。一束ごとに違う色なやつ。

 衣装は、パッチワーク風と言うか、つぎはぎ風と言うか。おしゃれなのか貧乏なのか、判断に迷う微妙うなラインだけど、それがなぜか似合っている。


「カタカナでー、ツッキーだよー☆ 月ちゃんのー、親衛隊の一人でーす❤」


 最後はツッキーさん。

 白タキシードに身を包んだスラリと背の高い、ベリーショートのクール系美女が、柔らかくて間延びした声で挨拶しながら、ゆるっと敬礼のポーズを決める。

 目元がキリッキリで、涼やかな綺麗系女子なのに。

 外見と中身が合っていないんだよね、この人。

 てゆーか、月照さんとツッキーさんは、悪い魔女の呪いで中身が入れ替わっちゃってるんじゃないの?

 あと、ツッキーさんの年齢は、たぶんあたしよりは上だと思うんだけど、よく分かんない!


「こ、心に春で、心春です……! よろしく……よろしくお願いします!」


 三人の自己紹介を受けて、心春も一歩前に出て、深々と頭を下げる。

 呆然と震える声、でも、はっきりと分かるくらいに熱がこもっている。

 それを今ここで爆発させるのは止めてね?

 月光ちゃん、まだ子供だから! いや、あたしたちだって子供だけど、月光ちゃんはもっと本当に子供だから! くれぐれも、くれぐれも止めてね?

 念を送りながら心春の様子を窺う。

 頭を上げた心春は、完っ全に瞳孔が開いていた。

 旅立っていらっしゃる。

 うん、まあ、いいや。脳内でなら、お好きなように盛大に爆発させちゃってくれ。


「ねえねえ。キノコの着ぐるみを着てるってことは、魔法少女じゃなくて、マスコットキャラ設定ってこと? さっきのでっかいキノコは、あなたの魔法なの?」

「放心しているようですね? 先ほどのキノコ魔法のせいでしょうか?」

「あー、キノコすごかったもんねー。にょきー、ぐいーんって。魔法使いすぎてー、お疲れちゃんなのかなー?」


 興味津々で心春に近づく月光ちゃん。

 あー、そういや、今の心春はただのキノコの着ぐるみでしたねー。

 当然のように、月照さんとツッキーさんも月光ちゃんの後について来て、反応のない心春の目の前で手をひらひらさせた。

 えー。えーと。

 そういうわけじゃないんだけど、そういうことにしておこう。


「そ、そうかもしれないですね。えっと、心春は、その。キノコを愛するキノコ系魔法少女なんです」

「ふーん?」


 ちょっと上ずった声であたしが答えると、月光ちゃんは不思議そうにしつつも素直に頷いてくれた。

 ぷにぷに、と着ぐるみのお腹をつつくとそれで満足したのか、あっさりと心春から興味を失い、今度はスキップでサトーさんの方へ近づいていく。


「ねーねー、サトー。なんかおもしろい物あるー?」

「んー? どうかねー。まあ、好きに見ていいぞ」


 サトーさんが苦笑いしながらリヤカーの荷台を右手の親指でクイってする。やったーとガッツポーズをしてから荷台に駆け寄る月光ちゃん。

 そんな楽し気な月光ちゃんの後をついて行こうとしたお供の二人を、月下さんが呼び止めた。


「あ、待って、二人とも。大事な話があるの」

「大事な」

「お話ー?」


 二人はチラッと荷台を物色する月光ちゃんを見る。月下さんの話を聞こうか、月光ちゃんのところへ行こうか迷っているみたいだ。


「月光には、詳しいことは話したくないわ。危険な妖魔の話よ。もう何人か魔法少女がやられているの」

「…………魔法少女が? 分かりました。話を聞きましょう」

「んー、そうだねー。ずーっとアジトに引きこもってた月下美人げっかびじんがお外に出てくるくらいだもんねー。月光ちゃんを守るためにも、危険妖魔の情報を事前入手しておくのは大事なことだよねー」


 二人の前に立ちふさがり、真剣な顔をする月下さんを見て、二人はお話を聞くことに決めたようだ。

 あたしは、隣に突っ立っている心春の様子を窺い、まだ脳内会議で白熱中なのを確認すると、月光ちゃんの様子を見に行くことにした。

 サトーさんはどうでもいいけど、リヤカーの荷台の中身には興味があるしー。


 月光ちゃーん。あたしも、仲間に入れてー。


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