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第102話 花とキノコ

 クサリちゃんへの魔法少女プレゼン第一弾として、まずは『みんなで温泉に浸かってまったりしよう♪』企画が、さっそく実行されることになった。

 まあ、みんなゆうても、一部参加してない人もいるんだけどね。

 今度こそ、クサリちゃんをダシに月下げっかさんを連れ込もうと思ったんだけど。月華つきはな雪白ゆきしろと一緒に、逃した華月かげつへの対策を早急に考えたいというので、今回は諦めることになった。

 それは、お風呂に入ってからじゃダメなのかなぁ、と思って食い下がろうとしたのだけれど、月見サンに、


「まあ、素人には聞かせたくない話とかもあるのかもしれないし。それに、他の魔法少女たちの身の安全を考えると、早急に対策しないといけないのも確かだしねー。ここは、役割分担といきましょ! あの子をうまく仲間に引きずり込んで、華月のこともなんとかしたら、その時には! 引きずってでも温泉まったり女子トーク会に参加させちゃるしぃ!」


 とか言われて止められてしまったのだ。

 むう。そう言われると、確かにその通りだし。

 月見サンも諦めたわけではないみたいなので、今回は大人しく引き下がることにしました。

 あとは、錬金魔法に火がついちゃって錬金部屋に引きこもちゃった夜咲花よるさくはなと、闇底一可憐な魔法美少女だけど実は男の子(月華と心春ここはる)には内緒だけど)な紅桃《べにももが、これ幸いと夜咲花への付き添いを申し出て、アジトでお留守番することになった。

 紅桃がいる以上、どうやってもみんなでお風呂は無理なんだよなー……。

 どんなに美少女でも、男の子と一緒にお風呂には入れないからね。




 えー、まあ、そんなこんなで。

 クサリちゃんと一緒にお風呂企画の始まりですよ!


 温泉施設のキノコ外観に、ちょっとヒいてたクサリちゃんは、入ってすぐの憩いスペースにある自販機の中のキノコに怪訝そうな顔をしつつも、大人しく脱衣所へ続くのれんをくぐった。

 脱衣所のカゴに、クサリちゃんは悪役みたいなライダースーツを忌々し気に脱ぎ捨てる。

 魔法少女になるとこんなに便利なんですよアピールとして、あたしたちはみんな魔法を使って一瞬で裸に変身してみせた。これを、変身って言っていいのかはよく分からんけど。

 クサリちゃんは驚いた顔をしてはいたけれど、特に羨ましくはないみたいだった。

 便利なのに!

 それから、ふわふわのツインテールをゆるっとしたお団子にまとめて、心持ち頬を上気させながら浴室への扉をカラリと開けて、とがった声で開口一番。


「なんで、お風呂にキノコが浮いてるの? お風呂に浮かべるものって言ったら、普通、柚子とかじゃないの?」


 ですよねー……。

 そりゃごもっとも、とあたしと月見サンは頷いた。

 頷いたのは、あたしと月見サンだけだった。

 心春は元凶だし、ルナはよく分かってないみたいだし、フラワーはどうでもよさそうだった。

 常識派は、二人だけみたいだ。

 貴重な常識枠を増やすためにも、クサリちゃんにはぜひ仲間になってほしい。

 そのために、まずは。


「心春! キノコ消して! 柚子にして! 今すぐ!」

「え? そんな!? う、でも、仕方ありません! 分かりました!」


 クサリちゃんの声に応えるために、ビシッと心春に改修を命じる。心春はうろたえつつも、それがクサリちゃんのお望みなら仕方がないと観念したのか、割とあっさりと了解してくれた。

 心春がぱちんと指を鳴らすと、一瞬で湯船の中のキノコが消えて、代わりに柚子が現れる。

 や、やったー。これで、本当に本物の温泉らしくなったー!

 これには、あたしと月見サンのテンションも上がり、今すぐ柚子風呂へ飛び込みたくなったけれど、一番風呂はやはりクサリちゃんに譲らねばなるまい。

 クサリちゃんはキノコのことはすっかり忘れたように、キラキラした目で湯船を見つめている。

 チラチラと湯船を気にしながらも、シャワーで身を清めて、そして、ついに。


「はぁ。お風呂なんて、もう一生、入れないと思ってた……」


 湯船に浸かったクサリちゃんは、柚子をツンツンと突きながら、うっとりとため息をついた。


 う、うーん。

 エロい。

 スタイルいいな! うらやましい!


 お胸の大きさだけなら、ルナがダントツなんだけど。ルナはなんていうか、野生的と言うか健康的と言うか。こう、ドキドキする感じにはならないんだけど。

 クサリちゃんは、なんていうか、ちゃんとエロいな。いいな。

 クサリちゃんに見とれながら、あたしもゆっくりと湯船に体を沈める。

 はぅう~。沁みる~。いい匂い~。


「柚子風呂なんかよりも、キノコ風呂の方が絶対にいいと思うんですけど! もう、どうして、誰もキノコ風呂に入らないんでしょうか……?!」

「ふふ。フラワー風呂こそ、至高……」


 久しぶりのお風呂を堪能しているクサリちゃんを堪能しつつ柚子の香りに浸っていると、不満そうな声と、イっちゃってる感じにうっとりした声が聞こえてきた。

 ずんぐりしたキノコ型の、キノコがたっぷり詰まったキノコ風呂に浸かっている心春と、外国の映画とかに出てきそうな長細くて真っ白な陶器のバスタブにびっしりと花びらを浮かべた花風呂に浸かっているフラワーだ。

 どっちも、キノコ感とフラワー感が半端ない。


 クサリちゃんのオーダーでキノコ風呂を柚子風呂に改修したのはいいものの、やっぱりキノコが諦められないらしく、特製のキノコ風呂を作った心春さんと。

 そんな心春を見て、ならば自分もとばかりに、特製の花風呂を作ったフラワーさん。

 フラワーの花風呂は、あんなに花びらびっしりでなければ、あたしも入ってみたいなぁ。

 ………………。

 いや、やっぱりいいや。

 フラワーを知ってしまった今、あんなフラワーまみれのお風呂に浸かるなんて、フラワーに侵されそうでとんでもないって感じ。

 ああ。何も知らなかった、あの頃のあたしに戻りたい! 切実に!


 しかし、二人とも自由だなー。

 ある意味、羨ましい…………時もある。


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