今までの反抗的な態度は何だったんだってくらい。
滅茶苦茶スムーズ。
クサリちゃんは、コスチュームチェンジへの期待でいっぱいな様子で、目をウルウルさせながら、血が滴る月華の指先をパックンした。
で、チューってして、ごっくんすれば、契約は完了。
「マジカル☆シャワー! コスチュームチェンジ!!」
キラキラと弾むような掛け声とともに、クサリちゃんの頭上から七色の光のシャワーが降り注ぐ。
そして、光が収まるとそこには。
う、生まれた!
新生・魔法少女!
生まれた!!
イチゴのショートケーキ!
イチゴのショートケーキが生まれたよ!
赤とピンクと白で、白いのがふわふわしてて、イチゴのショートケーキな感じのコスチューム。
か、可愛い。
いや、悪の女幹部っぽい赤と黒のライダースーツも似合ってたけどさ。
アイドル顔のクサリちゃんに、女の子感満載のスイーツ系コスチュームは、本当によく似合っている。
そして! ちょっと、羨ましい!!
あたしもあんなの着てみたいけど、多分似合わない。うん、分かってる。
ま、まあ、顔ごと変身すれば…………って、いやいや、出来ないこともないけれど、それはなんか虚しいし。
じゃなくて!
あたしのことは、今はいいんだよ!
それよりも、クサリちゃんだよ。クサリちゃん!
新しいお名前は、どんなのかなー?
あー、これで、脳内でクサリちゃん呼びしないで済むよ。
その内、うっかり本人に呼びかけちゃいそうで、ひやひやしてたんだよね。
いろいろ、一安心だよ。
で。
当のクサリちゃんは、あたしたちのことなんてすっかり目に入っていない系のオンステージ状態で、高らかに名乗りを上げた。
「魔法少女! くりーみぃ☆レッドベリー! この世の悪を、根こそぎぶった切る!」
ひ、ひぃっ。
キラキラの中に混じるギラっとしたナニカ!
甘々に可愛く誕生したと思ったのに、怨念が混じっとる!
そこは、包み隠しといて欲しかった!
せめて、妖魔に会うまでは!
ま、まあ。この方が、クサリちゃん……違った、えっと、くりーみぃ☆レッドベリー?……っぽい感じだけど。てゆーか、長いな。レッドベリーでいっかな、もう。
「レッドベリー……? ストロベリーとは違うのか? 衣装的にはストロベリーだよな?」
「え? い、いや。だって、なんか、ストロベリーだと可愛すぎるし……」
「くりーみぃは、いいのか?」
「ぐっ。それはっ! 妖魔を血みどろにぶった切ってやりたいけれど、それだと甘さが足りないから、くりーみぃで中和してるのよ!」
「お、おう。そうか……」
しかし、レッドにそんな物騒な意味も込められていたとは……。
甘可愛い魔法少女への憧れと妖魔(主に
「ふむ。ま、ちょっと長いからー、普段はベリーでいいよね☆」
「はあ!?」
「あ。口上の時は、フルで名乗ってもらってオッケーだよー?」
「うん。その方が、呼びやすい」
「そうですね! 血と怨念が籠った、命名のエピソードを聞いた後だとフルでお呼びするのは躊躇われますし、ベリーが可愛らしくてお呼びするのに相応しいと思います!」
「みんなからの呼び名と、魂の名前が、必ずしも一致するとは限らない」
「ベリー! 覚えた! ルナもう、それしか覚えてない!」
「……って、ルナも言ってるから、ベリーでいいよね?」
顎に人差し指をあてて可愛らしく首を傾げた月見サンが、サクッとあたし以上に短くお名前をまとめて来て、不服そうなベリーだったけれど。
みんなからの追撃を受けて、ぐぬぬと押し黙る。
ちなみに。月華は契約が終わった後はもう我関せずな感じで、月下さんは少し離れたところから子供たちを見守るお母さんみたいにうっすらと笑みを浮かべながらこっちを見ていた。混ざりましょうよ、月下さん。この中では、年長でも、まだまだ若いんだから!
まあ、されはさておき。
納得がいってない感じのベリーだったけど、ルナの残念な感じに身もふたもない宣言を聞いて、いろいろ諦めたようだ。不承不承といった感じでしぶしぶ頷く。
「わ、分かったわよ。もう、それでいいわよ」
うん、まあねー。わざとじゃなくて、素で覚えられないって言われちゃったらねー。引き下がるしかないよね!
でも、あたしも、短い方が呼びやすい!
「よーし、それじゃ、歓迎会をしないとね。ベリー、何食べたい? 今日の主役はベリーだから、ベリーの食べたいものがメインだよ?」
「え? じゃ、じゃあ……。麻婆豆腐、辛いの……。デザートはイチゴのショートケーキで、飲み物はメロンソーダがいい……」
「か、辛いのも、好きなんだ……」
「うん。好き……」
錬金調理担当の
でもでも。てっきり、甘党なのかと思っていたのに。
まさかの、甘辛両党!
てゆーか、待って?
あたし、あんまり辛いの食べられないよ?
縋るように夜咲花を見つめると、夜咲花は重々しく頷いた。
「大丈夫。ちゃんと甘口も作る」
よ、よかったー。
命拾いしたぜ。