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第105話 フラワー的錬金魔法少女

 クサリちゃん改めベリーがね?

 麻婆豆腐を作るところを見てみたい……って言うから。

 じゃあ、あたしもってことで、一緒について行ったんだよ。夜咲花よるさくはなの錬金魔法部屋に。

 でね?

 久しぶりの錬金魔法部屋は、さ。

 しばらく見ないうちに、なんだか。


 フラワーなアレンジメントがされていた。

 フラワーなアレンジメントっていうか。

 フラワーでアレンジメントっていうか。

 …………フラワー部屋だよね。もうこれ。


「ここが錬金魔法部屋なの? なんだか、イメージしてたのと違う……んだけど……」

「んー、前はこうじゃなかった。普通に日本昔話の家の中に、それっぽい竈とか錬金グッズが置いてあった。でも、この間、フラワーが見学に来た時に二人で盛り上がって、なんか最終的にこうなった」

「ふ、ふーん……?」


 じゃーん!……って感じに片手を広げてフラワーリニューアルされたお部屋を紹介してくれる夜咲花は可愛いんだけど。

 お部屋の方は、フラワーにリニューアルされすぎちゃってる感じかなー……。

 もーね?

 床も壁も天井も、その全部にびっしりみっちりお花が飾られているんだよ。

 というか、花でできた部屋?

 いたずらな妖精さんの仕業……みたいな。

 お花そのものは、いろんな種類があって、綺麗だし可愛い。

 でも、やりすぎ!

 やりすぎはよくない!

 この部屋に、衣装がお花のフラワーが入ったら、どこにいるのか分からなくなるんじゃないの? えーと、擬態? そういう虫、いるよね?

 フラワー本体がどこかに隠れてじっとりと様子を窺っているんじゃないかと心配になって、なんだか落ち着かないんだよ。この部屋。

 ベリーも何か言いたそうにしていたけれど、夜咲花があまりに自慢そうにしているからか、微妙な顔をするだけで何も突っ込まない。

 てゆーか。

 夜咲花的にはアリなんだね。この部屋……。


「ええと、それより。なんでみんな、あの子のこと、フラワーって呼ぶの? 心花ここはなって名乗ってたよね?」

「そうだったっけ?」

「うん、そうなんだけど。フラワーはフラワーだから」

「そうなの? まあ、別にいいけど」


 部屋へのそれ以上のコメントは避けて、フラワーのことに話題は移る。移ったはいいけど、夜咲花さん。結構、フラワーと仲良くしているっぽいのに、本人が名乗ってる名前、覚えてないんかい。まあ、別にいいけど。フラワーだし。

 で。しょうがないので、あたしがフォローしておいた。

 確か、心花の前には違う名前だったんだよね。なんだっけ? フラワーアレンジメントな名前だった気がするけど、もう思い出せない。その頃からすでに、勝手にフラワーって呼んでたし。


「ところで、夜咲花。錬金釜はどこに行っちゃったの? 前は、錬金釜の中に材料をぶち込んでぐるぐるしてたよね?」

「え? 錬金釜? あるよ?」

「え? どこに?」

「ここ」

「え? これ? これ、錬金釜なの?」

「うん」


 お部屋の中が花花しているのは、まあいいとして。よくないけど、夜咲花が気に入っているなら、仕方がないから、いいとして。

 この間まであった、錬金釜が見当たらないので尋ねてみると、夜咲花は部屋の奥のフラワー的台座の上に置いてある(背景もフラワー的なので、よく見ないと宙に浮いているようにも見える……)、濃い緑の太い蔓で編んだカゴを指さした。なんか、外側に花のつぼみっぽいのがいくつもついている。

 ん、んー?

 近くで見たら錬金釜に見えるかと思って、花を踏みしめながら近づいて上から覗き込んでみたけど、中身が空っぽのカゴにしか見えないよ?

 なんか、材料的なものを入れてあるカゴとしか思えないのに、中身も空っぽとは、これ如何に?


「錬金釜には見えないけど? 液体とか入れたら普通に漏れそうじゃない? あと、釜ってことは火にくべるのよね? 燃えちゃうんじゃないの?」

「ふっふっふーん♪ 形に囚われてはいけない。ここは、闇底。闇底の錬金魔法部屋。そして、あたしは闇底の錬金魔法少女・夜咲花。その名に相応しい、新たな錬金魔法の方法を編み出したのさ♪」


 あたしと一緒にカゴを見に来たベリーが、夜咲花に疑いの眼差しを向ける。ショートケーキのように甘い見た目をしているのに、容赦なく矢継ぎ早にセリフをぶつけていく。

 夜咲花がすねちゃったりしたらどうしようかと心配したけど、夜咲花は両手を腰に当てて得意そうな顔のまま、なだらかな胸を反らしている。あたしに安心感を与えるお胸だ。いつまでも、そのままでいてほしい。いつまでもそのまま、あたしよりも小さいお胸のままで! 切実!

 と、あたしが神に祈っている間に、さっそく実演してくれることになっていた。


「まあ、見てて。飛び切り辛くて美味しい麻婆豆腐を作ってあげるから」


 夜咲花はそう言ってベリーに不敵っぽく笑いかけると、壁に生えているとうか壁そのもの? えーと、とにかく壁から花を適当にぶちぶちとむしり取り、夜咲花が錬金釜と言い張る蔓で編んだカゴにしか見えないものに、むしり取った花を放り込んでいく。

 うーん、雑。

 てゆーか、部屋そのものが材料にもなるんかい!

 ああ。部屋に入る前は結構わくわくしていたベリーのテンションが下がって行っているのが分かる。

 だ、大丈夫! 途中のアレはともかく、最後にはちゃんと美味しい麻婆豆腐が出来上がるのは間違いないから! そこだけは、信じられるから! 途中のアレはともかく!


 夜咲花はそんなベリーの様子にまったく気づくことなく、鼻歌でも歌い始めそうなご機嫌な様子で、掲げた右手の中に藍色の花の飾りのついた杖を呼び出す。

 手の中に突然現れた、花飾り付きの可愛い杖を見て、ダダ下がり中だったベリーのテンションがちょっと上がる。

 杖でカゴ……じゃない、錬金釜の中のお花をぐるぐるかき混ぜると、お花たちは溶けて液体になっていき、紫と白のマーブル模様が釜の中に出来上がる。

 ちょっと綺麗。

 ベリーも、わーって小さく歓声を上げながら、釜の中を覗き込んでいる。

 よかった。テンション、持ち直してきたみたい。

 そして、変化があったのは、釜の中だけじゃなかった。

 釜の外側にあるつぼみが、ゆっくりユラユラと咲き始めたのだ。赤い、炎のような花。

 うん。本物の花じゃないね、これ。

 花を模した炎みたい。

 それとも、炎でできた花?


 えーと、要するに、これ。火にくべている代わり、ってことなのかな?

 うーん。あたしの知っている錬金術とは違うけど、魔法少女の錬金術っぽくはある。

 ベリー的には、これはどうなのかなー、ってベリーの様子を見てみると。

 子供のように目をキラキラさせて、揺らめく炎の花びらを見つめていた。

 どうやら、お気に召したようだ。


「もうすぐ、完成だから。少し離れて」


 釜をぐるぐるするのに集中していた夜咲花が、その割にはのんびりした声で、あたしとベリーを少し後ろに下がらせる。

 釜の中からは、シューシューと激しく湯気が立ち始めていた。


「3・2・1。はいっ、できた!」


 もうもうと湯気が立ち込める中、ポップコーンが弾けるみたいに景気のよい音とともに釜から飛び出してきたものを、夜咲花が危なげなく両手でキャッチ。

 いや、危なげなくというか。両手を出して待ち構えていた夜咲花の手の中に、向こうの方から収まりにきた感じだったけど。


「ほ、本当に出来た。麻婆豆腐。ちゃんと辛そう」


 夜咲花の手の中の、百均で売ってそうな白い瀬戸物の深皿の中に、赤茶色の物体が湯気を立てている。その中に浮かぶ、ほんのり赤茶色に染まったお豆腐。うーん、あれは木綿豆腐だね。で、なんか上にかかっている粉っていうか、スパイス的なものから独特な香りが漂ってくる。う、あたし、これちょっと苦手かも。

 甘口の方には、これ、振りかけないどいてほしい。


「ジャンジャン作るから、どんどん運んで」


 夜咲花はそっけなくそう言うと、手に持っている麻婆豆腐を、ベリーかあたしかちょっと迷ってから、あたしの方へ差し出す。

 辛口だからベリーに渡そうとしたんだけど、ベリーがまだ錬金魔法を見学したい素振りを見せたから、配膳係はあたしにすることに決めたようだ。

 まあ、今回はベリーの歓迎会だからね。

 お客さんに、配膳係をやらせるわけにもいかないし。もちろん、あたしがやるよー。

 それに、フラワーの気配が濃厚に漂うこの部屋は、あんまり長居したい場所じゃないしね。

 二人きりにしても問題なさそうだし、あたしはこのまま退散しよう。

 うん。もういい。

 しばらく、この部屋には入りたくない。


 なんて思っていたんだけど。


 歓迎会の料理が一品、二品で済むはずもなく。

 結局、新しい料理が出来るたびに夜咲花に呼ばれて、何往復もする羽目になったよ……。


 てゆーかさ。

 テーブルを用意してその上に置いておいて、まとまったところでトレイかなんかで一気に運べばいいんじゃないのかな!


 って。

 何度も往復した後に、ようやくあたしも気が付いたよ……。


 おまけにさ。

 もしかして、夜咲花的なこだわりがあってわざとこうしているのかも? とか、ちょっとだけ断られるのを心配しながら恐る恐る提案してみたらさ。

 なるほど!……って顔で、あっさり頷かれて。

 次からは、そうする!……とか、言われて。


 ああ、もう、本当に!

 どうして、もっと早くに気が付かなかった! あたし!!


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