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第107話 星空の大地

「クリーミィ☆ウイングー!」


 弾けるような掛け声とともに。

 ベリーの背中に、生クリームをきゅっと絞りだして作ったみたいな羽が生える。

 お菓子で作った天使の羽っぽい、なんかとにかく可愛いヤツ!

 スイーツ系魔法少女。

 うーん。なんか、いいな。可愛いな。

 可愛すぎて、あたしもコスチューム・チェンジしたくなっちゃう!


 うーん。どんなのがいいだろ?


 メロンソーダ系魔法少女になって、ベリーとコンビを組むのも楽しそうだよね。ケーキと飲み物で、コンビというかセットっぽい!

 セット価格でお得な感じがするような? しないような?

 具体的にはー。スッキリとした透明感のある緑の衣装に、シュワシュワをイメージした飾りがついていて。チェリーの髪飾りかお帽子で。ストローを武器に戦う……?

 ちょっと、ワクワクしてきた!

 あ、でも。ベリーの好物を勝手にコスチュームにしたら、ベリーに怒られるかな?…………いや、それよりも心春が問題だった。お二人の絆を感じるとかなんとか、きっと勝手にありもしないあたしとベリーの女の子同士のいけない関係を妄想される。間違いない。

 うん。この案は、なしで。


 となるとー。

 ここは、やっぱり。

 人の好物じゃなくて、自分の好きなものを選ぶべき?

 コ、コロッケでいっちゃう?

 ……………………………………。

 いや、ダメだよ。冷静になれ、あたし!

 遠目で見たら、タワシと勘違いされそうじゃない?

 あと、これ。たぶんじゃなくて絶対。

 キノコと同じ色物枠に分類される……よね?

 うん。これも、なしで!


「おーい、星空ちゃーん! 何、ぼーっとしてるのー? ベリちゃんも、問題なく飛べるみたいだし。そろそろ、行くよー?」

「あ、はーい! 今、行きます!」

 はっ、いけない!

 コスチューム・チェンジについて考えいていたら、空から月見サンに催促されてしまった。

 てゆーか。月見サンは、ベリちゃんって呼ぶことにしたんですね?

 それも、可愛いな。


「うふふふふふ! 星空さんたら! ベリーさんの可愛ら神々しい姿に見とれて我を忘れてしまったんですね! 分かります!!」

「……………………カワ、イラ、コーゴーセイ?」

「星空ちゃーん☆ はっやくぅ☆」

「はい! 今! 今、行きます!」


 はっ、しまった。心春の意味不明な言葉に惑わされてたら、二度目の催促が飛んできてしまった。

 あ、もう、みんな、闇空で待機中なんですね?

 すいません。お待たせしてます。

 あたしは、慌てて浮き上がり、みんなの元へと飛んで行く。

 あたしたちは、これから。

 ベリーの初☆戦闘訓練に行くのだ。

 メンバーは、心春、ベリー、月見サン、そしてあたしの五人だ。


 特訓しようって言いだしたのは、心春だった。

 で、ベリーもめっちゃ乗り気になって。

 月見サンは、月下さんに頼まれて、一緒に行くことになった。お目付け役ってヤツ?

 そんで、あたしは。

 あたしは、なんか。

 心春に、連行されて?

 気が付いたら、アジトの外に連れ出されてたんだよね。

 いや、まあ。いいんだけどね?

 なんたって、記念すべきベリーの初☆戦闘訓練だからね!

 もちろん、付き合っちゃうよ!

 心春の妄想に付き合うのは、心の底からごめんなさいだけどね!


 さて、そんなわけで。

 先に離陸していたみんなと、お空で無事合流!

 このまま一気に目的地まで飛ばしてもいいんだけど、せっかくだから、ちょっと景色も楽しみつつ、ゆっくり飛ぼうかってことになった。

 ベリーは、闇空初体験だもんね!

 うーん、しかし。ゆっくりと空を飛んで行くキノコと三人の魔法少女、かー。

 キノコと、青空イメージの正統派魔法少女と、イチゴショートケーキ風と、ピンクと水色のバニーガール×マジシャン、かー。しかも、バニーマジシャンは竹ぼうきに乗って飛んでいるんだよねー。

 これ、知らん人が見たら、どう思うんだろうね?

 なんて、しょーもないことを考えていたら、ベリーが、ふるっと声を震わせた。


「綺麗だね……。足元に星空があるみたい」


 闇空をゆっくりゆったり飛びながら、ホタルモドキが飛び交う草原を見下ろして、ベリーがしんみりと呟いたのだ。長くてクルンクルンの羨ましい睫毛も震えている。

 うん。その気持ち、、分かるよ。

 あたしも、初めての時は、魂が吸い込まれそうになったもん。

 綺麗で幻想的すぎて、あの世感満載でもあるんだよね。

 こうして、空を飛んでいるからか。自分はもう魂だけの存在で、これからあの世に逝く途中なんじゃないか、的な。

 そんな気分になって、胸の奥がきゅってしてくるのだ。

 幼稚園を卒園した時に、遠くに引っ越して行っちゃって、それから一度も会っていない、仲のよかったあの子のことをふと思い出した時にもよく似ている、そんな感じ。


「うふふふふふふ! 足元に星空さんがいるだなんて、熱烈ですね! 地面にびっしりと何人もの星空さんが敷き詰められている感じでしょうか!? それとも、巨大な星空さんが闇底の大地として存在している…………? ふ、ふぉおおおおお! それは、それで素敵ですね!! 闇底の魔法少女たちを包み込む大地として存在する星空さん!! すべては星空さんの掌の上……ではなく、星空さんの体の上……ということですね!?」


 猛りながら空を浮遊するキノコ。

「ということですね!?」じゃないよ!

 ベリーにつられてちょっと感傷的になりつつあったしんみりムードが一気に消し飛んだよ!

 人の体を使って、何を妄想してくれちゃってるの!?


「ちょっと、ペース上げよっかー?」

「そうね。下を見てると、うっかりいらんものを想像しそうで、鑑賞する気も失せたし。早く、特訓を始めましょう」

「そうですね! 早く特訓を終わらせて、想像上の星空さんよりも、本物とじっくり見つめ合った方がいいですもんね! 任せてください! 妖魔の殲滅の仕方なら、この私がバッチリ、レクチャーいたします!」

「そう。よろしく」

「はい!」


 うわー。

 猛るキノコを、二人ともあっさりスルーだよ。

 なのに、スルーされたことにまったく気づいてない感じで、さらに絡んでくるキノコは、一体なにをどうしてその発言に至ったの?

 あたしが余計なツッコミを入れるまでもなく、ベリーにあしらわれてるけど。

 ベリー。頼もしい……。

 これからも、その調子でお願いします。



 あ。でもさ。

 あたしが大地になるっていうの、コロッケのコスチュームのあたしなら、ちょっと悪くない気もするな。

 それって最早、コロッケの大地じゃない?


 すべては、コロッケの掌の上、とか。

 心惹かれるワード!

 キラリ☆


 ――――なんて浮かれて、うっかり口に出しちゃったら。

 ベリーには引かれて。

 月見サンには大笑いされた。

 心春は妄想中だった。


 あれえ?

 すてきな考えだと思ったんだけどなー?


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