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第74話 拉致 ※美嗣の回想

〔※美嗣の回想〕


(お父さん……!)


背後から感じたその温もりと力強い腕の感触で、私は瞬時にそれが父であると悟った。

しかし、あまりにも唐突で、あまりにも強引だった。

抵抗しようと体をよじるけれど、父の腕は鉄のように固く、びくともしない。


逃げられない――そう理解した瞬間、何か柔らかい布が口元に押し当てられた。


タオル? いや、何か違う。

鼻腔を突く異様な匂いに、心臓が激しく鳴る。息を吸うたびに、頭がぼんやりとしていく。

身体の奥から力が抜け、視界が揺れる。


(まずい……!)


必死に抵抗しようとする。

腕を動かし、脚をばたつかせる。

けれど、父の腕は私を確実に拘束し、逃げ道を閉ざしていく。

頭の中で警鐘が鳴り響くのに、体は言うことを聞かない。

どこか遠くで誰かの声が聞こえる気がする。

でも、それが誰なのかも分からない。


意識が、薄れていく――


気づけば、私の世界は暗闇に包まれていた。


※美嗣の回想は続きます。


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