〔※美嗣の回想〕
(お父さん……!)
背後から感じたその温もりと力強い腕の感触で、私は瞬時にそれが父であると悟った。
しかし、あまりにも唐突で、あまりにも強引だった。
抵抗しようと体をよじるけれど、父の腕は鉄のように固く、びくともしない。
逃げられない――そう理解した瞬間、何か柔らかい布が口元に押し当てられた。
タオル? いや、何か違う。
鼻腔を突く異様な匂いに、心臓が激しく鳴る。息を吸うたびに、頭がぼんやりとしていく。
身体の奥から力が抜け、視界が揺れる。
(まずい……!)
必死に抵抗しようとする。
腕を動かし、脚をばたつかせる。
けれど、父の腕は私を確実に拘束し、逃げ道を閉ざしていく。
頭の中で警鐘が鳴り響くのに、体は言うことを聞かない。
どこか遠くで誰かの声が聞こえる気がする。
でも、それが誰なのかも分からない。
意識が、薄れていく――
気づけば、私の世界は暗闇に包まれていた。
※美嗣の回想は続きます。