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第76話 監禁 ※美嗣の回想

〔※美嗣の回想〕


次に目を覚ましたとき、私は見知らぬ場所にいた。

手足を縛られ、口を塞がれたまま、椅子に固定されている。


ここは……? 一体どこ……?


混乱する意識の中で、記憶が蘇る。私は、両親に捕まったのだ。

拉致された――そう理解した瞬間、絶望が押し寄せる。


どうしよう……! どうすればいい……!


両親は私をどうするつもりなのか?

殺されるのだろうか?

恐怖が全身を駆け巡る。


そのとき、扉が開いた。

現れたのは、父と母。


「目が覚めたか」

父が冷たい声で言う。

「お前は私たちの邪魔をする存在だ。消えてもらう」

母が憎しみに満ちた目で私を見下ろす。


必死に抵抗するが、父の力はあまりにも強い。

目の前にいるのは、血走った目でナイフを構える父。

(逃げられない……!)


咄嗟に、私は父の足元に足を引っ掛けた。

バランスを崩し、父はよろめく。その隙をついて、私は彼の手からナイフを奪い取った。


「ねえ、お父さん、教えて?

何で、紬お姉ちゃんや親戚のおじさん、おばさんを殺したの?」


美嗣の透き通る瞳が、父親の顔をじっと見つめる。

震える唇、泣きそうな表情。


父親は娘の問いに、一瞬言葉を詰まらせた。

重苦しい空気が部屋を満たし、時計の針の音がやけに大きく響く。

薄暗い部屋で、父親の顔は影に覆われ、その表情は読み取れない。


「あれは……事故だった」

絞り出すような声は、喉に何かが引っ掛かっているかのようにかすれていた。


「最初は殺すつもりなんてなかった。

俺が妻と親戚の家に紬を迎えに行ったとき、聞かれたんだ。

最近生まれた娘さん、どうしたんですかって」


遠くを見つめる父親の目に、記憶が蘇る。

あの時の情景が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


「俺は、娘がバラしたんじゃないかって紬を問い詰めた。

すると、親戚の旦那さんが紬を庇って間に入った……」


声が震える。

怒り、悲しみ、後悔。様々な感情が混ざり合っている。


「親戚の旦那さんは持病で心臓が悪くてな……急に苦しみだしたんだ。

親戚の奥さんが介抱に入り、家内も助けようとしたが、間に合わず生き絶えた……」


父親は、深く息を吐く。

まるで、重い荷を背負っているかのようだった。


「だから、俺は親戚の奥さんも……この手で殺めた。

そして、現場を目撃した紬も、生かしておくわけにはいかなかった……」


氷のように冷たい言葉が、美嗣の心に突き刺さる。


信じられない。

信じたくない。


紬お姉ちゃんが、あんなに優しかった紬お姉ちゃんが……こんなこと、あるはずがない。


「嘘だ」

美嗣は必死に首を横に振った。


「紬お姉ちゃんが死んだなんて、そんなこと……だって、だって……」


美嗣の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

頬を伝い、床に落ちる雫が、悲しみを物語っていた。


父親は娘の涙を静かに見つめていた。

その表情には、悲しみと絶望が満ちていた。

まるで、抜け殻のようだ。


「ごめん、美嗣」

絞り出すような父の声。


「でも……本当なんだ」


美嗣は泣き続けた。

どうして?

どうして?

どうして?


頭の中は、疑問符で埋め尽くされていた。


美嗣は父親の胸に、ナイフを振りかざす。


しかし――


「あっ……!!」


「美嗣……元気でな……」


「え!?

ちょっと……何で避けなかったの!?

ねえ、お父さん……!?」


違う……こんなこと……!


ナイフを奪い返したものの、私は父を傷つけるつもりはなかった。

しかし、ナイフを巡る押し問答の末――

誤って、父の腕を刺してしまった。


嘘……!


※美嗣の回想が続きます。



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