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第45話 蛹ヶ丘魔法学校1

 蛹ヶ丘魔法学校は周囲を森に囲まれていた。建物はコンクリート製だろうか、思っていたよりも近代的でしっかりしている。

「誰もいねぇな」

 オレがつぶやいた直後、土屋さんが気づいた。

「奥の方から声がするわ。行ってみましょう」

「ええ」

 航太が返事をし、オレたちは三人そろって敷地の奥へと向かう。

 クリーム色のレンガ造りの建物の前に人が集まっていた。赤い髪の男が何か叫んでおり、その腕にはぐったりとした様子の女性が抱かれている。どうやらまた殺人事件が起きたらしい。

 様子を見守っていた人たちの中に、見覚えのある姿が三つほどまざっていた。一人がこちらを振り返って声を上げる。

「あっ」

 顔を見れば北野響だ。他の二人もこちらを見て、日南梓が叫ぶ。

「『幕引き人』!?」

 びっくりしたのはオレたちもだ。

「何で『幕開け人』がここにいるんだよ!?」

 まさかこんなところで再会するとは思わなかった。っていうか何回生き返るんだ、日南梓。

「どうしてこんな時に……」

 と、もう一人の男が腰に差した柄に手を触れる。いつの間にか武器を所持してやがる。くそ、これは厄介なことになりそうだ。

「もしかしたら彼らのせいかもしれないな」

 ふと航太が言い、オレははっとした。

「あいつら、虚構世界をかき回しやがって!」

 片手を後ろへ回して大鎌を取り出す。しかし、すぐに土屋さんに注意された。

「とりあえず調査をするのが先。田村くんはそれをしまって」

「どうせ消すんでしょう? あいつらを先に――」

「しまうんだ、楓。あとでハグしてやるから」

「……くそ、航太が言うなら仕方ねぇ」

 こんな状況なので表情には出さないが、ハグされるのは大好きである。

 オレが武器をしまうと土屋さんが冗談まじりに言う。

「すっかり飼い慣らされたわね。それとも、千葉くんのしつけがよかったのかしら?」

「しつけなんてとんでもない。ただの愛です」

 航太は真面目に返してから前へ出た。

「さて、どうやらまた犠牲者が出てしまったようですね」

 日南が戸惑いながらも聞き返す。

「またって、何か知ってるのか?」

「ええ。蛹ヶ丘魔法学校で殺人事件が起きていることを知り、僕たちは調査に来ました」

 落ち着いた航太の言葉に日南が驚く。

「調査? じゃあ、オレたちを探してここに来たわけじゃないのか?」

「ええ、再会したのは偶然です。今回は調査を第一の目的としているので、戦うつもりはありません。落ち着いてください」

 日南は北野たちと顔を見合わせると敵意をしずめた。

「分かった。一時停戦だ」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

 と、航太が礼儀正しくも頭を下げる。敵に礼を言うなんて変だが、航太はやっぱり真面目なやつだ。

「では、さっそくですが、そちらの話を聞かせていただけませんか? 内部にいるあなたたちも、何か異変に気づいていたのでは?」

 北野がこちらへ一歩、歩み出た。

「おかしいことだらけだよ。敷地の外には出られないし、人もどんどん減っていくし、殺人事件が起きて遺体は消えるし」

「一つずつ、詳しく聞かせてください」

 間髪を入れずに航太は返し、日南が提案した。

「立ち話もなんだから座って話そうぜ。すぐそこに図書館があるんだし」

「ああ、そうでしたね。そうしましょう」

 すぐそばにある建物は図書館だったらしい。オレたちはひとまず落ち着いて話せる場所へ移動することにした。

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