蛹ヶ丘魔法学校は周囲を森に囲まれていた。建物はコンクリート製だろうか、思っていたよりも近代的でしっかりしている。
「誰もいねぇな」
オレがつぶやいた直後、土屋さんが気づいた。
「奥の方から声がするわ。行ってみましょう」
「ええ」
航太が返事をし、オレたちは三人そろって敷地の奥へと向かう。
クリーム色のレンガ造りの建物の前に人が集まっていた。赤い髪の男が何か叫んでおり、その腕にはぐったりとした様子の女性が抱かれている。どうやらまた殺人事件が起きたらしい。
様子を見守っていた人たちの中に、見覚えのある姿が三つほどまざっていた。一人がこちらを振り返って声を上げる。
「あっ」
顔を見れば北野響だ。他の二人もこちらを見て、日南梓が叫ぶ。
「『幕引き人』!?」
びっくりしたのはオレたちもだ。
「何で『幕開け人』がここにいるんだよ!?」
まさかこんなところで再会するとは思わなかった。っていうか何回生き返るんだ、日南梓。
「どうしてこんな時に……」
と、もう一人の男が腰に差した柄に手を触れる。いつの間にか武器を所持してやがる。くそ、これは厄介なことになりそうだ。
「もしかしたら彼らのせいかもしれないな」
ふと航太が言い、オレははっとした。
「あいつら、虚構世界をかき回しやがって!」
片手を後ろへ回して大鎌を取り出す。しかし、すぐに土屋さんに注意された。
「とりあえず調査をするのが先。田村くんはそれをしまって」
「どうせ消すんでしょう? あいつらを先に――」
「しまうんだ、楓。あとでハグしてやるから」
「……くそ、航太が言うなら仕方ねぇ」
こんな状況なので表情には出さないが、ハグされるのは大好きである。
オレが武器をしまうと土屋さんが冗談まじりに言う。
「すっかり飼い慣らされたわね。それとも、千葉くんのしつけがよかったのかしら?」
「しつけなんてとんでもない。ただの愛です」
航太は真面目に返してから前へ出た。
「さて、どうやらまた犠牲者が出てしまったようですね」
日南が戸惑いながらも聞き返す。
「またって、何か知ってるのか?」
「ええ。蛹ヶ丘魔法学校で殺人事件が起きていることを知り、僕たちは調査に来ました」
落ち着いた航太の言葉に日南が驚く。
「調査? じゃあ、オレたちを探してここに来たわけじゃないのか?」
「ええ、再会したのは偶然です。今回は調査を第一の目的としているので、戦うつもりはありません。落ち着いてください」
日南は北野たちと顔を見合わせると敵意を
「分かった。一時停戦だ」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
と、航太が礼儀正しくも頭を下げる。敵に礼を言うなんて変だが、航太はやっぱり真面目なやつだ。
「では、さっそくですが、そちらの話を聞かせていただけませんか? 内部にいるあなたたちも、何か異変に気づいていたのでは?」
北野がこちらへ一歩、歩み出た。
「おかしいことだらけだよ。敷地の外には出られないし、人もどんどん減っていくし、殺人事件が起きて遺体は消えるし」
「一つずつ、詳しく聞かせてください」
間髪を入れずに航太は返し、日南が提案した。
「立ち話もなんだから座って話そうぜ。すぐそこに図書館があるんだし」
「ああ、そうでしたね。そうしましょう」
すぐそばにある建物は図書館だったらしい。オレたちはひとまず落ち着いて話せる場所へ移動することにした。