サリアのおかげで無事に皆と合流出来た後、先程まで戦闘が行われていた場所に皆で行くとヴォルフガングの亡骸はその場に残されておらず、あるのは雪のように白い砂だけだった。
「……お父様」
この中で一番幼いルミィが瞳に涙を浮かべて、白い砂に触れているけど亡くなった人が帰って来る訳も無くて、妹に何て声を掛ければいいのが分からない。
「ルミィ……、その何て言えばいいのか俺には分からないけどよ、取り合えずその、なんだ?」
「大丈夫なの、お父様が負けたのはガイスト姉様よりも弱かっただけだからしょうがないって分かってるの」
「弱かったって、ルミィの父さんは俺から見ても恐ろしい程に強かったぜ?だからそんな事言わなくても……」
「ダリアちゃんありがとうなの、でもそれがこの国なの……」
第二王女とは言え、6歳の子供にそんな事を言わせてしまうこの国はやはり歪んでいて、強さこそが全てという異常さをぼくは受け入れる事が出来そうにない。
そういう意味では王位を継ぎ新たな覇王となったミュラッカが、ストラフィリアを変えてくれる事に期待したいけど、肝心の彼女といえば先程から黙り込んでしまっているままだ。
「ミュラッカちゃん、さっきから静かだけどどうしたの?」
「ダート義姉様、あの……、何でもな……」
「何でもない訳なんて無いでしょ?だってお父さんが亡骸も残さずに無くなるだけでも、ショックは大きいと思うし、それに王位を継いだ時にサリアの背中の上で言ってた事が気になるもの」
「……えっと、ごめんなさいカエデ様達はちょっと離れていて貰っていいですか?」
「ミュラッカ様の気持ちを組んであげたいのですが、栄花騎士団の副団長としてこの場で起きた事を記録しないといけないんです」
ミュラッカの願いを断り心器のガラスペンを顕現させてメモ帳を取り出すと何かを書き始める。
「では、シン様とトキさん達だけでもいいので……」
「わかりました、では二人はガイストの捜索をお願いします、後サリアさんは……」
「僕も空気を読んで離れるって言いたいんだけど、正直もうここにいる意味が無いんだよね……、依頼の分はもうやり終えたし、正直早く団長に合流したいんだけど……」
「サリアさん……、分かったわ、ここまでお力添え頂きありがとうございました、依頼料の方は前払いしておいた額で足りなければ後日またご連絡頂ければ、使いの者に届けさせます」
「うん、それでいいよ……、後くれぐれも僕が獣化した姿を触れ回らないようにお願いしますっ!死絶傭兵団の副団長は戦う事が出来ないお飾りの無能って言うのが傭兵界隈での常識だから、知られたくないんだよね、……んー、後は特に言う事は無いし僕はこれで帰ります」
サリアは帽子を外しながらぼく達に対して頭を下げるとその身を、虹色の羽を持つフクロウに変えて飛んでいってしまう。
さっきは獣人族だと知らなかったら、異常種のモンスターと間違われるかもしれない異形な姿だったのに、今度は珍しい羽の色をした鳥類になった事に驚きを隠せない。
「じゃああたい等もガイストを捜しに行くよ、あそこまでボロボロにされたんだからまともに動けないだろうしね」
「……ミュラッカお前が何を抱え込んでいるかは分からないが、それが生きる重しになるなら捨ててしまえ、自分の人生はお前が決めて良いのだから」
「シン様ありがとうございます、王位を継いで覇王になると決めたのは私の意志ですから決して捨てる事はしません、でも……辛くなったらあなたの側で泣く位は許して貰えますか?」
「それくらいお前の勝手にしろ、だがまぁ……呼ばれたらいつでも俺は来るから安心してその時は思う存分泣けば良い」
「……ありがとうございます」
シンはミュラッカの頭を優しく撫でるとトキを連れてガイストを捜しに離れていく。
ミュラッカは離れて行く彼等を見ながら頬を赤く染めると、先程とは違って笑顔でぼく達の方を見る。
「シン様のおかげで不安が消し飛んだわ、それにやはりあの人はいいわね何というか安心する……、彼なら私が身に封じた者を抑えられなくなっても止めれ貰えそう」
「……やはりその身に神の力を宿すのは苦しいので?」
「その落ち着き方、やぱりカエデ様は知ってるのね」
「えぇ、栄花騎士団団長及び副団長はこの役職に着いた時に全てを教えられますから……、何たって騎士団を作ったのが私の先祖であり、お伽噺にもなっている英雄【斬鬼 キリサキ・ゼン】ですから、彼が遺した手記に書いて詳しく書いてあるんです……、字が凄い汚いので解読に時間が掛かりましたけど」
「そう……、なら敢えて聞くけどあなた達は何時になったら私達を狩るの?」
私達を狩る、その言葉に必死にルミィを慰めていたダリアや、近くで話を聞いていたぼく達は驚いてカエデを見てしまう。
ルミィもその言葉の意味が理解出来ていないようでキョトンとした顔をしているけど、この現状を間違いなく二人以外把握出来ていない。
「狩る……、ですか?」
「あら?カエデ様は知らないのね、私の中にいる存在が言っているわ、この世界は完全に融合し既に一つになっているから楔はもう必要ないと」
「そんな話、わ、わた、し知らない……」
「あなた本当に知らないのね……、なら団長様に直接これを伝えてちょうだい、私達五大国の王がその身に封じているのは既に神としての力を失い、存在そのものが災厄と化した災害そのものだと、現にあの時その身に神の力を降ろした父様は本来の武神の姿では無く、理性を無くした獣になり果てた末に死んだわ……、もしガイスト姉様との戦いで致命傷を負って無かったらこの国は今頃滅ぼされていた筈よ、それに何時までも五大国の王族がその身に災害を封じて居られるか分からないと思う、今の私達が問題無かったとしても次の世代の王は?または遠い未来の王は耐えられるの?」
「あぁ、それは大丈夫なんじゃないかなだって……」
……そうなったらマリステラが滅ぼして再度王族の誰かに封印するからと言いそうになったけど、咄嗟に手で口を抑えて言葉に出すのを止める。
そんなぼくを見てミュラッカが『兄様、もしかして何かを知っているの?』と睨みつけて来るけど、『ごめん、知っているけど口に出さない約束をしてる相手が居るんだ……』としか言えない。
この何とも言えない張りつめた雰囲気をどうしようかと思っていると、シン達が向かった場所から戦闘音がするのだった。