33. 姫騎士
そして翌日。私は準備をして家を出ると、そこには騎士団長のレイヴンさんが、堂々とした佇まいの馬車で迎えに来てくれていた。馬車は、黒塗りの重厚な車体に、騎士団の紋章が誇らしげに輝いている。私は、少し緊張しながらも、その馬車に乗り込み、お城へと向かうことにした。
私は、いつもの制服ではなく、お父様が張り切って用意してくれた軽装鎧を身につけていた。それは、私の身体にぴったりとフィットし、動きやすさと防御力を兼ね備えた、上質なものだった。腰には、愛用の剣がしっかりと収まっている。そして、いつものように、長い金髪を赤いリボンでポニーテールに結んでいた。
「あの……私の格好、大丈夫でしょうか?一応、姫騎士ということなので、それなりの格好をしてきたのですけど……」
「心配はいらん。とてもよく似合ってるよ。まるで本物の姫騎士のようだ」
レイヴンさんは、私の姿をじっくりと見ると、満足そうに頷いた。その言葉に、私は少しだけ頬を赤らめた。
「あ、ありがとうございます……」
なっなに!?急に褒められてドキッとしちゃったじゃない。もう~やめてよね。こっちは乙女なんだから!それからしばらくすると、馬車はお城の門に到着した。私たちは馬車から降りると、すぐに門番の騎士が駆け寄ってきた。
私は、レイヴンさんの後ろで控えている。うわーすごい……初めて間近に見たけど、やっぱり大きいわね。私が見上げながらお城を眺めていると、レイヴンさんが話しかけてきた。
「イデア嬢。申し訳ないが、ここからは1人でお願いできるだろうか?急用が入ってな」
「え?はい」
「では、姫様によろしくな」
そう言うと、レイヴンさんは門の中に消えていった。えっと……どうすればいいのかな。私はとりあえず近くにいた騎士に声をかけることにした。
「こんにちは。私はイデア=ライオットです。今日からフレデリカ姫様の姫騎士を代理でおこなうことになっているんですが」
「ああ。話しは聞いているよ。フレデリカ姫様の部屋まで案内しよう」
どうやら案内してくれるらしい。私はその騎士のあとを大人しくついていくことにする。しばらく歩くとフレデリカ姫様の部屋の前にたどり着いた。
正直フレデリカ姫様と会うのは久しぶりだからか少し緊張している自分もいる。私は大きく深呼吸をしてから、扉をノックする。
コンッコンッ
……あれ?返事がないんだけど……。もう一度ノックをする。だがやはり反応はない。
「失礼します……」
まさか部屋の中で倒れてるんじゃ?と思ってしまったので、勝手に開けるのはどうかと思ったけど、思い切ってドアノブに手をかけて回す。すると鍵はかかっておらず簡単に開いた。
恐る恐る扉を開けると、目の前にいきなり大きな炎の玉が現れて私に襲いかかってくる。私は水属性魔法を使い咄嗟に防御壁を展開しなんとか防ぐ。
「ちょ!いきなりなに!?」
「やるじゃない。今度は吹き飛ばされずに完全に防ぎましたわね?」
そこには薄紅色の美しい長い髪を靡かせ、いつもの制服とは違う、豪華なドレスを身に纏ったフレデリカ姫様が笑みを浮かべながら凛と立っていた。その姿は王族と呼べる気品が溢れており、私はフレデリカ姫様の普段とは違う姿に少し目を奪われてしまっていた。
「どうかしまして?」
「あ。……いきなりなんなんですかフレデリカ姫様!?怪我をしたらどうするんですか!?」
「ふふ。少しお茶目な挨拶よ?お久しぶりねイデア。来てくれたのね元気そうで何よりだわ」
「フレデリカ姫様もお変わりないようで安心しました」
お茶目にも程があるけどね。入学式のことを思い出して懐かしい気持ちにもなった。
「さあ中に入って。今日は学園ではないから気楽にしてちょうだい」
「あ、うん」
フレデリカ姫様に招かれて部屋に入ると、ソファーに座るように言われたので遠慮なく腰掛ける。それにしても広い部屋だなぁ。この国の第一皇女だから当然だけど。良く考えたら『姫騎士』なんて凄く光栄なことなんだよね。せっかく推薦してもらったし、精一杯頑張らないと!