モミジとヤナギの二人が道を外れ、人目につかないよう進んでいけば、チラホラと魔導具や魔導銃の類いで武装した者が見られるようになる。
(哨戒している奴は然程多くないが、一々潰して回るのも面倒。封印処理に関しては出来なくないが、魔法陣を設置するかある程度近づかなくちゃ出来ないし、取り敢えずは中枢まで見送るか)
物音を立てずに地図の導き通り進んでいけば、すんなりと多くの構成員が屯する一角へと到着した。
(罠ではありませんね)
(罠に掛ける理由がないからな。構成員の数はそれなりに多いがどうする、前回みたく凸撃をかますか?)
(クラバの存在を考慮すれば奇襲が一番有効ですので、私が突撃してから妨害及び追撃をお願いします)
(領解。相手を殺すかどうかの判断は任せるが、まあ一々捕縛している余裕もないか)
(…、そうですね。末端とは規模が異なりますし、多少は生け捕りにして情報を引き出しましょうか)
(助かる。末端を虱潰しにしても効果は薄いし、最近は組織規模が大きくなりつつあるから、決定打がほしいんだ)
(…破落戸集団を依存性のある違法魔導具を用いて取り込んでいますからね…。質は落ちますが、数は厄介の一言)
(…、よし、そいじゃ行くか)
ヤナギはモミジの言葉に肯いて、『一意専辰』を発動した。
「敵襲だ」という何の変哲もない言葉は、荒れ狂う嵐たるヤナギによって掻き消され、魔法を放とうとするも魔法陣が自壊し彼らの陣形が崩壊を始める。
「『汎ゆるを閉ざせ、封臥印』」
魔導具の類いを使用するため、構えた者たちはその表面に薄氷のように薄っすらと浮かぶ僅かな魔法陣を見つけては、この場に“何”が来たかを察し白兵戦の準備を開始した。
「来たか魔法殺し!うおおああああ!!」
掛け声猛々しく打刀を振り上げた構成員はモミジへ駆け出し、掲げられた両の腕を振り下ろそうとするのだが。
「『汎ゆるを閉ざせ、封臥印』」
(これで一人確保。悪徒とはいえ殺してしまうのは忍びないが…、俺のことを天冥で恨むといい)
振り下ろした刀を両手で握り、魔法殺しを殺さんと迫りくる相手をモミジは斬り伏せていく。
現代魔法戦術に慣れ親しんだ者からすると、刀や槍を握る原始的な白兵戦などというのは得意とするものではなく、連携のれの字もない個々の突撃を繰り返すばかり。
(なっちゃいないな、…俺が原因だが)
突撃してきた男の一人が振り下ろす刃を軽く避け、更に後ろから斬り込んできた男をに対し振り返ることもなく逆手持ちにした打刀で後突に一刺、くるりと柄を回してからの横薙ぎで、先に躱した相手ごと斬り捨てた。
「なんだコイツ、珍妙な剣術を!纏まって斬りかかれ、複数人なら対処出来ないはずだ!」
「ふぅー…」
(本番一発、失敗はできないな)
足並みを揃えるため相手が一呼吸置いた時、モミジは刀を鞘へ納めては腰を落とす。
「亡名流抜刀剣術改『玉石同裁』、舞台囘」
鞘寝かせ抜刀の構えをとったモミジは、刀を抜き振るうと同時に自身を独楽のように一回転する。すると本来届かないはずの距離を置いた周囲の悪徒たちは、腹を一斉に斬り裂かれ悲鳴と共に血の池へ沈んでいく。こうも派手な技を披露され一斉に仲間が倒されると、人というのは恐怖が掻き立てられ真っ当な判断を失ってしまう。
「此処で仕留めてねえと俺達の命がない!一斉に挑んで殺せ殺せ!」
「そうはさせませんよ」
暴れまわっていたヤナギは声を上げていた敵を刺殺し、完全に相手の足並みを足場を崩してみせる。
「なんなんだよコイツら」
「知らんのか?俺達は…
「えぇ…縁起が悪すぎますよ…」
ヤナギのツッコミは空と消え、その場の者たちへ伝染病葉という縁起の欠片もない名前が広がってしまう。
「呵々!賑やかしいと来てみれば、ワスレナではなくワクラバだったか!」
一室から顔を見せたのは、寝乱れ髪に無精髭の、ヘビノシャクシである。
「あんたは…ヘビノシャクシか」
「知っているとは…あぁそういうことか。こういった縁は天冥からの落とし物、拾わずば鱗が曇る。当方は『地下楼の水蛇』に雇われている剣客用心棒のヘビノシャクシ、黒髪のワクラバよ名乗ると良い」
「ただのワクラバの一人。それだけだ」
「そうか。…ではワクラバ、手合わせ願おう」
「元よりその心算だ」
「宜しい!お前らはそっちの仮面を相手してろ、当方はワクラバの対処をする!」