「おお、此処は食料庫か!
三人が断層内を進み彼是探していると、封印魔法が施された一室が見つかり、瞬く間もなくモミジが封印を解体、解錠に成功した。対如何物想定であったのか、それなりの強度を誇っていたのだが、そんな事はお構いなし。封緘の銀を前にはただの扉と相違ないのだ。
「保存食ですか。品質が良いとは言えませんが、数日の足しになりましょう」
「水もありますから、浄化は私が行いますね。料理も必要であれば行いますが」
「俺も茶を沸かすくらいは一人でやっているんだが、料理は城の調理人に任せっきりだな」
「私とクリサンセマムの二人で担当しますので、モミジ殿下は
「構わんぞ。一応、何をどれだけ入れたかの記録だけは残しておきたいから、書き出しに協力してくれ。カピカピになった保存食が後から出てきたら嫌だろ?」
「あー……、承知しました」
(長期休み前の収納棚か…)
(実家の犬小屋か…)
「くくっ、これで暫くの探索が出来そうだな」
「そうなりますよね…」
「行けるところまで行きましょうか」
封印の影響で食害がなく、三人でも七日は食い繋ぐことができると、一行は安堵の吐息を漏らす。
「被害の少ない部屋だ、此処を拠点にして少し身体を休めるとしよう」
「承知しました。…では殿下がお休みの間、私が出入り口の有りそうな場所を見てきても?」
「成る
「…、一応ですが人の往来、その痕跡で大まかな目星は付けられますが」
「それなら休息後三人で向かおう。俺が言えた口ではないが、一人で行動すべきではないし、お前を失うわけにもいかない」
「承知しました」
「ならば封印を施してしまうぞ。『
扉に封印を施したモミジは、木箱の上に腰を下ろし横になっては瞳を閉じて休息を図る。
「殿下、私の上着をお使いください」
「いやいい、自身らの体調管理に尽力しろ。…、国のため変えの利かない存在だと言いたいだろうが、この状況ではお前たちが居なくなった段階で、かなり厳しい状況に陥りかねん。自愛せよ、これは命令だ」
次第にモミジから寝息が聞こえてきて、ヒイラギとクリサは自身の上着をモミジへ被せて顔を合わせる。
「断層に関してはクリサンセマムの方が専門家であろう。今の状況はどう見ている?」
「危険の一言ですね。出てくる如何物が弱いのが唯一の救いってところで、断層探索用の装備も無しの杖一本で閉じ込められているなんて、今の一瞬すら考えたくもないですよ。あっ、クリサでいいですよ、長いんで」
「専門家のクリサがそういうのなら拙い状況なのでしょう…。何が何でもモミジ殿下は帰さなくてはならないのですが…」
「………、あまり得策とはいえないので、殿下の起きている内は口を噤んでいたのですが」
「…?」
「断層というのは深層で他の断層と繋がっている可能性があるんです、確実とは言えませんし深くへ進む必要もあります」
「ならば数日様子見をして」
「いえ、どれだけの深度があるか分からない断層。若しも繋がっていたとしても、別の深層から再び出口を目指すため昇るだけの日数が必要です。様子見をする余裕は一切ありません、殿下なら」
「進むというでしょう。………、この顔ぶれで進めるもの、なのですか?」
(殿下がコウヨウ君に化けてくれるのなら、前衛二人、格段に上がるんだけど…。こればかりは本人に相談する他無いよね)
「モミジ殿下次第というところです。起床なされたら相談してみましょうか」
「わかりました。私は…賛同したくはありません。ただ、モミジ殿下の意向次第では肯く他ありませんので」
「ならお互いに身体を休めましょう。短時間毎、交代交代で」
「承知。先ずは私が担当しますのでクリサは横になるといい」
「お願いします」
適当な場所に雑魚寝したクリサ。そしてヒイラギは天井を仰いで、今後の予定を立てていく。
「
「いいんじゃね?可能性があるならそっちに賭けようぜ、有り金全部だ!」
「ではいいんですね?」
「ああ。ヒイラギ、俺の秘密を一つ教えてやる」
「秘密…?」
「俺はな、こうやって変身し、市井で活動しているんだ。………、どうだ?」
黒髪蒼眼、金髪で軽薄そうな姿、小翼竜、そして本来の姿へと百面相をすると、ヒイラギは口をあんぐり空けた後、思い当たる節があるのか考え込む。
「魔法殺しの義賊衆というのは殿下の子飼いではなく、殿下ご自身でしたか」
「伝染病葉って正式名称があるからそっちで宜しく」
「「縁起の悪い名前ですね…」」
「知っている者は限られているから、変に口外しないようにな、協力者くん」
「え、私も巻き込まれる感じかい?」
「当たり前だろ?この前に偶然会った不寝飲屋、あそこを拠点に活動してるから、気が向いたら寄ってくれ。無事帰れて余裕ができたら話しを通しておくから」
「了解」
「二人は元々知り合いだったのですか?」
「ああ、学術院で。ちなみに今回、秋の三日月が選ばれたのは偶然だ。クリサが冒険者してたことなんて知らなかったからな」
「用心護衛なんて聞いていましたから、魔導局員のお偉いさんくらいかと高をくくっていたらモミジ殿下、驚きましたね…色々と」
「というわけで、戦力も増えたんだ。さっさと深層へ向かおうぜ!」
「理解が…理解が及びませんが可能性に賭けましょう」
釈然としないヒイラギだが、モミジを無事に帰せる可能性があるのだと自身に言い聞かせ、二人とともに立ち上がり腰に佩く刀へと手をかけた。