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第51話 実際蹴りやすい


 聖剣は浄水器じゃない。


 しかし、聖剣なんて持っていても使いどころはないし、そもそも俺のものでもない。ここは皆のために使ってしまった方がいいか?


 水に剣を浸けていては錆びそうだが……聖剣なんだから平気じゃないだろうか? それに、長い間シルシュに刺さって血を浴びていたのに錆びた様子はないし。今さら水くらいでは駄目にならないだろう。


 というわけで。岩山を登り、水が湧き出ている岩の裂け目付近へ。大体あのあたりかと見当を付けてから空間収納ストレージに手を突っ込み、聖剣を取りだした。相も変わらず装飾過多な剣だ。


 ……なんか聖剣が小刻みに震えている気がするが、剣が震えるわけないので気のせいだろう。たぶん足場が悪いからそう感じるだけだな。


 というわけで。俺は岩の裂け目に聖剣を突き刺すというか、半ば放り込んだのだった。ぽちゃーんっと。


「お?」


 なんか知らないが僅かに水がキラキラし始めたような? いや水なんだから日の光を反射してキラキラするのは当たり前なんだが、それがさらに増したような気がする。


 岩山から降り、メイスに問いかける。


「メイス、どうだ?」


「……やはり私の目では視えないですね」


「そうか。聖剣も聖なるもの判定か……。じゃあ、俺が水を飲んでみるから、俺の体調が変化するかどうかを視てくれるか?」


「え!? 飲むんですか!?」


「おう。水の鑑定はできなくても、人間の体調は分かるだろ?」


「それはそうですが……危ないのでは?」


「まぁ、大丈夫だろ。シルシュによると頑丈になっているらしいし。いざというときはエリザベス嬢が回復魔法を掛けてくれるさ」


「それは、そうかもしれませんが……」


 メイスが戸惑っているうちに手で水を掬い、飲んでみる。


「こ、これは!」


 カッと目を見開く俺。


「な、何ですかどうしました!?」


「う、」


「う?」


「うまい!」


「……ありきたりなボケをしないでください!」


 なぜかメイスに尻を蹴られる俺だった。俺のケツってそんなに蹴りやすいのか……?





「あれはアーク君が悪い」


「心配しました」


「ん。もうちょっと考えてから行動するべき」


 なぜか正座させられ、シャルロット、メイス、ミラからお説教を受ける俺だった。いや十分考えた上での行動だったよな……?


「人の心が分かってないなぁ」


 と、ラックに肩をすくめられてしまった。『女心が分からない』から『人の心が分からない』にランクアップ(?)したようだ……。


 このままだとドンドン責められそうなので強引に話題を転換する。


「え~っと、メイス。俺の体調はどうかな? 自分としては大して変わってないというか、むしろ調子がいいくらいなんだが」


「そうですね……」


 メイスが眼鏡を外し、じっと俺を見つめてきた。

 普段の穏やかそうなメイスと違って、眼鏡を外すと少しクールな印象になるんだよな。これはこれで。いやしかしやはり眼鏡を掛けたメイスもまた魅力的だな。つまりどちらのメイスも素敵ってことだ。


「…………」


「…………」


 なぜかシャルロットとミラからジトッとした目を向けられてしまった。心が読めるミラはとにかく、なぜシャルロットまで……? これが女の勘ってヤツか……?


 女性ってこわいなーっと考えていると、俺の鑑定が終わったらしい。


「……問題なさそうですね。むしろ、数値が微増しているような?」


「数値?」


「はい。筋力やら俊敏さを数値化したものが、ほんの僅かに」


 ステータスみたいなものか?


「……人間の能力が数値化して見えるのか?」


「端的に言えばそうなりますね。ただ、一部の例外を除けば人間の能力なんてそれほど変わりませんけれど」


「あぁ、まぁ、それはそうか」


 一流のスポーツ選手とかならともかく、一般人なら体力とか筋力にさほどの差はないだろう。いや騎士をやっている俺やラックなら一般人より高いだろうが。


「……ちなみにこれは好奇心からの質問なんだが、人間とシルシュってどれくらい数値に差があるんだ?」


 なにせ俺がまったく抜け出せなかった筋力だからな。純粋に気になるのだ。


「いえ、シルシュ様は鑑定できませんので」


「おっと、それもそうだったな」


 聖寄りか邪寄りかは知らないが、そういうのは鑑定できないのだった。失念失念。




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