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第124話 来年もまた

 その後は俺にとって消化試合をこなすような時間だった。

 奄美先輩と二人で出し物を回れるだけ回った。

「さっきの出し物、中々面白かったわね」

「それはよかったです」

 奄美先輩は気の向くままに行く出し物を決め、それぞれの出し物を楽しんでいるみたいだった。

 さっき王子と仲良さそうに喋っている女子を見たばっかで、なおかつそのせいで作戦が破綻したというのに何でそんな元気そうなんでしょうか。自分、先輩の情緒がよくわかんないです。



 一通りの出し物を見て、校庭の適当な場所で休んでいると途中で奄美先輩に

「あ、そろそろ仕事の時間ね」

 という声が掛けられた。

「ああ、そう言えばこの時間までって話でしたね」

 作戦の打ち合わせで言及されてたのにすっかり忘れてたよ。俺も疲れてるのかな。原因に心当たりがありまくりだよ。

「そうね。じゃあ、私は戻るわ」

 奄美先輩が一足先に踏み出した。

「ひょっとしたら来年もまたあなたと一緒に文化祭回るかもね」

 奄美先輩、またまたそんな冗談を。

「来年、先輩と一緒に回ってる相手は榊の方でしょう」


 そうであってくれないと俺が困る。

 俺は奄美先輩と王子が結ばれるまで奄美先輩から解放されない。

 奄美先輩、王子、いやそもそもの元凶である加賀見のいずれかが転校でも退学でもしてこの学校からいなくなってくれれば話は別だが、どうせそんな都合のいい展開は期待しても無意味だ。

 俺としては奄美先輩の野望を叶えてさっさと自分の時間を(一部だけど)取り返したいのだ。

 今回の文化祭ではうまくいかなかったものの、なるべく早くに事を終わらせたい。

 来年の文化祭まで俺が奄美先輩と一緒にいるとか、一年以上今のようなスケジュールで学校生活を過ごすってことじゃないですか。そんなの本当に勘弁願いたい。

 俺も奄美先輩がどうやったら王子と結ばれるか真剣に考えなきゃいけない。

 その考える時間の分だけ俺の自由時間が減ると思うとどうにも苦痛だが、四の五の言っていられない。


「ふふ、そうなるように応援よろしくね」

 奄美先輩は第二校舎のある方へ離れていった。



 その後は普通に一人で過ごした。

 安達・加賀見・春野・日高の女子四人には俺がいつ奄美先輩との用事を終えるかわからないと伝えている。ならば俺が一人になったところで気付くわけがない。

 そう思っていたところにメッセージが入った。

「アンタ、今一人なんでしょ?」

 差出人は加賀見という名を持つ悪魔だった。

「ん、何でだ?」

 肯定も否定もせず、まずはそう思った理由から訊き出してみる。対応を間違えるとシャレにならないから。

「奄美先輩からそう連絡来た」

 ……奄美先輩。本当に几帳面ですね。そんなに几帳面なら何で大事なときにスマホを忘れるなんて初歩的なドジを踏んだんですか。

「おお、そうか。悪いな、今俺もメッセージで連絡するところだった」

 否定しなくてよかったと思いつつ、とりあえず予防線を張った。

「そういうことにしてあげる。さっさと第一校舎の入り口に集合」

 俺は全てを諦め、安達と加賀見の待つ場所に向かった。

 奄美先輩に対してはさっき作戦を中止したときに散々偉そうな感想を持っていたが、今なら奄美先輩の気分を少しわかる気がする。大きな障害を前にして自分のやりたいことを叶えようとする努力が無駄に思えたんですね。


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