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第128話 何するか

 安達へのプレゼントの候補が出たところで、

「んじゃ、誕生日会で何するか考えよっか」

 加賀見が皆にそう呼び掛けた。

「とりあえずコイツの隠し芸はトリにするとして……」

「ちょっと待て」

 さっきから俺が全く聞いてない話を当然のようにぶっ込んでくる加賀見にたまらず物言いをつける。

「え、どうしたの黒山君」

 加賀見が急にビクっと肩を揺らし、グーに閉じた右手を口元に寄せて上の台詞をほざく。以前も言った記憶があるが、お前普段は君付けなんかしねえだろ。

 その表情は天敵を前にした小動物を彷彿とさせる怯えぶりを見せ、俺に加害者然の印象を与えてきた。こんな白々しい演技を見せられるのも何か久しぶりだな。

「俺は隠し芸なんて持ってないしするなんて全く言った憶えないぞ」

「うん、私も聞いた憶えないよ?」

「それで何で俺の隠し芸をやること前提なんだ」

「それが一番盛り上がりそうだから」

「だから隠し芸持ってねえっての」

「今から身に付ければいいじゃん」

 怯えたような素振りは最初だけで後は全ていつも通りの傲岸な口調に戻った加賀見。お前やるならやるでもうちょっと続けてみろや。

「まーた始まった。好きだねえ二人とも」

「ね、ねえマユちゃん。無理して芸とかやらなくても楽しくできるんじゃないかな」

 日高が事の次第を傍観し、春野が真面目にも俺達のアホなやり取りを止めようとする。春野さんマジ天使。

「……それなら当日にケーキとかお菓子とか飲み物買って、パーっと開けちゃうとか?」

 春野を前に加賀見が別の案を出す。

「うん、それでよくない?」

「充分盛り上がると思う!」

 日高と春野が同意することで、誕生日会の方針は大方決まった。やれやれ。



 安達の誕生日当日である放課後、加賀見が二組の教室にやって来る。

「ミユ、行こ」

「うん」

 普段の通りに加賀見と安達が一緒に下校する。

 今日は安達に怪しまれないよう、加賀見は何食わぬ顔で安達と接していた。その手際は見事なもので、安達から「マユちゃん、何かあった?」などと疑問に持たれることなく至って普通にやり過ごしていた。加賀見の真剣さがどれ程のものか窺い知れる。

 ここで加賀見が俺へと目配せする。


 俺は二人よりも早く校舎を出て、春野・日高のいる場所へ急いだ。

「おー、来た来た」

「こんにちは、黒山君」

 春野・日高は今日の業間休みに二組の教室へ来ておらず、今日は安達や俺とまだ顔を合わせていなかった。先日の打合せで決めた通りだった。

 これに関しては二人が五組の友達との付き合いを優先して二組へ来ない日が度々あったため、安達から不審に思われることもなかった。それよりも二人が何かの拍子に口を滑らす(特に春野)リスクを考慮して今日は来ない方がいい、ということだった。

「ミユちゃん、怪しんでなかった?」

「いーや特に」

 二人と話していると、見覚えのある女子二人がこちらに近づいてきた。

「黒山君も一緒なんて珍しいね」

「そうだな」

「うん、今日は皆でミユに用事があるからね」

 加賀見がそう言うと鞄から丁寧にラッピングされた箱を取り出し、安達の前に差し出した。

「ミユ、誕生日おめでとう」

「おめでとー」

「おめでとう、ミユちゃん!」

 女子三人が安達の誕生を祝した。


「え、え?」

 安達が困惑したように女子達の方をキョロキョロする。

 安達、ひょっとして今日が自分の誕生日って忘れてたのか?


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