―――しん、と静まり返る空気。ルカは惨めな気持ちになった。
「……ルナ……キミが過去に失くしたもの、きっと何よりも大事なものを沢山失ってしまって……その苦しみ、分かってあげたい、共有したい……ずっとそう思ってきた。
でもサイで読むのも禁止、そして心にバリケードを張って決して立ち入らせようとしない。それが悔しいんだよ……悲しいんだよ……その程度の私って本当に大事なの?」
「そうじゃないっ! それでもしルカが最大の理解者になってしまったら……ルカまで奪われてしまう……そしたらボクはもう生きて行けなくなる……だから理解してほしくなかった。言えなかった。この事だってホントは伝えたくなかったのに……」
「フン、そんなジンクス……だったら私は絶対に先に死なないっ! 約束するっっ!」
フ……と、その誓いを嘲笑気味に鼻で笑うルナ。
デモアリガト、と気の無いこもり声で返す。
「信じてないな! なら誓うよ!……たとえ何があろうと約束する!」
「……って……」
まるで憑き物に憑かれた様なルナの物凄い目つきが返される。
「そんな出来ない約束なんてしないでよ――っ!! 」
余りにムキになられ、目を丸くするルカ。ルナは直ぐに反省し、硬直する。
「………………ゴメン……分かってる……勝手に信じた方が悪いって事ぐらい。いや、約束は破られた訳じゃない。でも……でも果たされなかった時……信じた分だけ心がメチャクチャに……だって……心までは……守れないんだよ……」
「……お兄さんとの事?…… でも私は守る自信ある。だって今まで不誠実な事あった?」
「そう言う事じゃ……でも、だったら今ここで心の底から誓える? 絶対に神に誓える?」
「誓うよ! ルナが信じてくれるまで何度だって誓う! あの世まで……いや、この世か……そこまで追いかけた私だよ ?! 絶対に自信あるっ!」
「じゃあ本当に証明出来るというなら、その命と引き換えに守って欲しいと言ったら?」
「もちろんそうするに決まってる!」
「ホラ、やっぱり! 先に死なないって約束したのにっ!」
「うっっっ」
「その考えが有る限り
そんなの大っキライだよ! もう二度とゴメンなんだ! だからもうだめ! 聞く耳なんて持ってあげ…」
「じゃあ自分だってどうなのっ! 私を残して死んだよね! 人の事よく言えるよねっっ!」
「そう! だからもうそんな事許されない! キミも、ボクも、セイカちゃんも兄さんもぜ―んぶダメ! 油断ならない。誰も信じられない! もうあんなこと繰り返させないよ!」
「だけどルナ、それは…」
「ウルサ―――イッッ! もう神にも奪わせない! ルカを失う対象に等させるもんかっ!……だからルカには絶対に絶対に絶ぇっ対に本気にならないんだからぁ――――っ!!」
怒りに似たあからさまな険の混じる声音で叫び、背を向けたままワナワナと震え続ける。
「……ルナ………………」
一歩、二歩と近づくルカ。 困ったように眉を寄せつつ微かに笑みを浮かべてこう言った。
「そんなに私を? ……けど、それでも私はルナを愛するよ。
そして例え戦いの中、事故の時の様にルナが犠牲になってくれたとしても、
私は何度だって追う!
悲しむ間もなく追ってみせる! !………
だってキミの様にただ悲しみを抱え込んで生きていくよりもずっと大切な事があるはずっ!
傷つきたくないから本気にならないなんて言って、逃げたりはしないっっっっっ!!!」
『!!!……』
衝撃を受け一瞬目を見開くルナ。
だが、しばし瞑目した後、力無く首を横振りし、背を向けたまま云った。
「ルカはボクを追ってみたら偶々《たまたま》会えた。でも、そうでなければボクの様に苦しみ続けたはず! そうなって初めてボクの言ってる事が分かるんだよ……
もう本当にやなんだよ……うううぐ……はあうう……グスッ……うううぐっ……ズズ……やだよぉ……ルカァ……ルカだけはいなくならないでよお……ううああああああ―――……………………」
ルカの胸に飛び込み、ただ惨めに泣き続ける。呆然と頭を撫で頬を寄せるルカ。
『…………』
今は追う程に大事な何かが零れ落ちていく様で、心の距離をどう詰めたらいいかも分からず、これ以上はマズイと身を引いて、優しく
「ルナは色々あったから……きっと疲れてるんだよ……今日はもう遅いから寝よ……」
* * *
―――翌朝。
昨日の事で三人同部屋で寝ていたが、満月の影響が未だ残るのか情緒が乱れて眠りが浅かったルナは早くから意識が覚醒していた。
そこへシクシク泣き出したノエルの声でルカも目覚める。先に起き上がったルナが優しいオネエさん声で懸命に
「どうしたの? 悲しい夢でも見たの? ちゃんとねぇねが傍にいるよ」
「きのう、ねーねたち、けんかしてた……のえるのせいだ……のえるはよくないんだ。もういたらだめなんだ」
「ち、ちがうよ! そんなことない! ない!」
「のえるがいたら、またけんかするんだ」
「あれは違うことでお話ししてたの!」
「でも、のえるはすてられちゃうんだ」
「心配しなくていいの! だってノエちゃんのことだ~い好き。ズ~ット一緒だよ」
つぶらな瞳に涙を一杯溜めて
「ホントだよ~! だってさぁ~、一緒にいると~、と―っても気持ちがフン~ワリするし~、
……それにノエルちゃん、かわいいんだもんっ!」
「のえる、かわいいの?」
「うん、スッゴクかわいいよ」
「じゃ、ねえねのためにもっとかわいくなったらうれしい?」
「モチロンだよ……ハッ ――――」
正にあの日の兄とのやりとり。イキナリ顔を覆ってダッシュと同時に真声で『ちょっとゴメントイレっ』と吐き捨て、ダダダ……バタンッ
『うわああっっ…………』