「じゃ、ねえねのためにもっとかわいくなったらうれしい?」
「モチロンだよ……ハッ ――――」
正にあの日の兄とのやりとり。イキナリ顔を覆ってダッシュと同時に真声で『ちょっとゴメントイレっ』と吐き捨て、ダダダ……バタンッ
『うわああっっ…………』
一連のやり取りをルナの背から見ていたルカは唖然とし、そのリアクションの意味が分からず、
「……今、ルナ、泣いてた?」
「うん。ないてるよ。 しんじゃったにーにがおんなじこといってくれたって……」
「今そう言ってたっけ?」
「うぅうん、おもってるの……それといまわ、にーにをたすけようとして、はんたいにじぶんがたすけられて、それでにーにがしんじゃったって。
じぶんのせいだってないてるの。それだけゎぜったいにだめなことだったの。とってもかなしいの。
でもルカねえねにもほんとのきもちバレたから、きっとおなじことになるって……もっともっとないてるの……」
――――この子!……
異常に魔力のステータスが高いからサイが使えなくても魔法の心眼で分かっちゃうんだ……スゴイ……
でも……でもきっとそうなんだ………
以前、考えただけでも頭がぐちゃぐちゃになるって。 だから男の人を愛するなんて到底考えられなくて、そしてその人にカワイイって言って貰えた事が今でも忘れられなくて……
自分にも他人にもやたらそれを求めて……
結果、可愛い女の
そしてようやくそれら全てを汲んで理解し合える存在のセイカちゃんを再び自己犠牲で失うことになって……
立て続けの理解者の喪失でルナの心はズタズタに引き裂かれて、もうどうしようもないんだ……。
なのにルナが一番恐れてる事を私は無理矢理要求してばかり……
それどころかこんなにも追い詰めてた。
―――ごめんね、君を守る為の私な筈なのに。
キミがお兄さんを失うまで一体どれ程の事が有ったのか、そしてどれだけ深く傷付いたか……
今は分からない。
それでも……いつかきっと、その引き裂かれた大っきな破れ目を縫い合わせてあげたい……
ルナ……。
* * *
その頃、王宮から連邦政府へと大侵攻の予知情報を正式に通達。
王立軍を統べるサイキック隊隊長は、来たる大戦に備えるよう準備を急がせる。永らく辛酸を舐めてきた人類は近年、特に現代兵器と転生者召喚という真反対の路線で軍力を拡充して来た。
『来るならやってやる』
と、そう意気込む軍の士気は高い。しかしこの男の頭には別の考えがあった。
ファスターの賭け――――それは。
――― 今は勝つ以外に興味を持つべきではない。だが百回戦っての全勝が最善ではない。来たる大戦、必死に追い返してもまた繰り返せば何の意味もない。
根元を絶ち終止符を打つ。
その最大の障壁、ギガダンジョン第二層から先にこの百年間誰の侵入も許さぬ鉄壁の超怪物『スーパー・ラヴァ』。どうにか先へ進む方法を見出さねばならない。
次の大戦、激突する最前線・北方緩衝地域が要所となって互いの最大戦力を置く事は必至。だが守りの長けた者はそれを固めるだけでなく攻め時にすかさず切り込み闘う猶予を与えない。それでこそ損害を極小化できる!
万全の態勢で来た敵の隙に乗じて予想なき道を行き警戒を
この状況でのそれは……
『ヤツらの絶対守護=地獄の門番、
ファスターにはそうした自信と秘策があった。しかし同時に二つの懸念もあった。
ひとつは ――――
自分がこの護衛任務からまだ離れられないこと。
もう一つは ――――
スーパーラヴァ級の門番は唯一なのかの確証……
この大戦を出し抜く為にファスターが最前線に立つ必要があったが、ここへ来て遂に大きな前進を見せた。全王宮内へのシールドの配備が完成間近だからだ。それでこの男の結界護衛も不要となる。
……後は最後の懸念、かの門番が
* * *
その頃。
その後も続くルナ達[取り返し隊]への出動要請。増々功を成してゆく。
更なる実戦の中での戦力向上、そして熾烈を極める日々の乱取りに全力で向き合う二人。急がれる大戦への備えが真剣さと焦りを助長し、更なる勢いで伸びてゆく実力。
今朝も特訓を終え、食事の支度をするルカに神妙な呼び声が。
焦点の合わぬ目で
「ルカ来てぇっ、ノエルの様子が変っ! なんかに取り憑かれてるかもっ!」
慌てて駆け寄り覗き込むルカ。
『もしもし、もしもし』
確かに妙に大人びた声になっている分だけ逆に背筋を寒くさせる。そのギャップを感じさせたままノエルは話し始めた。
「もしもし、ルナさん、聞こえますか?」
ヒッ! なっ、何でこんな口調?―――
だが続く言葉はすぐに別の驚きを二人にもたらした。
「私よセイカ。もしこれが聴こえているならノエルちゃんを少しだけ借りてるって事なの……心配しないでね。どうしても伝えたい事色々あって……。上手く話せるかな……でも、是非聞いて欲しい」
ノエルが危険ではないと解り、少し安堵した二人。
そして次の言葉に耳を澄ます。
「どうやらこの地下世界はそちらからの千里眼を警戒してサイキックシールドしてる様だけど、逆方向は自分達が見れなくなるからやってないみたい。お陰で
最初こちらから千里眼で地上のあなたを探し続けたけど中々見つからず、でも自分の耳を預けた事を思い出して、その存在に意識を集中してみてやっと探しだせたの。
そしてあなた達の活躍を見れた。多くの人を救って立派だわ。これからも頑張ってね、私、応援してる。――― バディのルカさんもよ」
面識のないこの人からの応援は不思議な気持ちにさせられる。ある意味ルナを想うライバルであり、また、同志でもあるセイカに少し思いを馳せるルカ。
「そうしてそのルナさん達二人のすぐ傍に魔力の巨大な無意識領域を見つけた。それがノエルちゃん。
そこへなら私の小さな魔力でも見つからずに転送が出来るんじゃないかと思い付いてこの前試したら成功したの。
陽炎のように希薄な『魔法のてんとう虫の転送』に!
私はそれに言語を音楽にして詰め込んで、その無意識領域へ転送させた。そんな微かな物でもてんとう虫好きなノエルちゃんは捕まえてくれてちゃんと顕在化してくれたの! 云わば魔力の暗号化通信のテストに成功した。
これで少くとも私からは安全に連絡出来る様になる。そんな訳で早速今私に出来る事、こちら地下の状況を伝えます」
セイカはそう言って、あれ以降、その身体的に特別な境遇―――両性具有―――ゆえに地下の最深奥の第六層で王妃のような特別扱いで不自由のない待遇を受けている事、そして王と逢わされて、その世界の事、そこへ連れて来られた目的を聴かされたと語った。
「彼らは先代の魔王さえ葬った最強のサイキック種族。魔王ですらこのアンドロジャナス王に傷一つつけられなかった。今はその魔王の子を陰で操り、実権だけ握って生きている。
でもこのジャナス族は今、王と十人だけ。しかも真実は百年前の伝説の勇者との戦いで王は死に、王子と王妃のみ生き残り、その王妃も勇者の追撃から王子を庇って浴びた放射線攻撃の後遺症で逃げ延びた後に死んだ。
つまり今の王は逃げ延びた実子。最後の一人で絶滅確定の種族」