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第67話  本気で立ち上がるならどこ迄もついていく






 「それでも現王は種の存続に固執している。いまわの際で母が言い残した『一族再興の悲願』、それが王の行動原理よ。

 その為に王は脳を量子コンピューターの様に使う『分析智』というサイキックで演算して幾つかの結論を導き出した。その答え、


 それはジャナスと人、もしくはジャナスと妖精との間に生まれたハーフを量産し、同種ハーフ同士の掛け合わせで稀に発現するジャナス同族系、これによる存続を目論んでる。


 でも、そもそもハーフさえ滅多に産まれず、産まれても同族と言える者はその中の千分の一程だそう」



――― 拐われた子の運命が読めたルナは沈痛な表情となってさらに耳を傍立てた。



 余りの内容に、もはやノエルが話している事さえも意識にない二人。


 続く驚愕の事実の暴露。


 そのジャナス王 いわく、今まで生まれた者は王ほどの能力を持たず非常に短命で気性も荒いサイコ型(人間的感情等が欠落)で、殆ど殺処分だと言う。


 長命に生まれた10人の者も子孫を残す様な気質を持ち合わせず争い合ってしまうため、各々独立した戦士として生かしていると。

 そしてセイカを奪った戦士はその内の一人だったという事も。


 しかし王は諦めず更に追求した結果、この方法を続けて『完全体』が生まれる確率は十万分の一程度と割り出した。故に多くの人間を拐い続け、子を生む道具としているという。


「人類と遠縁なのか、そもそも子を宿す迄に至る事が少ない為に多くの人を必要としていて、悲しい人や憐れなハーフを生み出している。

 それでも長命な王は気長にこの方法を続けるつもりだった。でもその事情が変わった。彼等が地上に出れない理由、即ちこの世界に日常的に空から降り注いでいる特定の放射線に極めて弱い体質。


 ところがその地上と同等の放射線環境に地下もあと10年とかからず変化してしまう『予測外の地殻の変動』を予知した。


 そこで存続を懸け、王は火山活動を煽って大噴火を連鎖させ、嘗て太古に彼らが栄えた頃の様な分厚い雲に閉ざされた宇宙放射線の届かない地上を作るという。

 只、今それをやれば人も住めなくなり産み手も失くすから、未だそうする訳にはいかないと。だから一気に人間を奴隷化して産み手を増すとした。


 そして完全体さえ産まれれば人類に用は無くなり直ちに大噴火を―――そう目論んでいる。そんな訳で近い内にみんな奴隷化へ向けた大侵略戦争に巻き込まれる。急いで備えてほしい。


 そしてもう一つには私。


 この種族は私と同じ両性具有で王の最後の期待。人もしくは妖精の中でも、より近類である両性具有者との間で互いに同時に受精しその受精卵同士をサイで融合させる事で、掛け合わせで欠損してしまう遺伝情報を補完出来ると分析智が導き出した。これなら遥かに成功率が高いのだと。


 それこそが私が狙われた理由。


 幸い私はまだ子を宿せないから今の所は難を逃れているけど多分時間の問題。だから私は言った。

『今は希望を捨てず助けを待っているけど、もしその前に初経が来てしまえば自害する』と。


 そしたら、王の強大なサイ精神操作で自害などさせたりしない、と言われてしまった……


 そして何よりも豪語してたのは『助けを待っても第二層の絶対防御は魔界の全労力を長年掛けて遂に造り出した絶大なもの、地上の全ての勇者が束になってかかろうと、それこそ伝説の勇者が再臨してさえ破れるものではない』と断言してた。


 それでもお願い、私の存在がこの世界にとっての絶望なんて事になりたくないのです。



 その為に私を殺してくれても構わない!!



 そして可愛そうなここに連れてこられた莫大な人達……超低確率だから膨大な交配を必要としている。だから子種は魔法転移で直接体内へと一斉に運ばれるから体に傷は付かないまでも、いつ身篭もるか分からない恐怖。

 みんな泣いている。彼女らをなんとか解放してあげたい……。


 それに今、地上で倒す敵数よりも地下での繁殖数が勝っている……これ迄のやり方ではいずれは魔の者に地上も覆われてしまうでしょう。だからいずれにせよ地下から撲滅する必要があるのです。その為に力を貸して欲しいの。



 ただ、一つだけお願いが有るのです!



 この話を聞いた事で、誰より熱い心を持ったルナさんは決戦の場へと、きっと自ら率先して立ち上がる事でしょう。


 でもそこをこらえてしばらく下さい。それがルナさん達に残された選択肢の中では最も望ましい結果に繋がると、そう私の予知力が感じ取っています。

 そう、何か、とてもを感じるのです。


 そしてその行く末にを得たならば、その時こそ迷わず引き受けて下さい。


 これが私の今知る限りです。ルナさん、そしてルカさん。お願い、どうか地上の皆さんで力を合わせてあなた達の世界の破滅を防いで下さい。


 私も希望を繋げられる事があったら出来る限り尽くします。……だから、頑張って下さい……では……また……」



――――コロンッ……



 と床に大の字になるノエル。何事も無かったかのように

「ンカ~ッ」

 と眠り始める。不安な顔を見合わせて言葉も出ないルナとルカ。



 セイカちゃん……


 大変なことに巻き込まれて……でも直ぐにボク等にも関わって来ることが本当にハッキリした。ヤツ等はやっぱり焦ってたんだ……


 でもその為に何をしたら?……

 みんな敵わずに遣られて帰ってきた……でも……



 込み上げる悲しみと強い怒り。堪らずに拳を握りスックと立ち上がるルナ。



「―――ヤッパリボクは……ボクは戦う! 何が出来るか分からないけど、少くとも良い人たちが悲しむ世界なんてイヤだ!


 前世じゃズット虐げられて……ボクは世界を、神を恨んだ。でもそんな時期にも神は何の救いの手も差し伸べなかった訳じゃない。


 ボクにとって世界一の支えを遣わしてくれた!

 いや、今思えばむしろ幸せだった!


 だって今 さらわれてる人達には頼れるものが何も無い!……それどころか抗う間もなく残酷に人生を奪われてしまった!

 ……それを見て見ぬ振りをするならもう自分さえも裏切る事になる」



 ルカも付き従うように、祈るような気持ちで立ち上がる。続けて語るルナ。


「あの人は最後までボクに手を差し伸べてくれたというのに……でももう恩返し出来ないなら、今はコレをやる事が。

 ……そう、ボクだって誰にも無い特殊な力を得てここに転生うまれてきた!  

 その為に此の世界に送られて来た筈なんだ! 遣れるだけ、やるしか無いっ」


 そうだよルナ !!


 メイさんが言ってた……レイさんの言い訳せず諦めない姿に本気でついて行きたいって。私も……そんなキミだからこそ並び立っていたいんだよ!!



「ルナが本気で立ち上がるなら私はどこ迄もついてくよ! ルナが諦めない限り私もやる! きっと……必ずやり遂げよう。私達に出来ることをっ!」


「ジャナスに未だ敵わないなら先ず地上にいる奴だけでも全部やっつけてやる! セイカちゃんの言うように今は希望を繋げられる事なら何でもやる! 」


 ルカへと向き直り熱く見つめる。



「―――ねえ、今から行くよ!!」




第3章終幕


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