俺はカイアとアエラキの後ろにしゃがみこんで、妖精の子どもを少しでも怖がらせないように目線を下げる。
「俺はジョージ。この子はカイア、この子はアエラキだ。お前にも名前をつけてやろう。
……そうだなあ。お前の名前はキラプシアだ。ギリシャ語で握手、という意味だよ。俺とも握手をしてくれるかい?キラプシア。」
俺はキラプシアにそっと手を伸ばした。
キラプシアが俺の指先にもチョコンと前足を伸ばして握手をしてくれた。小さくて頼りなくて、可愛らしい手だった。
「……今日からお前はうちの子だ。」
「チチィ!!」
「ピョル!!」
カイアが嬉しそうにキラプシアを両枝で持ち上げて高々とかかげると、キラキラと目を輝かせて見つめている。
すっかりお気に入りだな。カイアのペットってとこかなあ?キラプシアはカイアの体をのぼったり、アエラキの体にピョンと飛び移るのを失敗して、アエラキの耳につかまって落ちるのを耐えていたが、小さなお手々じゃつかまり切れずにポテッと落っこちていた。
「さあ、一緒におうちに帰ろうか。
その前に冒険者ギルドに報告に行かなくちゃならないからな、みんなマジックバッグの中に入っていてくれな。」
「ジョージさん、本当にありがとう。あの子をよろしくお願いするよ。」
「もちろんです。うちの子たちも気に入ったようですし、大切にさせていただきます。」
「……体に気を付けるんだぞ。」
アンデオールさんは涙ぐみながらキラプシアを見つめていた。
「チチィ!!」
キラプシアはバイバイをするかのように、両手を上に上げてアンデオールさんを見ながら鳴いた。俺は全員をマジックバッグに入れると、冒険者ギルドに無事クエストをクリアしたことを報告してから家に帰った。
「──おかえりなさい。どうだったの?」
「ただいま。ああ、なんとかなったよ、カイアが瘴気を払ってくれた。少し危ない場面はあったから、正直二度とごめんだがな。」
俺は家に戻ると、心配そうに椅子から立ち上がって駆け寄ってきた円璃花に、無事に問題が解決したことを報告した。とはいえ、ストライキはまだ解決していないと言われてしまったから、また呼び出される可能性はじゅうぶんにあったが。困ったもんだな。
俺が話しながらマジックバッグからカイアとアエラキを出してやり、最後にキラプシアを出してテーブルの上に乗せてやると、
「やだ!なにそれ、可愛い!!」
と、円璃花が目を輝かせてキラプシアに近寄った。キラプシアは知らない人間を怖がるかと思ったが、円璃花を見て不思議そうに首を傾げただけだった。テーブルの上からぐるりと部屋全体を見回しているようだった。
「キラプシアだ。瘴気に取り憑かれていたのをカイアが救った樹木の妖精の子どもだ。
瘴気に取り憑かれていたとはいえ、群れのみんなを襲っちまったことで、もとの姿に戻っても、群れに受け入れて貰えなくなっちまったんでな。うちの子にすることにした。
カイアとアエラキも受け入れてくれたことだし、カイアは特にお気に入りのようだ。」
「キラプシア?それって種族の名前なの?」
円璃花が不思議そうにたずねてくる。確かに種族っぽいと言われればそうかもな。
「いや、俺がつけた名前だ。」
「ええ~?しりとりの続きをもう付けちゃったの?聖獣が手に入ったら、キから始まる名前をつけようとずっと考えていたのに!」
そういやそんなことを言ってたな……。円璃花が不満そうに口を尖らせている。
「あ、ああ、すまん……。」
「いいわ。次はアね?みんなと仲良くなれるように、私の聖獣にも、みんなとつながる名前を付けてあげなくちゃね!」
そう言って張り切るポーズを取る円璃花。
というか、俺は別に、特別しりとりで名前を付けたつもりはなかったんだがな……。
カイアがテーブルの上からキラプシアを持ち上げて床におろしてやる。キラプシアはカイアの後ろをチョコチョコとついて歩いた。
帰った途端、さっそく積み木を出して遊び始めるカイアとアエラキの間を、キラプシアは嬉しそうに歩き回っていた。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。