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第73話 ハードラックへの制裁⑥

 中尾が自ら動くのを待ったのだ。

「うわっ!?なんだ!?」

 誘引香つきの爆弾をぶつけられた中尾は、隠密で姿を隠しながら笑っている獄寺ちょこが目の前にいることに気付かなかった。


「誘引香か!?」

 中尾は今のギルドを立ち上げる前は、過去に何度も誘引香で、他人の倒しかけた魔物のトドメを奪ったり、他の探索者を殺してドロップアイテムを奪ってきた。


 そうして金を稼ぎ、自身のレベルを上げ、今の地位を築いた人間だった。その自分が、誘引香を使われる側に回る日が来るとは、1度も考えたことがなかった。


 アンデッド化したワイアームが、中尾のほうに向きを変えた。ツイッと空中を泳ぐように羽ばたいたワイアームは、巨大な口を開けて中尾に迫った。


 ──気付いた時には、岩陰からほんの少しはみ出していた左腕を、根本からアンデッドワイアームに食われていた。


 焼けるような激痛が中尾を襲う。すぐにマジックバッグからエターナルポーションを取り出して振りかけたが、片手で取り出しづらく時間がかかり、腕をはやした時には既に半分もアンデッド化が広がっていた。


 アンデッドに噛みつかれるとすべての生き物は傷口から感染してアンデッド化する。今の中尾はアンデッド化を阻止出来るような回復アイテムを持っていない。ましてやメイソン・オーシャンのように、自力でアンデッド化を防げるほどの力も持ってはいなかった。


「ぐ……!うおおおおおおああああああ!」

 一気に全身がアンデッド化してしまう中尾の体。体が崩れ、焼けるような痛みが全身に広がる。そしてその痛みは、いつまで経っても消えることがなかった。


『痛い痛い痛い痛い!誰か助けてくれ……!焼ける!体が焼ける……!』

 中尾は叫びたかったが、その時には既に喉が崩れ落ちてまともに喋れなかった。


 アンデッドは、魔物に食われるか、誰かに討伐されるまで、死ぬことは出来ない。それまでずっとこの痛みが永遠に続くのだということを、中尾はすぐに知ることとなる。


 アンデッドに有効なスキル持ちやアイテムの少ない日本では、アンデッドがいた場合即回れ右して戦うことがない。魔物に食べてもらえない限り、この苦しみは続くのだ。


 美織は、沙保里をダンジョンに見捨てて殺しかけたギルドオールダンパーを、更には沙保里の家族をあんな目に合わせた上、傷心の沙保里を利用しようとして苦しませ続けた中尾を、そしてギルドハードラックを、少しも許すつもりがなかった。


 手に入れた筈の金や、国に認められたギルドのギルマスとしての地位を失わせ、絶望を味あわせた上で中尾をアンデッド化させ、その状態で生かし続けること。それが美織の狙いだった。


「ア……アア……。」

 中尾は、痛い、熱い、と叫んでいるつもりだった。だが喉からはアア……という音しか出ない。その時初めて、アンデッドはずっと痛い、熱いと叫んでいたことを知った。


「そうやって、あなたは永遠に地獄の痛みに苦しみながら、生き続ければいいと思いますよ。たくさんの人を苦しめたあなたは、その分苦しみ続けるべきです。」


 もう涙も出ない体で泣いていた中尾は、そう冷たく言い放った美織を近くで見て、こんなに美しい女だったのか、と思った。それが中尾の人間としての記憶の最後だった。


「殺すのは簡単ですけど、あなたは殺してあげません。そのほうがずっとずっと、みんなの痛みを知れるでしょう?」

 美織はニッコリと微笑んだ。


「もうあなたにも用はないですね。無駄にアンデッド化させて苦しめちゃってごめんなさい。あの人をアンデッド化させる為に、あなたの力が必要だったから。──今、楽にしてあげますね。」


 アンデッド化させたワイアームにそう言うと、美織は剣を握り直した。アンデッド化したことでリミッターの外れたワイアームは、中尾にテイムされていた時よりも素早い動きで美織に噛みつこうと飛ぶ。


:誰かがアンデッド化させられたぞ!

:やべえっていおりん!

:ドラゴン亜種のアンデッド化は、アースドラゴンとどっちが強いんだ?

:わからん

:大差ないんじゃね

:……じゃあだいじょうぶなんじゃね?

:だってネクロマンサーも、アースドラゴンも倒したじゃん

:あ


 美織はすれ違いざまに、アンデッドワイアームを真っ2つに切り裂いた。

 配信画面には、誰も内容を打ち込んでいないにも関わらず、


【確定ドロップアンケート。

 1.スキル定着スクロール(0.05%)

 2.エリクサー(1.3%)】


 と書かれたアンケートが、配信画面に表示されていたのだった。


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