「ですがねえ……お母さん、あの写真は御本人の携帯から発信されたものですよ?他の生徒に被害を問うというのは……。」
「だから!脅されて写真を撮られて、娘のスマホから拡散されたんだって言ってるでしょう!」
「そうですよ!その蓼科って生徒を出してください!親を訴えますから!」
「可哀想に家からも出られなくなったんですよ!?」
連日押しかけるモンスターペアレントに辟易した学校は、沙保里の親を呼び出した。
沙保里の母親はあれからまだ外に出られない状態になっていた為、父親がやって来た。
「なんてことしてくれたんですか!?責任を取って下さい!」
「娘にも確認してみませんと……。」
「うちの娘の裸が拡散されたんですよ!?あなたも親なら気持ちがわからないんですか!?」
沙保里の父親は、沙保里がこんなことをするとは思っていなかったが、かしましくわめきたてる3人の母親たちに対抗出来ず、話し合いは遅々として進まなかった。
「──おばさん。」
「お、おばさん?」
「あんたらの娘がやってたこと、ほんとに理解してないんだね。」
「なんなの!この生意気な娘は!」
「教育がなってないからこういうことになるんでしょう!母親はどうしたの!」
「そうよ!母親を連れてきなさい!」
「……先輩たちは優しいから、やり直す機会をあげたいって、女神の天秤を貸してくれたけどさ。私、わかんないんだよね、悪党が何をやり直す必要があるのか。」
「沙保里……?」
「……うちの家、もうめちゃくちゃだよ。あれからお母さんは家から出られなくなって、家事もたまにしかできなくなってさ。お兄ちゃんだって、未だにビクビクしながら学校行ってさ。時折ある筈の両手両足が痛むんだって。」
沙保里は目線を落としながら、呟くようにそう言った。母親たちは当然沙保里の言葉になど耳を貸さず、ひたすらわめいている。
「それもこれも、ぜんぶ悪党に狙われたせい。人の心壊しといてさ、何をやり直す必要があるんだか、全然わかんない。」
沙保里はキッと母親たちを睨んだ。
「だからね、願ったんだ。制作者──その親までも、罪を裁いて下さいって。女神の天秤はまだ傾いてる。あんたらの罪を裁いている最中だから。罰を与え終わっていないからだよ。これを聞いて、あんたらがどういう態度を取るかで、罪を裁き終えると思うよ。」
そう言って、沙保里はあの日公園で録画していた動画の再生ボタンを押して、全画面再生にし、親たちに向けた。
動画から流れる、確実に我が子と判断出来る少女たちが、別の少女を土下座させて蹴り上げ、金を巻き上げようとしている証拠。
「これは……。」
「どうしましょう、あの生徒たちをいきなり退学処分には出来ませんが、しばらく出席停止で様子を見るというのは……。」
教師たちがコソコソと話し合っている。
「冗談じゃないわ!うちの子が出席停止!?退学処分ですって!?」
「まだ子どもなのよ!?未来ある子ども3人と1人、どっちを取るんです!?」
「……私たちがどういう家かご存知ないの?このあたりは銀行も郵便局もトップが私たちの一族で、ここに通っている生徒たちの大半の親が、私たちの夫の会社に勤めているのよ?」
3人の中でもボスママらしき人物が言う。
「そんな我家の総領娘に傷がつくようなことを、許すわけにはいかないわ。あなたの父親がどこに勤めていようと、巡り巡ってたどり着くわ。それに買い物ひとつとったって、私たちに敵対する人間に物なんて売らないわ。この町で暮らせなくなるわよ、あなたたち。そうでしょう?みんな。」
そう言って、沙保里と父親を睨めつけた。ボスママの顔を見た他の母親たちも、そうよそうよ!と再びわめきはじめた。
その時、空中に女神の天秤が現れた。
片方に大きく傾いていた天秤は、完全に片方に傾ききった。
「──裁きが終わったみたいだよ。あいつらの親が、ほんとあいつらとそっくりで良かった。ちゃんと罪を裁いてもらえるから。」
そう言って皮肉タップリに沙保里は笑った。
母親たちの写真や動画を投稿していたSNSから通知音が来る。最初は無視していたがあまりの多さに思わずスマホを確認した。
「な……、なによこれは……!?」
私たちの愛する娘、とタグ付けされたそれは、先程沙保里が見せた動画と同じ物だった。日頃から家族写真をSNSに乗せていた為、動画の娘たちが自分たちと無関係であると否定することも出来ない。
また続けて、いつの間に撮影されたのか、先程の動画を見せられている最中の自分たちの対応までもが動画にされ、自分たちのアカウントにアップされていた。
すぐにどういうことかと、知人たちから問い合わせるコメントやDMが大量に届けられていた。もともと知り合いにフォローさせていたアカウントだった為、あっという間に特定情報と共に動画が拡散された。
それが父親たちの会社にまで及び、株価は下落の一途をたどった。株主総会で父親たちは退陣させられた。家を手放し、親戚を頼って引っ越していき、学校には平和が戻った。
「美織さん、これ、ありがとうございました。」
「ちゃんと反省して謝ってもらえましたか?」
女神の天秤を受け取った美織が、くったくのない笑顔で沙保里に話しかける。
「はい、ちゃんと反省してくれてると思います。」
沙保里は輝くような笑顔でそう答えた。
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犯罪をいじめって言葉で片付ける、加害者を守り被害者に我慢を強いる国って、日本だけらしいですね。
海外だと加害者を更生させる方向に動くそうです。
それが異常なことだと海外から責められて、ようやく少しずつ色々と変わりつつある過程にはあると思うのですが、まだまだ自分が気に入らなければ何をしてもいいという人は、多いように感じます。
せめてきちんと犯罪であるという認識のもと動いてもらえるよう願うばかりです。
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