佐藤は、どんぶりに入ったラーメンを両手に一つずつ持ってきた。湯気が出ている。
「さっき作ったあるヨ。食べるネ」
そう言うと、一つを屑山の前、もう一つを僕の前に置いた。
「ワサシはもう食べたカラ、気にしないでネ」
そう笑う佐藤の唇は、油でテカっていた。
僕の目の前に置かれた熱々のラーメン。どうしよう……?
気持ちとしては、非常に食べたい。ここに来てから何も食べていないから、もうお腹がペコペコだ。でも、得体のしれない男が作ったラーメンだ。毒が盛られているかもしれない。
食べるか食べまいかをしばらく悩んで、ちらりと屑山の方を伺った。
「黒崎くん、俺の分もあげるよ」
「えっ……!?」
まだ何も言ってないのに、彼は手で僕の方へとラーメンをスライドさせてきた。
「あ、あの」
「俺さぁ、人が作った手料理食べられないんだよね。気持ち悪くって」
「……はぁ、そうなんですか」
ラーメンが増えた。
目の前には、熱々のラーメンが二つ。油でギトギトの豚骨ラーメンだ。分厚いチャーシューも三枚も乗っかっている。とてもおいしそうだ。でも、今は命がけのデスゲームの最中。毒でも盛られていたら……。
「どうあるカ? うまいあるカ?」
キッチンカウンターからひょこりと、佐藤が顔を出してきた。子供のように目を輝かせて、こっちを満面の笑みで見てくる。
ええい!! もうこうなったら……!!!
「おお~、すごい食いっぷり」
熱々のラーメンを豪快に下品に啜る僕の姿を、頬杖をついて眺めながら、屑山は他人事みたいに言う。
二杯のラーメンを完食したあと、僕がとてもおいしかったと伝えると、佐藤は満面の笑顔を浮かべて『十年以上ラーメン屋さんで働いてるからネ』と言った。お前自己紹介のとき介護士って言ってただろ。