「こちらのギルドカードはどこで?」
「倒したゴブリンが持ってました」
「数日前から帰ってきていないパーティーの1人ですね」
冒険者ギルドで納品依頼達成の報告をした後、草原ウルフの素材やゴブリンの耳、食用の鳥を出すのと一緒に、拾ったギルドカードも提出した。
もしギルドカードの持ち主が亡くなっていた場合、冒険者ギルドからギルドカードを見つけた謝礼が払われるかもしれないらしい。
ただ、謝礼と言ってもそこまで高額なものではないのだとか。
過去にギルドカードを見つけた者は、そのギルドカードに入ってあるお金の何割かを受け取ることができるというルールがあったらしい。
そしてそのルールは基本的に良かったが、一部の冒険者がお金欲しさに殺人を犯してしまうという事例が出てからは、謝礼としてギルドカードのお金に手を付けることは一切なくなったらしい。
なので僕達もギルドから決まった金額の謝礼が支払われるだけで、このギルドカードの人から払われるわけではないということは言われた。
「ルイ様、今日はすぐ帰りますよ」
「……はい」
昨日とも一昨日とも違うお店へ入り料理を食べたのだが、実際はアンナさんにすぐ僕の料理も注文され、早く食べて帰るぞと言わんばかりの態度をアンナさんはずっと取っていた。
「ルイ様、痛くないですか?」
「もう大丈夫ですよ」
「ルイ様はそのままお眠り下さい。もう少し私は治癒魔法をかけていますので」
宿に帰った僕達はいつも通り体を拭き、今日はベッドへ入った後もアンナさんが拭き終わるまでは寝ないでと言われた。
そして寝転がりつつも眠らず待っていた僕は、今アンナさんに右の肩を治癒魔法を使った両手で触れられている。
このままアンナさんを放置して寝てしまえば、気絶するまでアンナさんは治癒魔法を使うだろう。
「アンナさん、僕はもう大丈夫です。僕の心を覗いてください」
「私がルイ様へ治癒魔法をかけ続けても良いではないですか」
「いや、それはアンナさんがしんどいですよ」
「私は大丈夫です」
「いいえ、僕が大丈夫じゃないです」
今回は僕もアンナさんも、一歩も譲らない。
「どうしたらアンナさんは治癒魔法をやめてくれますか?」
「ルイ様の肩が完全に治ったらやめます」
「もう僕は痛みを感じてませんし、治ってます」
「それはまだ分かりません」
実際痛みは感じていないが、治ったかどうかは自分でも分からない。
また痛みが出るかもしれないし、そもそもそこまで大きな怪我では無い可能性もある。
「うーん、僕とアンナさんの妥協点を見つけましょう。僕はアンナさんに無理をしてほしくないです」
「私はルイ様の肩が治ってほしいです」
「じゃあ、あと少しだけ治癒魔法をかけてください。で、明日の朝もかけてもらいます。それで一旦治療は終わりにして、また痛みが出たら必ずアンナさんへ言いますから、その時安全ならまたアンナさんに治癒魔法を掛けてもらいます。どうですか?」
「……分かりました。ルイ様の案でいきましょう」
そうしてアンナさんに肩を治療された僕は、アンナさんが治癒魔法をやめるところを確認して眠る体勢に入る。
「今日はこのまま寝ますね」
「は、はい」
アンナさんは僕の肩に手を置いたまま、顔まで肩に近づけて寝るようだ。
僕の体に抱きつくようにして眠るアンナさんに邪な考えが浮かぶが、その全てを僕は頭から消す。
少しずつアンナさんと寝ることには慣れてきたと思っていたが、普段僕を引っ張ってくれるアンナさんが寝る時は僕に甘えてくることが多く、そのギャップに僕はやられるのだった。
「ルイ様、約束ですよ」
「はい、お願いします」
今日も日課の抱擁は、僕が変な声を上げてしまうということ以外何事もなく終わり、今はアンナさんに肩の治療を受けている。
「凄いですね。昨日よりも今日の方が魔法が利いている気がします」
「それなら良かったです」
アンナさんは人の心を読めることもあり、治癒魔法を痛みのあった部分にしっかりと当てられ、能力と魔法の相性の良さをすごく感じる。
「じゃあ行きましょう」
「そうですね」
そして治療を終えた僕達は大通りで適当なお店に入って朝ごはんを食べて、冒険者ギルドへと向かった。
「臨時パーティーですか?」
「俺らも2人なんだがよ。森が危ないらしくて冒険者ギルドから言われたんだよ、今日は臨時パーティーを組めって」
「アンナさんどうしますか?」
「私は今日だけなら良いと思います」
「ありがてえ。今日は依頼も2人だと受けさせてもらえなくてよ。助かるぜ」
「僕達もGランクですし、同じ状況になってたと思いますからお互い様ですよ」
冒険者ギルドに来てGランクの依頼書を手に取ると、横から声をかけて来た2人組の男性がいた。
そして話は今の通り臨時パーティーのお誘いで、アンナさんからお許しが出たのであれば、この人達は安全な人達だということだ。
「じゃあ依頼は何にしますか? 僕達は臨時パーティーを組んだことがなくて、少し教えていただけると助かります」
「お、そうか。じゃあ2人だと普段受け難い納品依頼を多めに受けるぞ。冒険者ギルドからの評価も良いって噂だ」
「良いですかアンナさん?」
「ええ、依頼選びは任せましょう」
依頼選びは任せて、僕とアンナさんは臨時パーティーを組んだ2人の冒険者へとついて行く。
「俺はコール、そしてこいつはザール。ザールは無口だが良いやつだ。」
「……(ペコッ)」
「今日だけの臨時パーティーだからな。依頼の報酬は4等分でいいだろ? 途中依頼に関係ないモンスターを倒したり、拾ったものはそいつのものってことでどうだ?」
「分かりました」
「構いません」
受けた依頼は森角ウサギの角30本の納品。
僕達からすると30体も見つけることがまず難しいが、コールさん達は任せてくれとどんどん森の中を進んでいく。
「あそこだ」
「確かに沢山集まってますね」
「僕達に教えてもよかったんですか?」
「構わねぇよ。ランクが上がればもっと割の良い依頼は増えるからな」
僕達は湖の近くに集まっている兎達をどうやって倒すか話し合う。
作戦としては僕が奥から兎達を倒しつつ、コールさん達3人のいる方へ兎を誘導する。
3人は向かってきた兎に逃げられないようなるべく沢山の森角ウサギを倒す。
それを30本の角が集まるまであと2つあるポイントで繰り返すだけらしい。
「てことは1回で10体は倒さないといけないってことですよね」
「1人3体倒せたら余裕だな」
「じゃあ僕は行ってきます」
「ルイ様気を付けて下さいね」
コールさんもザールさんも武器が大きくて森角ウサギを追いかけ回すには向かないため、僕かアンナさんがこの役目を担うことになった。
そして僕なら最初の攻撃で多くの兎を倒せる可能性が高かったため、自分からその役目を買って出た。
「今回は失敗しない」
僕は所定の位置について魔力を集め始める。
森角ウサギの肉は必要ないため、僕は可能な限り魔法で倒すつもりだ。
今回は2つの属性魔法を組み合わせることなどせずに、できるだけ多くの兎に魔法を当てることに専念する。
使う属性は火、森の中で使うには注意が必要な魔法だが、すぐ近くに湖があるため最悪消化はすぐにできる。
そして火魔法を使うもう1つの狙いとしては、燃えた兎達が逃げるのではなく湖で火を消そうとするのではないかというものだ。
もし狙い通りにいけば4人でかなりの数の森角ウサギ達を倒せることになる。
アンナさんだけは僕が魔法を使うことに気付いているだろうが、コールさん達はこのことを知らないため、驚くかもしれない。
「行くぞっ!」
僕は両手から火魔法を放つ。
本来であれば魔力を球体にしたり尖らせたりしてもっとモンスターへダメージを与えられるような工夫をするのだが、敢えて魔力の制御を甘くし広範囲へ火魔法が広がるようにした。
そして見事に兎達は僕の狙い通り湖へ飛び込むと、焼けた体を冷やそうとしている。
僕としてはもっとあの兎達の毛が燃えてくれると期待していたが、そんなことはなかった。
ただ燃えていようが燃えてなかろうが、自分の体が焼かれたことには変わらないため、ほぼ全ての兎が湖へ飛び込んで行ったのは結果オーライだ。
「ルイ、魔法を使えるなら先に言ってくれよ」
「いや、魔法はこの街に来てから学んだので、上手くいくか不安もありましたから」
「結果としては大成功だ。あと10体も必要ないから、次のポイントで依頼分は終わるな」
「ルイ様お疲れさまでした」
湖に飛び込んだ兎達をほぼ作業のように殺めて集めた角の数は20本超え。
コールさんの言う通り次のポイントで角は集まるだろう。
「じゃあ行くぞ。さっさと終わらせて次の依頼を受ける。ルイ達には悪いが俺達も今回で稼がせてもらうぜ」
「分かりました」
「ルイ様には無理をさせませんよ」
「そこら辺は俺も分かってるって」
こうして初めて組んだ臨時パーティーだが、コールさんもザールさんもこちらを下に見るような人達ではなく、お互いに対等な立場としてパーティーを組めたのだった。