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第三章 新たな戦の序章

第41話 刺客

「面白い国だね、アドガルムって。まさか三国からの猛攻を凌いじゃうなんてさ」

 スペード型のイヤリングをした少年が、ニヤリと不敵に笑った。


 白に近い金髪と、白い肌。目は血のように赤い色をしている。


「本当ね。しかも戦での死者も少ないし、収穫が少なくてガッカリしたわ」

 ダイヤの形をした宝石を幾重も身に纏った、背の高い美女がため息をもらした。


 紫の髪に褐色の肌をした、エキゾチックな美貌を備えている。


「思ったよりもアドガルム国への被害も少ないらしい。そうなるとこちらの手間が増えるな」

 ムスッと不機嫌そうにするのは、柄にクラブの形が刻まれたメイスを手に持つ大男だ。


 緑の短髪と灰色の目をしており、指にはクラブを模した指輪を幾つもはめている。


「まだ戦は続くのね……あの時に死んでいれば楽だったのに、可哀想」

 ハートの宝石がついたクロスを大事にそうに持つ少女が、悲しそうに目を伏せた。


 桜色の長い前髪で顔半分を覆っており、その瞳は見えない。肌は白くて体躯は小さく、儚げな印象が感じられる。


「まぁ良いか、今度は僕たちがしっかりと殺せばいいだけだもの。無駄なあがきをしたって、後悔すればいいよ」

 魔法騎士のダミアンは、複数の剣をクルクルとジャグリングのように回す。


 剣は空に吸い込まれるように現れては消える、まるで手品のようだ。


「そうね、新鮮な魂を手に入れられる方があたしも嬉しいし。やっぱり直接戦場にいたほうが捗るわよね」

 死霊術師のルビアは、魂を閉じ込めた魔石をうっとりと見つめる。


 無数に身に着けているものだからキラキラと輝きを放っていた。


 ルビアの魔石は魔力の増幅の他にも、人心を惑わせる事が出来る、稀有なものだ。


「後はどうすれば効率よく殺せるかだな……面倒くさいのは、御免だ」

 大きなメイスを持つ戦士ギルナスは、筋肉を膨張させており、言葉とは裏腹に戦いが起きることを楽しみにしている。


 思う存分暴れたくて仕方ないといった表情だ。


「倒した国を属国にして、その証として三国の王女と政略結婚したそうね。そんな偽りの絆と愛なんて……脆そう」

 賢者イシスはもじもじと髪をイジる。表情は見えないが呆れているようだ。


 戦いどころか、全てに興味がないように見える。


「戦えるのは嬉しいけれど、アドガルムなんて小国が三国を退けたなんて、いまだに信じられないんだよね」

 ダミアンは不思議がっている。


 四人が所属するヴァルファル帝国が使った夢渡りの秘術。それにより、あたかも神からの啓示のように振る舞って、三国の王を唆した。


 偽の情報により戦をけしかけさせ、アドガルムを滅ぼそうとしたのに。


「以外としぶといわよね。でもあれだけ戦ったのだから、暫くは疲弊していて、力も残ってないでしょう。そうしたら今度こそいっぱい魂が取れそうだわ」

 ルビアはその光景を想像してわくわくとする。死霊術師であるルビアにとって、戦は儲けるチャンスだ。


 魂に対する攻撃を防御を出来るものは少なく、脆い魂や精神に干渉することが出来るルビアは、帝国の貴重な術師である。


「油断はするな。戦は最後まで何が起きるかわからない」

 重いメイスを軽々と持ち、ギルナスはふぅっとため息をついて、昂る気持ちを押さえようとする。


 数々の兵士を退けたという第二王子ティタンの話を聞いて、今から戦いが楽しみなのだ。


「どうせ皆死んじゃうのだから、さくっと逝って欲しいわね。皇帝陛下に逆らうのは許されない」

 ぎゅっと杖を握りイシスは小声で呟いた。


 皇女として皇族の末席にいる彼女にとっては、皇帝の命令に逆らうことも、疑問を持つことも許されていない。


 帝国の皇帝、バルトロスは恐ろしい男だ。


 目的の為なら家族すら駒にする、大国を治めるものとして容赦ない。


 側近として動いている第一皇子アシュバンも、第二皇子シェルダムもそのような性格だ。


 どちらが次の皇帝になるか、注目が集まっているが、いまだ決定打はない。


 お互い次の跡継ぎを狙っている為、協力し合っているように見えて、本心はお互いを蹴落とそうとする事に余念がない。


 だが、皇帝に仕える四人の戦士にとっては、後継者問題はどうでもいい事だった。皇帝にしか仕える気はしないし、興味はない。


 命令通りにアドガルムを墜とす事に、全力を尽くすのみだ。


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