「面白い国だね、アドガルムって。まさか三国からの猛攻を凌いじゃうなんてさ」
スペード型のイヤリングをした少年が、ニヤリと不敵に笑った。
白に近い金髪と、白い肌。目は血のように赤い色をしている。
「本当ね。しかも戦での死者も少ないし、収穫が少なくてガッカリしたわ」
ダイヤの形をした宝石を幾重も身に纏った、背の高い美女がため息をもらした。
紫の髪に褐色の肌をした、エキゾチックな美貌を備えている。
「思ったよりもアドガルム国への被害も少ないらしい。そうなるとこちらの手間が増えるな」
ムスッと不機嫌そうにするのは、柄にクラブの形が刻まれたメイスを手に持つ大男だ。
緑の短髪と灰色の目をしており、指にはクラブを模した指輪を幾つもはめている。
「まだ戦は続くのね……あの時に死んでいれば楽だったのに、可哀想」
ハートの宝石がついたクロスを大事にそうに持つ少女が、悲しそうに目を伏せた。
桜色の長い前髪で顔半分を覆っており、その瞳は見えない。肌は白くて体躯は小さく、儚げな印象が感じられる。
「まぁ良いか、今度は僕たちがしっかりと殺せばいいだけだもの。無駄なあがきをしたって、後悔すればいいよ」
魔法騎士のダミアンは、複数の剣をクルクルとジャグリングのように回す。
剣は空に吸い込まれるように現れては消える、まるで手品のようだ。
「そうね、新鮮な魂を手に入れられる方があたしも嬉しいし。やっぱり直接戦場にいたほうが捗るわよね」
死霊術師のルビアは、魂を閉じ込めた魔石をうっとりと見つめる。
無数に身に着けているものだからキラキラと輝きを放っていた。
ルビアの魔石は魔力の増幅の他にも、人心を惑わせる事が出来る、稀有なものだ。
「後はどうすれば効率よく殺せるかだな……面倒くさいのは、御免だ」
大きなメイスを持つ戦士ギルナスは、筋肉を膨張させており、言葉とは裏腹に戦いが起きることを楽しみにしている。
思う存分暴れたくて仕方ないといった表情だ。
「倒した国を属国にして、その証として三国の王女と政略結婚したそうね。そんな偽りの絆と愛なんて……脆そう」
賢者イシスはもじもじと髪をイジる。表情は見えないが呆れているようだ。
戦いどころか、全てに興味がないように見える。
「戦えるのは嬉しいけれど、アドガルムなんて小国が三国を退けたなんて、いまだに信じられないんだよね」
ダミアンは不思議がっている。
四人が所属するヴァルファル帝国が使った夢渡りの秘術。それにより、あたかも神からの啓示のように振る舞って、三国の王を唆した。
偽の情報により戦をけしかけさせ、アドガルムを滅ぼそうとしたのに。
「以外としぶといわよね。でもあれだけ戦ったのだから、暫くは疲弊していて、力も残ってないでしょう。そうしたら今度こそいっぱい魂が取れそうだわ」
ルビアはその光景を想像してわくわくとする。死霊術師であるルビアにとって、戦は儲けるチャンスだ。
魂に対する攻撃を防御を出来るものは少なく、脆い魂や精神に干渉することが出来るルビアは、帝国の貴重な術師である。
「油断はするな。戦は最後まで何が起きるかわからない」
重いメイスを軽々と持ち、ギルナスはふぅっとため息をついて、昂る気持ちを押さえようとする。
数々の兵士を退けたという第二王子ティタンの話を聞いて、今から戦いが楽しみなのだ。
「どうせ皆死んじゃうのだから、さくっと逝って欲しいわね。皇帝陛下に逆らうのは許されない」
ぎゅっと杖を握りイシスは小声で呟いた。
皇女として皇族の末席にいる彼女にとっては、皇帝の命令に逆らうことも、疑問を持つことも許されていない。
帝国の皇帝、バルトロスは恐ろしい男だ。
目的の為なら家族すら駒にする、大国を治めるものとして容赦ない。
側近として動いている第一皇子アシュバンも、第二皇子シェルダムもそのような性格だ。
どちらが次の皇帝になるか、注目が集まっているが、いまだ決定打はない。
お互い次の跡継ぎを狙っている為、協力し合っているように見えて、本心はお互いを蹴落とそうとする事に余念がない。
だが、皇帝に仕える四人の戦士にとっては、後継者問題はどうでもいい事だった。皇帝にしか仕える気はしないし、興味はない。
命令通りにアドガルムを墜とす事に、全力を尽くすのみだ。