あの旅館を抜け出して、何とかあの巨大なショッピングモールへと辿り着いた三人。少しでも現状を整理したいがために、エヴァの案内でここまでやってきた。
しばらく動きっぱなしであった礼安にも、疲労の色が見えてきた。それを察知した
院は、礼安に語り掛ける。
「――礼安、とりあえず今は変身を解除してもよくってよ?」
しかし、礼安は一点を見つめ警戒を解くことはない。その視線の先には、こちらに音を立てることなく歩きながら、明確な敵意と殺意を向ける存在が。間違いなく、『教会』埼玉支部の関係者であった。
「少々、消耗しているようですが……そんな状態では我々埼玉支部の襲撃を耐え抜けるとは到底思えませんね」
冷徹、理知的。それがその男の第一印象であった。
きっちりとした漆黒のスーツを身に纏い、まじめな印象を与える七三わけ。さらに理論武装を常としているような職業の人間とは思えないほど、スーツを着ていてなお分かる引き締まった肉体。数多くの修羅場を潜り抜けてきた存在であることは想像に難くないだろう。
「そこまで死にたいのでしたら……この『教会』埼玉支部所属……および、壇之浦銀行課長、
「――皆を……守らなきゃ……!!」
咄嗟の変身、かつ二人を担いでの長距離移動。それに脳内を駆け巡る多くの謎が礼安の思考を鈍らせる。しかし、そんな中エヴァが礼安の目の前にかばうようにして立つ。
「――院さん。この連絡先の人のもとに向かってください。あれだけ緻密な作戦を立案、そして提供しましたが……急遽作戦変更です。今はこの場から逃げてください」
いくら
「大丈夫、私を信頼してください。『もう一つの策』は……あの私お手製の冊子にしっかり記してありますから」
その彼女の笑みを信じ、礼安の変身を無理やり解除させ、今度は院が変身し礼安を抱え戦線離脱するのだった。
「――よかったんですか? 見たところ……あの中で一番戦えるのはあの『礼安』とか言う方ですが……戦いを生業としている訳ではないのに勝算がある、と?? 実にありえません」
そんな鷺沼の理路整然とした罵倒を、鼻で笑って見せるエヴァ。
「――なあに、勝算無かったらこの場に残らないって。私だって……武器は武器でも、あらゆるものを職業柄創ってきたのでね」
手にしているのは、あの案件でも戦闘中見せた鍛冶用小槌。それでコンクリートの地面を叩き、それ自体を広範囲にわたって蠢かせ、目くらましをする。
「勝算が――その程度とは笑わせる!」
即座にチーティングドライバーを顕現させ、同時に起動。
『Crunch The Story――――Game Start』
「変身!!」
チーティングドライバーによって変貌を遂げた彼の姿は、一振りの刀を携えた和装の武人、それが各所歪んだ姿。顔部分の瞳はなく、代わりに口が酷く裂けていて、心臓部には現実じゃあありえないほど大輪の椿が咲き、両足は和モチーフの各所を否定するような鉄の義足。
デバイスドライバーで変身する英雄が、己の願いや欲望が具現化したプラスの力を表した姿なら、チーティングドライバーは当人のマイナス面が発露する、そう言われている。
『貴様がどれだけ足掻こうとも――』
鷺沼がそのコンクリートで出来上がった触手を荒々しく破砕すると、眼前の光景に言葉を失った。
「足掻こうとも――何が言いたかったかよくわからないけど……その後の台詞、恐らくだけど意味がなくなったかもね」
手にしているのは、丙良の大剣より少々小ぶりでありながら、金と銀の装飾があしらわれた一本の剣――それが二つ組み合わさった『デュアルムラマサ・Mark3』。それと……英雄科の人間のみが所持しているはずの、ライセンスが一枚。
何か良からぬ予感を察知したために、即座に距離をとる鷺沼。その表情は、驚愕の色に満ちていた。
『――貴様、嘘でもついていたのか? 武器の匠と名高い存在が……』
「嘘はついていないよ、あくまで『元』、ってだけ。『ある』事情があってね……まあその事情はここで語るのは時期尚早かも」
眼前の敵を打ち倒すべく、ライセンスを一対の剣に認証、装填するエヴァ。
『認証、ムラマサ放浪記! 著名な妖刀を生み出した刀工が、各地を放浪した結果己の内に視えたものは如何に!?』
「
一対の剣に分かち、その場に雷鳴とともに現れるは、英雄顔負けの装甲を纏ったエヴァであった。
「悪いけど――ここから先は納期マッハだから。