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第九十二話

 白球を、怪人をかすめるよう別角度に飛ばし、トリッキーにブレイクショット。その影響ではじかれたボールが怪人にクリーンヒットする。

 迫る怪人は背に受けたボールに仰け反りつつ、暴力的に迫ろうとするも、それを急速伸長したキューで顔面を捉える。

「このキューは、言わば『異聞』如意棒。ただのキューなんかじゃあない、誇り高い武器科所属のキュー兼如意棒だ!」

 怪人はいったん後方に退くも、それも透には予測済みであった。

「そらそうだよなあ……近距離で駄目なら遠距離だ」

 すぐさま白球を召還、一番のボールに向け飛ばし連鎖反応を起こし複数の球で襲い掛からせる。

 寸前に何とか避けるも、透は白球に細工をしていた。

「さらに、これは通常ルールのビリヤードなんかじゃあない。イカサマ上等、ルール無用よ!!」

 風の魔力を纏わせた白球が、バックスピンをかけながら怪人の脚部を正確に捉え、骨を砕く。

 うめき声を上げる怪人に、追い打ちの如く複数はじけるよう白球を打ち出す透。

 しかし、攻撃を繰り出す透には、ほんの少しの疑念が生まれ始めていたのだ。

(妙だ、俺らが強くなったにしては――――『敵が弱すぎる』)

 その予想を裏付けるかのように、数々のボールは避けられることなく、全て骨を砕く一撃としてクリーンヒット。

「――おかしい、全てがおかしい」

 ついに攻撃することをやめ、剣崎と橘に戻るようそれぞれの武器に語り掛ける。

「お前……誰だ。さっきから碌に攻撃も仕掛けず、精神汚染の影響か殺気だけはいっちょ前によォ」

 すると、その怪人は透に向け弱弱しく走り出したのだ。その眼前の存在に対して気味悪さが勝った透は、思い切り怪人の頬を殴り飛ばす。

 しかし、その拳に屈することなく、また彼女らの方へ走り出していたのだ。

「何だよ……攻撃の意思すら見せず!!」

 何度も、何度も容赦のない殴りや蹴りで応戦し、少しでも自分たちから遠ざけようと考える透。それでもなお、その怪人は彼女たちへ近づくことをやめない。

「俺らは敵だ!! 少しでも張り合う姿勢くらい見せたらどうだよ!?」

 力強い透の攻撃に、恐怖しひるみつつも、それでも近づこうとする怪人を、何とかしようと透は渾身の一撃を叩きこもうとしていた。だが、それに対し剣崎と橘の二人は気付いてしまったのだ。その理由に。

 すぐさま、二人は透の殴りぬこうとする腕を引き留める。それに対し、透は怒りを露わにする。

「何でだ、何で止める!!」

「「トーちゃん、凄く嫌な予感がするんだよ!!」」

 その二人の迫真の叫びに、胸中に膨らんでいた疑念が変質。次第に透の表情は青ざめていったのだ。絶対にその可能性だけはあってはならない、そう祈りに近い思考を持ちながら、変身を解除しつつ怪人の肉体を受け止める。

『――――エ……ャン』

「――え??」


『ト……オル……ネエ……チャン』


 怪人が口にしたのは、確かに『透姉ちゃん』という単語。この呼び方をするのは、間違いなく限られた存在である。行方を追っていた、弟や妹たちのうちの一人、最も年齢が高い弟である『青』であった。

「青……青なのか!? 何で、何でこんなことに……!?」

『ネエ……チャ……ン……ヲ…………スクイ……タカッ……タ』

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